第一章.27
翌朝、朝食を食べ終わった僕達は部屋で昨日の話を続けている。
プラフィから能力を譲渡してもらうと、男の時ぐらいまで筋力を戻す事が出来た。まだ確認してはいないが魔力とかも上がっているだろう。
「だけどお前って元々非力だったから少ししか変わらないんじゃないか?」
「う、うるさい! 好きで非力になった訳ないだろ!!」
英雄に頭をポンポンと叩かれながら僕は言うが、相手にしてもらえなかった。
「それじゃあ俺の武器とお前の護身用具から買いに行くか。」
「オッケー。」
僕達はまず武器屋に行き、色々と見て回る。
「これより1つ上のランクになると・・・・少しきついな。」
英雄は真っ直ぐに両手剣のコーナーへ行き、色々と見比べていた。
「この後に揃える物が多いからね。でも主力になる武器だから妥協はしたくないのも事実だけど・・・・どうする?」
本当に欲しいのであれば僕達は買う事にしていたので、彼が頷くのであれば迷わず買うつもりである。
「いや、魅力的なのは認めるが、こっちで良い。これに前と同じレベルのブロードソードが有ればしばらくは十分だろ。」
結局安い方のバスターソードを選び、予定通り片手剣を1つ選んだ。
「次はお前のショートソードだな。」
「目利きは任せるよ。とにかく距離を取る為の牽制用だから安物で良いからね。」
剣の良し悪しなど全然わからないので選ぶのはお任せする。とは言っても、事前に相談していた通り見習いが作った安物と決めていたので、差はそんなに無いらしい。
それら3本を購入し、その場で装備する。選ぶときに重心や重さを吟味したが、しばらくはこれで大丈夫そうだ。英雄は大剣を背中に背負い、腰に予備を下げている。盾は今までの戦いでボロボロになっていたので引き取ってもらった。
「いいなー、僕もそんな高威力武器使いたかったよ。」
僕が悲しそうに言うと、笑いながら言われた。
「向こうにいる頃からパワーファイターに憧れてたよな。」
「そりゃあ色々とコンプレックスだったからね。プラフィのお蔭で補正が入ったとはいえ、元に近づいたぐらいであんまり変わってないし。」
僕が溜息を吐くと頭を撫でられる。
「威力特化には出来ないだろうけど、魔法の道が有るじゃねえか。」
「僕はアタッカー志望だったけどサポート要員に進化しちゃったから何ともね。まあそれは言ってても始まらないか。次は防具だね。」
そのまま隣にある防具屋さんへと足を運び商品を見て回る。
英雄は軽量の金属鎧一式を、僕は危惧していた重量問題を無事に解決できたのでレザー装備を一式買い揃えた。
お互いブーツとグローブが慣れなくて店を出た後に顔を見合わせて苦笑した。装備自体は服の上に着けているので着替える必要は無い。今まで穿いていた靴はボックスへ入れてある。
「違和感は有るけど、守られている安心感は凄いな。これで山羊程度の角なら弾けそうだ。」
「ここまで違うとは予想していなかったね。今までの服も魔力を込めて防御力を底上げしていたけど、専門の防具は別格だよ。」
僕達はついに装備が揃った事で、ようやくファンタジーの住人と慣れた事を、言葉に出来ない達成感として味わっていた。
「よし、最後はお前の魔道具探しだな。」
「うん、早速行ってみよう。」
魔道具屋さんは少し遠いのだが、僕達の足取りは非常に軽い。
初めてアイテムボックスの素を購入した店舗なのだが、あの時は買う物を決めていたのであまり商品を見ていなかった事もあり、今回は二人で色々と見て回った。
「へぇ、魔法の地図なんて有るのか。自分が通った所しか表示されないって夢があるな。」
「あ、通信用の魔道具だ。確かに今の僕達じゃ手が出ないね。目指せゴールドランク。」
「何度か通す事で水を綺麗にする魔道具もあるんだな。水魔法覚えられなかったら俺は必要かも。」
「魔力を通す事で障壁を張れるのか・・・・これ後衛の僕にピッタリかも。」
「ロイヤルガ○ドスタイルか。たしか電気を纏う敵に多用するとか言ってたよな。」
「現実であんなスタイリッシュに戦えるなら是非ともその道を選ぶんだけど、これはただのバリアだって。」
結局その壁を作る魔道具を購入して、宿へと戻った。
自室で装備を外し、幸せ一杯になった僕達は食堂で小さなお祝いをする。それでこの1週間の稼ぎは全部使い切り、財布は寒くなったが心が温かいので問題ない。
僕はまた眠ってしまったらしく、後半のことは全然覚えていなかった。
それから、さらに一週間の月日が流れる。
新調した装備を振るい、草原の魔物を効率よく狩る僕達はあっという間に今回の消費分を取り返し、ギルドの昇格試験を受けられることになった。
「こちらがEランクの試験内容となります、頑張ってください。」
ギルドの受付でエルフのお兄さんから依頼書を受けとる。
「森で毒草の採取か。」
