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第一章.22

なんとか野盗を片づけた僕達は皆とクルイローを目指していた。

この襲われた一家なのだが、何と僕達が初めて街に着いた時に前に並んでいた商人さんだったのだ。

僕も英雄も覚えていなかったのだが、子供が僕達を覚えていたのだ。なんでも黒髪だったので珍しく覚えていたらしい。僕と英雄は本来依頼を受けた人間ではないので、兄妹と一緒に荷台に乗っていた。夫婦は御者台に座っている。あんな怖い目にあっても普通に旅を続ける当たり、この世界の住人は逞しそうだ。

ちなみに僕はともかく、英雄は初めての人殺しだったのだが『1人目を斬るまでは確かに忌避感もあったんだけど、いざやってみるとそんなに・・・・というか顔も覚えていない。』そうだ。

今は剣の手入れをしている。顔色も悪くなく、体が震えたりもしていない。戦闘狂だからかと僕は心配するのだが、後で話を聞くことで一度落ち着く。

商人の男の子は傭兵の皆さんと一緒に歩いて尊敬の瞳で見つめていた。

ベテランの人達は慣れた感じだが、僕達と同じ初心者のチームは気恥ずかしそうにしている。

女の子は僕の隣で興味津々に手元を見ていた。


「はい、出来た。これが鶴だよ。」

そう言って、折った物を渡してあげると大喜びしてくれる。

僕は襲撃で売り物にならなくなった紙を使って折り紙を披露していた。

外国人に折り紙を見せると大喜びしてくれるらしいが、どうやら大成功の様だ。これだけ喜んでくれると素直に嬉しいです。

そこへ傭兵の指揮を執っていたエフィムさんから声が掛る。

「凄いもんだな、紙1枚でここまで作れるものなのか・・・・」

彼は純粋に驚きから目を見開いていた。隣にいた男の子も気が付いたのか、妹の持つ鶴をジーっと見ていた。僕は笑って『もう1つ作ろうか?』というと嬉しそうに目を輝かせる。それを見た他の皆も笑っていた。

アキムさんも寄ってきて何気なく言う。

「子供の相手もそれだけ出来るならいい嫁さんになりそうだな。10年後は男達に言い寄られて大変だぞ?」

ボリスさんもうんうんと頷いていたが僕達は苦笑いをして答える。

「10年後は僕33歳ですよ? 20代の内には結婚したいです。」

そう言うと、僕たち以外はみんな驚いていた。

「俺達はこの国だと若く見える所為で、何処に行っても似たような反応をされるんですよ。」

と英雄が笑う。

エフィムさんが

「23って俺達とほとんど変わらないじゃねえか。あっちのチームなんて全員10代なのに。」

その言葉に予測はしていたが僕達も驚く。そうか10代なんだ・・・・若いっていいな。

そうやって会話をしているとクルイローの城壁が見えて来て、皆で列に並ぶ。


ちなみにルルは戦闘後に返り血を洗ってあげて待機状態にした。

傭兵の人達が聞いてこなかった事に僕達が不思議そうにしていると、アキムさんが教えてくれた。傭兵の相手は人間が多い事から手の内は極力明かさないらしい。今回は僕が明らかに普通の魔法と違うものを使っていたから皆聞かないでくれたそうだ。傭兵の魔法使いさんはこちらへと熱烈な視線を向けていたが、仲間に連れて行かれ、死体はアンデット対策と疫病対策に、全てアキムさんが焼いてくれた。


門で身分証のチェックをされる時に僕は動けなく、荷物確認の衛兵さんにプレートを渡す事で通してもらう。理由は子供達が僕にもたれ掛って寝息を立てているからである。衛兵さんは苦笑して、2人を起こさないように臨検を行い、問題ない事を確認すると通してくれた。馬車の状態やエフィムさんの報告で野盗に襲われた事を知っていたので対応も軟らかかったのだろう。

街の中に入ると商人さんは僕達にプレートを出すように言い、1枚の紙を取り出すと、お互いを見ながら何かを書いて行き、終わると2つとも僕達に渡してくれた。

これをギルドの窓口に持って行くと、今回の護衛を仕事として数え、紙に書いてある金額の通り報酬をくれるらしい。プレートのナンバーを控えているので間違いはないそうだ。

僕達はそれを有難く頂くと、眠っている2人を起こさない様にそっと皆と別れた。奥さんが手伝ってくれなかったら抜け出せなかっただろうな。


その足でギルドに向かい、受付のお姉さんに紙を渡すと驚いた顔をされた。

「お二人とも凄いですね、商人の護衛はブロンズへの依頼として受理されるものですよ? さすがイヴァンさんとジナイーダさんのお弟子さんです。」

と言って事務手続きを終わらせ、報酬を出してくれた。それを受け取ると特にやる事も無かったので宿へと帰る事にした。

ご飯を食べ、2人ともお風呂に入って一息吐いた所で改めて話をする。

「ねえ英雄、本当の本当に大丈夫? 気持ち悪かったりしない?」

僕が眉尻を下げて心配すると、そのまま英雄に抱きつかれてベッドに2人で倒れ込んだ。

(うぇ!? ちょ、ちょっと、まさか、このままするつもりなの!? 人を殺したことに怖がって抱きつかれたりとか、匂いを使ったりするのは考えてたけどこれは!!)

