第一章.26
ギルドでの買い取りを済ませ、宿へ帰るとご飯を食べて自室に行く。
「何で皆あんなにお酒を勧めてくるんだろうねー」
僕はほろ酔いになりながらベッドへと倒れ込む。
一週間前からだろうか、何故か顔見知り達が必死にお酒を勧めてくるのだ。流石に露骨すぎて怖く、今の所は全て断っているのだが、今日は『ほら、失敗ばかり責めても仕方ないだろ? 飲んで発散しようぜ。』という親友の温かい言葉からいつもより少しだけ多く飲むことにした。
「何でだろうなー。ほら、シャワー浴びなくてもいいのか?」
「んー、そうだね。先に浴びさせて、でないと寝ちゃう。行こうかプラフィ。」
ぽやぽやと笑いながら着替えを取り、彼女と一緒に浴室へ向かおうとして止まる。
「ねえねえ英雄、最近抱き締められるとドキドキする事が有るんだけど、僕ってチョロイのかな? どう思う?」
僕が首を傾げると英雄の目が怪しく光る。
「それを男の俺が分かる訳ないだろ。でもそう思うなら俺以外には抱かれないようにしろ。実際にチョロくて悪い男に引っ掛かったら目も当てられないぞ。ほら、浴びてこい。」
そう言ってベッドに寝転がったのを見届けて僕は部屋を後にした。
「おーし、上がったぞ。まだ起きてるか?」
「うん、バッチリ起きてるよ。」
英雄も上がって来たので二人でベッドに腰掛けて明日の事を話し合う。話を出来るぐらいには酔いも覚めた。
「この1週間弱で貯金も結構できました。」
「うむ。頑張ったからな。」
手に持つ財布を見て僕達は笑い合う。
「いい機会なので装備を新調しましょう。」
「バスターソード買っても良い?」
英雄が凄く物欲しそうな顔をしている。僕も鬼じゃないし、戦力アップは大歓迎だ。
「うん、頑張ったから良いよ。金額にもよるけど、予備に片手剣も1つ買ってね。」
僕がそう言うと、こいつは嬉しそうに頬を掻いて言う。
「なんか熟年夫婦の夫が大きな買い物を相談してるみたいだな。」
「熟年夫婦か・・・・長い付き合いだから、お互いに売れ残ったらそれもありかもね。と言っても英雄が嫌がるだろうけど。」
僕が苦笑して言うと親友の目が据わる。
「そ、そんなに怒らないでよ・・・・ちょっとした冗談じゃないか。分かってるよ。僕は元男だし、異世界でもお互いに恋人無しなんて悲しすぎるからね。絶対に良い人を見つけよう。」
「・・・・ああ。」
そうだよね、異世界にまで来て出会いが無いなんて悲しすぎるもんね。英雄もそう思うのか項垂れて、重い溜息を吐いている。
「ほらほら、元気出して。とりあえず明日買う物の優先順位はどうする?」
「ああ、まだチャンスはいくらでもあるからな。とりあえず、武器だな。これが無いと俺は何も出来ん。」
その言葉に僕も頷く。魔力を込めた素手でもある程度戦えるらしいが、空手や柔道の様な無手術を学んだ訳では無いので『緊急時以外は使いたくない』と言われた。というか対人間の技は魔物にどれぐらい有効なのだろうか?