「採取系は数回しかやってないから少し不安だね。とりあえず情報収集に資料室へ行こう。」
受付を後にして資料室に入る、今回は先客がいたが、こちらを気にする事無く自分の調べ物で忙しそうだ。
「あった、これだな。群生地は・・・・近くの森の中か。」
「浅い層とは言え、少しだけ深く潜らないといけないね。森だし警戒に力を入れないと駄目か。」
必要な情報を紙にまとめると、装備の点検を済ませて街の外へと向かう。僕も英雄も森の探索なので少し沈んでいた。
森は少し強めの魔物が増え、見通しも悪い。いくら地方出身とは言え現代人の僕らでは森歩きの事など分からない事ばかりなのだ。しかも数年に一度、高ランクの魔物に偶然出会い亡くなる冒険者が後を絶たない。
「森か・・・・運悪く囲まれたらどうしよう。」
「それもそうだが、お前はそれ以上にオークに気を付けろよ。この世界の奴らは他種族で繁殖する事は無いらしいが、人肉の中で女を好んで食べるから真っ先に狙われるらしいぞ。」
「もし詰んだら、必ず僕を殺してね? 生きたままは絶対ヤダ。」
「その時俺が生きていたらな。」
どうしても思考が暗い方に行くが、仕事なので頑張って割り切る。人が少なくなった所で僕は仲間を呼んだ。
「さーて、それじゃあ頑張ろうかルル、チチリ。」
僕の体からルルが勢いよく飛び出し、肩にゆっくりと灰色のフクロウが現れる。
チチリは先日呼び出した最後の召喚体である。ジナイーダさん監修のもとに行ったのだが、自分の肩に乗せて撫で回していた。
普段の使い魔が鳥だからか、扱いが上手く、非常に懐いていたので、飼い主として少し悲しくなったのは内緒だ。
「今回はこいつらがいないと達成できる自信が無いな。」
英雄は疲れた様に言ってルルの頭を撫でてあげると、尻尾を勢い良く振り、僕も肩に止まるチチリを撫でて索敵に放った。
彼らの先導で初の本格的な森林探索が始まる。
「はぁはぁ、結構体力使うね。」
「っく、足場が悪いってのが結構辛いな。」
森の中は非常に足場が悪かった。踏み固められた道が無いので足に少しずつ疲れが溜まり、所々顔を出す木の根に足を取られる。先ほど英雄がそれに足を掛けて倒れてしまい、足首を軽く捻ったのだ。僕の回復魔法で治る怪我で良かった。
「僕達はまだ楽なんだろうね。ルルとチチリがいなかったら物を地面に投げつけてるよ・・・・」
「まったくだ。ところで、正直に言ってくれ。どう思う?」
英雄の緊張した言葉に僕は生唾を呑む。実は少し前から森が静かすぎるのだ。ルルも頻りに周りを気にしている。チチリからの連絡は無い。僕たち全員がさきほどから魔物と一切出会っていないのだ。
「正直に言うとね、僕は帰った方が良いと思う。期限はまだあるからね。森での経験が無いから、これが普通なのか異常なのか判別できないよ。」
僕が顎に落ちてきた汗を腕で拭い答える。
「俺も同意見だな。はっきり言って静かすぎて怖い。慣れていないとは言え、もう少し早く気が付くべきだった。今日は引くか。帰って笑い話にでも―」
その言葉を遮る様にチチリが慌てて僕達の下へ飛んできた。
『マイティフォース』『イレイズサウンド』
僕は全員に補助魔法を掛ける。英雄はすかさずコンパスを見て街の方角を確認し、割れるとキツイ匂いを発しながら煙幕を張る逃走用の道具を足元に数個投げつけ、僕達は全速力で逃げだした。
「くそっ、間に合うかな!?」
僕は走りながら英雄を見る、彼の顔は恐怖に引き攣っている。僕も似たような物だろう。軽口を叩こうとしているのに頬が上手く動かない。
「わからん、とにかく走れ!! クソッタレ、いったい何が出てきやがるんだ!?」
後ろは振り返らない。ルルとチチリが先行して、僕達に安全なルートを教えてくれ、確かに感じる恐ろしいものを振り切る為ただひたすらに走る。
「ハァハァ、ねえ、これってやっぱり。」
「ああ、ツイてねえな。狙いは俺達だろう。あと少しだ、がんば―」
『―――――――――――!!』
英雄の声を遮るように、凄まじい咆哮が森の中に響く。
明らかな強者の声に僕達の背中をゾクリと黒い何かが走る。それが明確な死の気配だと気が付くぐらいには実戦経験が出来ていた。
「走れええええええええええええええええええ!!」
「うあああああああああああああああああああ!!」
英雄が叫ぶ。僕も止まりそうになる足に気合を入れる。ここまでペース配分など考えず、全力で逃げて来ているのだ。体の中が爆発しそうになる。
僕達の声はお互いを鼓舞し合い、次の一手への力に変える。ルルとチチリがその声を聞いて、竦む体を動かした。
(生きるんだ、こんな森の中では死ねない。生きるんだ、まだこちらで1ヶ月しか生きていない。これじゃあ向こうに残った方がマシだ。そんなの僕が許すものか。生きるんだ、目の前で親友を死なせるものか。生きるんだ、生きるんだ、生きるんだ!!)