「ひ、ひでぉ?」

僕は顔を真っ赤にして蚊の鳴くような声を出し、不安そうに上を向くと、少し意地悪そうな見慣れた親友の顔があった。

「ん?何を考えていたんだ? 安心しろ、今の所これと言った事は考えてねえよ。良く聞く、殺めた感触ってのは残っているけど、前にフラッシュゴートを狩った時とあんまり変わらなかった。でも香りは楽しませてくれ。」

最初は意地悪そうな顔で言い、途中は真顔だったが、最後はとてもスケベな顔をしていた。

「う、うるさい! 離せ!」

僕がジタバタと暴れるが腕の力を強くするだけで決して離そうとはしなかった。僕は諦めて力を抜き、好きなようにさせる。こいつはそのまま僕を抱えて布団に潜り込む。タイミングよくお風呂から出てきたプラフィがこちらをみて『あらあら』と言った感じで微笑み、鍵を掛けて灯りを消しルルと一緒に待機状態になった。

あれ?僕って今かなり危険なんじゃない?

そーっと英雄を見上げると、疲れていたのか香りのせいか既に寝息を立てていた。それを見て僕も安心して寝る事にする。


次の日の朝はプラフィが起こしてくれた。確かに朝美人さんに起されるのは良いね。

顔を洗い着替え、英雄を起こす時に悪い夢を見ていないかと思いか顔を覗き込むが、凄く幸せそうな顔をしていたので僕は項垂れた。

親友を起こし、彼の準備が終わった所で僕は驚愕の真実に気が付き英雄に言った。

「ね、ねえ英雄。僕さ、昨日英雄に抱き枕にされたのに、忌避感を抱かなかった・・・・女物の下着にもだ。近い将来僕は女になるんだね。」

そう言って困ったように笑いながら英雄を向くと、頬を赤くしてそっぽを向かれた。流石にストレートに言うのは恥ずかしかったのかな?

まあいいや。とりあえずは朝ごはんにしよう。


マルコヴナさんに挨拶し、いつものように息子君に案内されて食堂のカウンター席に座っていると女将さんに声を掛けられた。

「聞いたわよ。あんた達、昨日は大変だったんだって?」

その情報の速さに僕達は純粋に驚いた。

「俺達は少し手伝っただけ、なんですけどね。」

英雄が言うと後ろから声が掛る。

『馬鹿言うな、お前たちのお蔭で俺達の可愛い後輩が死なずに済んだんだ。本当にありがとな!』

『エフィムの奴も喜んでたぜ。冒険者から引き抜きたいって言ってたぐらいだぞ。もっと自信を持ちな!』

『ヒデオ、冒険者に飽きたら俺の下に来るといい。たっぷり可愛がってやるぜ。』

『アスマちゃんは、お兄さんが責任を持って大切にするよ。だから安心して俺の膝の上に―』

『てめえ、抜駆けすんじゃねえ!! あの子はうちの息子に―』


僕達は後半からは無視して食事をとった。息子君が複雑そうな顔をしていたのだがこういう話は嫌いなのだろうか?見た目も草食系だし。

後ろから聞こえるBGMが『僕と○○するのは~』と色々アウトになってきた頃に食べ終わった僕達は迷わず部屋に戻る。宿のカウンターにいるマルコヴナさんからの視線は温かかった。このエロ親父、本当に女将さんに言い着けてやろうか・・・・


部屋の鍵を閉めて僕達は溜息を吐き、切り替える。

「さて、今日の予定はどうしようか?」

「俺はお金を稼ぐのに一票だな。護衛の報酬を全部使えばアイテムボックスが一気に大きくなる。無理をしなければ狩れる事は分かったし、袋の拡張と、違う種類の肉用にもう1袋を作るべきだと思う。山羊1頭であの金額だからな。あと数頭狩るだけでも相当な収入だ。余裕が有れば装備だな。」

その言葉に僕も頷く。英雄にもそろそろレザーアーマーぐらい着けて欲しいのだ。今回の斬り合いを見ていて僕は怖かった。実際何度か切られていたし。すべて自分で治せる小さなものだから良かったが、対応できない傷を負ったらと何度もぞっとした。

「欲を言うなら、イヴァンさんからも言われていたんだが、予備の剣が1本欲しいかな。最低限はお前用のショートソードだ。」

その言葉に僕は顔を上げる。

「さすがに早くない? まだナイフで充分だと思う。」

「俺も最初はそれで良いかと思ったんだが、人間を相手にして思った。お前は体格が小さ過ぎるから、いざ接近戦になるとリーチの関係で相当キツイ。距離を取る牽制用だとしてもナイフじゃ短すぎる。」

確かに荒事に慣れた相手に使い方を覚えた程度の僕ではマズそうだ・・・・

「そうだね、それで決まりかな?」

方針をこれに決めた僕達は頷き合い、まずはアイテムボックスの強化に商店へと向かった。


買い物も終わり、僕達は街の外でルルを筆頭に獲物を探していた。

「しかし運が良かったね。」

「ああ、まさか昨日の商人さんがボックスの素を販売しているとは・・・・」

商店街に足を運んだ僕達は色々なお店を物色していると、偶然昨日の商人夫妻に出会ったのだ。

彼らが店を開くのは明日からだったそうだが、商人魂を発揮して僕達が探している物を聞き出し、安く売ってくれたのだ。報酬として払ったお金が自分の所に利益を出しながら帰ってくるのだからお互いにありがたい話である。イヴァンさん達に聞いていたが、こういう事は良くあるそうである。中小規模の商人はこうやって顔を広げていくそうだ。

お蔭で予定より広く袋の拡張が出来た。

予算は全て拡張に使ってしまい、装備までは手が出せなく終わったのだが、あまり気にしていない。

帰る時に子供達から泣いて引き留められたのだが、ギュッと抱きしめて別れた。


「さーて、今日は何が出るかな?」

「折角だから袋一杯にしたいね。でも慢心せずに行こう。」

「おう、それじゃあルル、今日もよろしくな。」

ルルの頼もしい声を聞いて僕達は歩き出した。


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