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第二章.13

給仕として働いて早1週間、アルバイト自体は昨日で終わりだったので、異世界初の仕事は何とか捌き切る事が出来た。

特筆する事は特になかったが、強いて挙げるなら、5日目にこの世界で言う小学校の子供達が見学に訪れた時が大変だった事だろう。担当していたゴールドの3人は子供達の輝く瞳を受けながらギルドの事を色々と説明していた。

この時冒険者が怖くて泣き出してしまう子が例年おり、泣かせた冒険者は心にダメージを負う上に、仲間内でネタになると言う悲しい仕打ちが待っている。

で、泣いた子は子供好きなスタッフや引率の先生があやすのだが、今回は僕も担当する事になってしまった。


何故って? 折り紙である。


僕が休憩へ入る前に女の子が泣き出した事が全ての始まりだった。

それを見た僕はロッカーへ戻り、ポーチから紙を取り出すとその子の所に戻り、いくつか披露したのだ。

前にお世話になった商人夫妻のちびっ子達が大喜びしていた事から行けるとは思っていたのだが、効果は予想以上だった。

女の子に『お姉ちゃんみたいな女の人でも近寄れる、優しい人達だから大丈夫だよ。』と言うと、安心してスタッフの説明を聞くようになったのだが、その時に僕のズボンをぎゅっと握り、放してくれなかったのは大きな誤算だった。そっと近寄ってきた給仕仲間が『マスターからの指示で、そのまま付いていてあげなさいとの事です。』と耳打ちしてくれたので僕は苦笑しながら小声でお礼を言った。説明自体が終盤に入っていたのは幸いで数分もすれば解放してもらえた。ジナイーダさんがこちらに気が付き、クスリと笑った事が妙に恥ずかしかったのだが、足元でしっかりと話を聞く姿を見ていたらそんな事も忘れ、自然と優しい笑顔が漏れた。


説明を終えると次のグループに交代する形でどんどん進ん行ったのだが、新しい子達が来た時にピタリと注文が止むのは非常に助かった。

何故なら新たに泣く子が出る度、僕が突撃する事になったからだ。これは酒場のマスターから直接指示された事で断れなかったのだが、子供好きの僕はあまり困らなかった。幸い折り紙が効くので引き受けたのだが、これが使えなかったらと思うとぞっとする。泣く子は強いのだ。絶対子供の前でおろおろしていたと思う。

先程も言った通り、お客さん達が協力してくれた事もかなり大きいのだが、僕が出動する度に温かい視線を送って来て、正直恥ずかしくもあったのだが、そこは気合で耐えた。たぶん赤くなっていたと思う。


その日の終わりにアドリアーナから聞いたのだが、注文がタイミング良く止んだのは子供の世話する僕を見たかった為らしい。気持ちは分からなくもないが、そんな事で本当に凄まじい結束力を持ったと聞いて僕は少し危機感を覚えた。このギルド大丈夫だよね?

彼女から『自分達に向けられるものとは違う、心の底から送られる優しい笑みが見たかった。』というお客さんの言葉を聞いた時、僕は恥ずかしさのあまり『うあぅぅぅ』と悲鳴(?)を出し、真っ赤になりながら顔を覆った。苦笑して抱き締めてくれたアドリアーナは本当に良い子だと思います。

見学は午前中だけだったのだが、普段よりかなり疲れる結果となった。まあ、子供達が笑顔になってくれたので良しとしよう。

ちなみにロビーでの説明を終えた子達は訓練所へと向かったのだが、そちらから帰って来た冒険者仲間に話を聞くと、英雄は優しい冒険者のお兄さんをやっていたらしい。何があったのか聞いてみたいものだ。

余談だが、この日から給仕の女の子達にお姉ちゃんと呼ばれるようになりました。まったくもって遺憾である。


そんなこんなで色々と有ったが、冒頭でも言った様に、無事にアルバイトを終えたのだった。今は朝食を取り終えて、宿の部屋でゆっくりしている。今週は街の外に行けなかった事もあり、まだ1人部屋なのだが、もうこのままでもいいかなと思い始めていた。