『―――――!!』
また後ろから咆哮が聞こえる。まるで僕達の声を打ち消すように、漲らせた力を叩き潰すように、必死に逃げる獲物を嘲笑うかのように。
その声を聞いて僕達は確信する。間に合わないと。仮に平原へ出る事が出来ても、こいつは諦めないだろう。
それほど近くで、力強く声を上げられたのだ。僕と英雄の顔が歪む。それでも僕は声を絞り出し、前を走る親友へ声を掛ける。
「ふぅふぅ、英雄、装備を捨てて走れ。このままじゃ全滅だ。お前の体力ならあるいは・・・・重い装備は捨てて早く行け。」
そう、本来であればこいつはもっと早く逃げられる。命が掛ったこの状況で、わざわざ僕と言う荷物を背負う必要は無い。これは冒険者となった日、一緒に決めた事だった。最悪の場合はどちらかが生き残ろうと。
「っはぁ、ルル達が居ないと帰り道が方角しか分からないんでね。お前もセットでなきゃ困る。」
見え透いた嘘を吐く。コンパスは二人とも持っている。ここまで来られれば魔物はほとんどいない。後は街道側に走るだけでいい。もう先導は必要ないのだ。
「うぅっ、馬鹿言うなよ。約束しただろ?」
もっと言いたい事が一杯有る。たった一言で良い、付き合ってくれた事にお礼も言いたい。だが込み上げる吐き気が言葉を止める。
「っく、ほら、無理に話さないで走るぞ。それにあの日決めたのは切り捨てるだけじゃなかっただろ? 可能性が1でもあるなら、全部賭けてみようってさ。」
自分も苦しいだろうに、友人が出す明るい声を聞いて僕は目頭が熱くなる。
「うっ、わかったよ。ありがとう、一緒に切り抜け―」
『ゴオオオオオオオアアアアアアアアア!!』
僕の声はついに追いついた化け物が掻き消す。
覚悟を決めて二人で振り返る。振り返らなければ良かった。
僕達の顔は絶望に染まる。それは講習でも要注意として挙げられ、冒険者の先輩達や魔物は専門外である傭兵の人達からも聞かされていた厄ネタだったからだ。
現れたのは凄まじい巨体を持ち、全身を赤い毛で覆った熊で、鋭い爪と牙が見える。荒い息を吐いて立ち上がり獲物を数える様にこちらを見下ろす。体長は3mほどだろうか。
「レッドベア・・・・」
僕は震える声でそう紡ぎ、生きる為に腰の剣を抜く。膝が笑っている、歯がガチガチとぶつかりあって噛み締められない。
僕の前に英雄が進み背中のバスターソードを構える。後ろから見る姿はとても逞しく、そして震えていた。
共に戦おうとルルが英雄の隣に歩み寄り、遠吠えを上げる。ルルなりに気合を入れようとしたのだろう。盗賊と戦った時とは桁の違う力強さが籠っている。チチリも準備万端と木の枝から飛び掛かる準備をしている。
「遊馬、今のうちに言っておく、ありがとう。そして生きるぞ、ここは剣と魔法の世界だ。それなら奇跡だってあるさ。俺達には女神が付いてるんだ死後の事は安心しようぜ。」
英雄がそう言って深呼吸をする。
辺りの確認が出来たのだろうレッドベアは4足歩行に戻り、僕達に敵意を向けてくる。
「折角森の奥から出て来てくれたんだ、僕達で出来る限りもてなそう。」
僕の言葉に皆が頷く。英雄の雄叫びと同時に、戦いは始まった。