好きだったRPGに出てくる仲間が投げ技主体の所為で大型の敵が増える後半で全く役に立たなかった事を思い出す。彼は性能の事も相まり、よくネットで緑色の服を着た仲間と比べてネタにされていた。
「英雄の服に角が当たりそうになった時は怖かったよ。金属製じゃなくていいから、最低限の防具もそろそろ揃えようよ。」
「ああ、あれは本気で冷えたからな。しっかり揃えよう。お前の装備はどうする? 杖か剣か、皮鎧かローブか。」
英雄が顎に手を当てて考えている。
「うーん、見習い作のショートソードは決まりだけど、杖は少し悩むね。攻撃魔法が使えると言ってもメインではないから補助の魔道具って手もあるし。」
そうなのだ。杖は純粋に威力を上げてくれるが、戦闘用魔道具なら汎用性を上げられる。前にジナイーダさんの魔道具を借りて使ってみると、当時の僕でも温風や洗濯が出来たのだ。選択肢としては有用だろう。ちなみに今は自主練の結果どちらも出来る。
「防具は悩むんだよなぁ。男の時なら間違いなく皮鎧か軽鎧だったけど、今の僕にローブ以外が装備できるのかが不安でならない。重くて動けなかったらどうしようもないからね。」
僕は二の腕を指で突つき、英雄に見せると苦笑された。
「最悪はローブだな。」
「そうだね。無いよりましだよ。それに戦闘用の物であれば普通の服よりは防御力もあるか。」
諦めながら僕は笑うと、ポーチの中から呼び出し音が鳴る。
「マレフィさんか? ああ、良いよ俺が出る。」
英雄が外した装備の中から通信用魔石を取出し電話に出ると窓が浮かび上がる。
「ふふふ、話は聞かせてもらったわ。装備でお悩みみたいね。」
マレフィお姉ちゃんが腰に両手を当てて前屈みになっている。あざといけど実際に可愛いから困る。
「今回は遊馬君の非力を何とかしようと思って連絡したのよ。ずっと使ってくれないから見ていて勿体なくてね。」
どういう事だろうか? 今の言い方では方法が有ったという事だ。僕達は本当にわからなくて首を傾げた。
「ねえ、初めてフラッシュゴートを倒した時の事を覚えてる?」
僕達は頷く。
「ああ、覚えてる。俺とルルに補助を掛けてもらい、ルルに力を譲渡して挟撃したやつだよな。あれがどうかしたのか?」
英雄がそう言うとマレフィお姉ちゃんは良く出来ましたと微笑んで答える。
「そうそう、じゃあ、ルルやプラフィの力を遊馬君に送った事があったかしら?」
右の人差し指を立てながら僕達に聞いて来たのを見て僕達は首を傾げる。
「まあ、あの時は急だったし、そこに行く前も行ってからも大変だったから、忘れちゃってもしょうがないか。2人は完全に忘れているけど、あの能力は逆も出来るってちゃんと説明に書いてあったのよ? 試してみなさい。」
はっきり言って全然覚えていないので僕は待機状態のプラフィに力を送るようにお願いする。
「あれ?なんか体が軽くなった。良く知らないけどプラシーボ効果?」
困惑して英雄を見ると半信半疑の眼差しを向けてくる。それを見たマレフィお姉ちゃんが溜息を吐いた。
「ちゃんと実際の効果よ。貴女は契約相手へ力を送る事と、相手から貰う事が出来るの。協力してくれる子によって幅が有るけど、治療とか自己回復に長けた子ならシャドウハ○ツのOPみたいに斬り飛ばされた腕を、そのまま繋げる事も出来るわよ。」
「「 !? 」」
この日、僕の体中に凄まじい電気が走った。彼女は、あの無造作に治すという男の子なら1度は憧れる格好良い治療が出来ると言うのである。
ハイポーションや中位の回復魔法ではなく、素敵性能と浪漫を武器に出来るなら是非試したい。
それに今の話だと、力自慢に手伝ってもらえば彼の様に鷲掴みにした相手を握り潰す事も可能だ。もしかして走行中の乗り物からも飛び降りられる?