「お前は働き詰だったから、今日と明日は休みにするか?」

「うん、お願いしていいかな? さすがに疲れた。」

親友の優しい言葉に迷わず頷くと、僕はベッドに転がる。

「はぁー、ワーカーホリック認定されてるけど、そんなことは無いし、こうした休みは大事だよねぇー。」

ベッドに召喚したルルに抱き付きながら全力で和む。モフモフが気持ちいい。目を細める所が可愛くて、つい力が入る。

英雄はベッドに腰掛けてチチリを撫でている。

「俺は遊馬を愛でたくて仕方ないんだがな。」

「真顔で言うな真顔で。正式に女体化したらちゃんと答えるから、それまで待て。」

呆れた様に溜息を吐いて僕は考える。

(こんな事昔なら考えられなかったな。こいつと付き合う将来か。相性は悪くないだろうから、結婚して子供が出来て・・・・って僕は何を考えてるんだ!?)

真っ赤になって悶えていると、後ろから心配そうに声を掛けられた。

「おい大丈夫か?」

「な、何でもないよ。」

声が上擦ったので怪訝な表情をされるが、何とか追及されずに済んだ。

(あー・・・・なるほど、これが女になるって事か。確かに少し胸が幸せになったな。)

深呼吸して英雄に声を掛ける。

「ねえ英雄、僕はかなりチョロイかもしれない。」

「ああ、知ってる。だから気を付けろ。この際それを回避する為でもいいから俺だけを見ていてくれ。」

親友のストレートすぎる発言に無言で頷くと僕はルルを愛でる事で気恥ずかしさを我慢していた。お願いだから今の顔は見ないでくれ。


それから少ししてマレフィお姉ちゃんから連絡が来た。内容は前にお願いしていたヤナギ周辺の危険調査だ。

『と言う訳で、私個人としては近づいて欲しくないわね。悔しいけど流石だわ。領同士で戦争を誘発させ、そのどさくさに紛れて自分の手の者を国内に放ち情報取集。実際はそれすら囮で、船が出ている他国に凄腕の調査員を飛ばしているの。私達が動いているから終戦は間近だけど、たぶん自分は引き上げて部下を残すつもりね。目標アスマを捕まえたら世界間を移動するはずだから、残されるのはさっき言った凄腕の連中だと思うわ。』

どうやらかなり面倒な状況の様だ。

「なあマレフィさん、前から思ったんだけど、なんでここまで干渉されているのに武神様達みたいな実力派が出ないんだ?」

僕もずっと疑問に思ったので頷いたのだが、よくぞ聞いてくれたと顔つきが変わる。

相当ストレス溜めていたんだろうな。

『実を言うと、アザルストにヤナギどころかこの世界を人質に取られているのよ。何とかしようと神々同士が戦うなんて事になったら大変な事になるわ。大き過ぎる力も考え物なの。あいつが自分の世界をもう少し大事に思っているのなら、やり返せたんだけど、そんな殊勝な奴じゃないから、今はあの馬鹿が動けない様に全力で牽制を掛けている所よ。』

僕達は重い溜息を吐く。

「気持ちは分かるが、諦めて欲しいもんだ。」

英雄がぼやき、僕は暗い顔をする。

「ごめんねフロウ、僕の所為で君だけじゃなくて君の国が・・・・」

そう言うと彼からも返事があった。

『気にしないでくれ姉さん。俺もさっき聞いたんだが、今は感謝してるんだ。』

その言葉に僕が首を傾げるとマレフィお姉ちゃんが溜息を吐いて答えてくれた。

『フロウの生まれた場所に戦争を仕掛けている所なんだけどね、アザルストが手を出さなかったら、厄介な超タカ派が主導権を握るところだったのよ。もしそうなっていたら貴方達に渡した物と同じ高ランクの魔道具で大破壊と大虐殺を行ったでしょうね。そこをあの男が暗躍する事で人対人の戦争まで被害を落としたの。私達は数年前に起こった大飢饉を回避する時に干渉していたから、これ以上手を出す訳にはいかなかったのよ。』