僕は期待の籠った目で姉を見る。何を言いたいのか理解してくれたのだろう。
「フュ○ジョンは無理だけど、あれぐらいなら余裕で可能よ。だけど貴方達も知っての通り、戦闘に対する才能は無いから限界がある事は覚えておきなさい。」
英雄が羨ましそうに僕を見る。
やった、僕にも輝ける未来が―
「ただし気を付けないと駄目よ。今の技量だとそこまで化け物になるのは無理だし、使える以上の力を受け取ったりしたら体が爆散したりするからね。その程度なら治せるけど、最悪廃人になるから注意する事。
知り合いに『きょんにちょわ』とか挨拶したくないなら用法用量をしっかりと守るのよ?」
それを理解して、冷や汗をダラダラと流しながら縋るようにマレフィお姉ちゃんを見る。
「貴女の事だから最悪の場合は使うだろうけど、格好良く死ねるとは思わない事ね。英雄君、絶対にそこまで追い詰める状況にしちゃ駄目よ。それじゃあね。」
僕が自分の力に怯えているとお姉ちゃんは電話を切ってしまった。
正気を無くしてこいつに襲い掛かるなんて嫌だ。
「なあ、頼むから使い間違えないでくれよ? お前がそんなになったら俺本気で泣くからな。自重してくれ。」
そう言ったこいつの目は真剣だった。僕は強く頷く。
親友のトラウマになりたくはない。土台になるのは構わないが、足枷にはなりたくないのだ。
「分かってるよ。それにルルもプラフィも賢くて優しいからね。僕が頼んでも断るさ。でも英雄、僕を守る為にお前がボロボロになるのも無しだからね。暫くは二人でゆっくり歩いて行こう。」
その言葉に彼が頷くのを見て、息を吐く。
そうしていると英雄の前に現代で見たのと同じSFチックな薄い青色の情報版が現れた。
「あれ?僕には来ないね。大事な事?」
わざわざ英雄限定に送られてきたのだ。聞くような野暮はしないが、気になる物は気になる。
「マレフィお姉ちゃんの事だから、前に飲んだ時の映像とかだったりして。」
僕がそう言うと親友がビクリと震えた。
「英雄?」
僕は不安になり彼を見る。もしかして大事な事とか不味い事でも書いてあったのかな。
「そ、そんな訳無いだろう? お前は酔って寝ていたのに、映像なんて送っても仕方ないじゃないか。これは、その、お前が無理しない様に気を付けろってメールだよ。無理させたら怖いぞって脅しが書いてあったのさ。文面が怖くてちょっと驚いただけだ。よし、今日はもう寝ようぜ。精神的にも疲れただろ? 明日残りを詰めよう。」
見るからに怪しい。顔は向けているが、こちらに視線を合わせてくれないのだ。
(あの様子ならたぶん僕の寝顔の写真とかだろう。まったく、もう少し上手く隠せ。しかし僕の寝顔なんてそんなに貴重か?ってこっちに来てから英雄が僕より早く起きた事って数える程しかないのか。まあ、こいつなら持っていても良いかな。見慣れているだろうし。)
僕はそう当たりを付けて寝る事にした。
(寝たな。よし、行動に移ろう。)
俺は遊馬を起こさない様にそっとベッドから降りると連絡用魔石を取り出し、メールの内容を思い出す。『先週の飲み会は良くやったわ。みんな大喜びよ。以前相談を受けた、魔石の改造がようやく終わりました。後で映像のコピーを送るわ。魔石を使えば再生できるから気付かれないように見てね。イヤホンが無いから音には気を付ける事。次もよろしく頼むわよ。
それと平原で押し倒した時の映像も付けておくわ。
バレて信用が失墜する事を祈っています。』
俺は鼻で笑い、石に魔力を込めると、動画の項目が増えていた。少しでも音漏れを防ぐために脱衣所へ向かう。そして動画を再生するといつもの窓枠が広がり、そこには前回のデレデレな遊馬が多様な角度から映されていた。うむ、幸せである。
動画を堪能していると、ドアがノックされて俺は驚く。エロ本を読んでいる時に両親に呼びかけられた時の様に冷や汗を掻き、鼓動が速くなる。
俺は咄嗟に動画を停止して画面も同時に消えたことを2度確認した。
(聞こえていたらその時だ。聞こえていなかったら水を飲みに来たとか誤魔化そう。)
俺は一度深呼吸してゆっくりとドアを開けるとそこにはプラフィが立っていた。
彼女は俺を見て頷き、俺もニヤリと笑う。
共犯者を招き入れ、俺達は静かに続きを楽しむのだった。