悲しそうに目を伏せる姉を見て僕は何も言えなくなる。

以前受けた彼女の講習で、神の力で無理矢理修正するのは大きな負担がかかると言っていた事を思い出したからだ。

力が有っても助けられない事が辛く無い筈は無い。それを聞いたフロウがまた語りかけてくる。

『実際その大飢饉を回避できなければ俺達は途轍もない被害を被っていたんだ。どっちにしろあの国が干渉して来ただろう。それをマレフィ様は救ってくれたし、アザルスト様は自分の狙いは有れども、俺達から見た最悪の形は避けてくれたんだ。だから姉さんが気にすることは無いよ。言い方は悪いが、姉さんが狙われてなかったら本当に危なかったんだ。少なくとも事実を知った俺は感謝してるよ、ありがとう。』

他人の不幸な事もあり、かなり言い辛そうだったが、予想外な感謝の言葉を送られて僕は目頭が熱くなる。

英雄が心配そうに覗き込んでくるが、フロウに言われたことを告げると、笑って抱きしめてくれた。力強い抱擁が今は嬉しい。

『コホン、まあそういう訳だからあの国に近寄るのは暫く止めておきなさい。』

姉が言外にいちゃつくなと言うのだがこいつは離してくれない。

「英雄、そろそろ―」

「遊馬、フロウは近くに行かなくていいのか聞いてくれないか?」

その言葉に、何故あの国に近づこうとしていたのかを思い出す。

『ああ、終戦に向かっていると聞けただけでも十分だ。マレフィ様は言わなかったが、今回の戦争は勝ちそうらしいから、もし行くとしても全てが終わってからで構わないぜ。』

弟分の言葉を聞いて僕は英雄に大丈夫と伝えると、彼は『そうか。』と頷いてくれた。

『だから遊馬君を離せと言ってるでしょうが!!』

姉の叫びにハッとなり体を引き離そうとして、しっかりホールドされる。

「おい。」

「いや、最近どんどん柔らかさが増してきてな。抱き心地が凄い癖になるんだよ。」

知るか!!

だがここで暴れても拘束が強くなるのは分かっている。諦めて放置しているとマレフィお姉ちゃんが真っ黒な笑みを浮かべた。それを見た僕達はそれぞれ別々の行動をする。

僕は全力で離れようとして、英雄は絶対に逃さない様に足まで使って確保してきたのだ。

「おい、これ絵面敵にも完全アウトだろ!!」

「うるせぇ、どっちかと言うと俺はするよりされたいんだぞ!! お前にだってわかるだろ!?」

「分かるからこそ、男にされて嬉しい訳ないだろ!! はーなーせー!!」

「なら今度、この形でホールドして来ると約束しろ!!」

「ふ、ふざけん―おいこれバックルじゃないだろ!? ってうわぁ、腰振るな!!」

「どうする? 約束するか?」

「する! するから放して!!」

漸く解放してもらった僕は荒く息を吐いて落ち着ける。

あぁ、どうしよう。昔から何度か似た様なやり取りをした経験で、つい約束してしまった・・・・・

「楽しみにしてるぞ。」

耳元で囁かれた言葉に僕は一筋の涙を流す。

哀しみに暮れる僕を他所に英雄はさらにどす黒いオーラを出す邪神に語りかけた。

「じゃあ、後は好きにしていいぞ。」

それを聞いて僕は勢い良く体を起こして1人と1柱を見ると、親友はそのまま扉へと向かい背中越しに手を振って部屋から出て行き、残った姉はオーラこそ消えたものの、嘗め回す様な視線を僕に送っていた。


BADENDが確定したかもしれない。


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