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第一章.21

俺は傭兵ギルドに来ていた。休暇も終わったのでいつも通り仕事を探しに来た所だ。

本来、傭兵や冒険者はギルドを通さなくても依頼を受ける事が出来る。だが効率よく仕事を受ける為や、ランク付けによって単純に名声を得易いので登録する奴は多い。俺もその1人だ。それにギルドを通した依頼であれば、報酬を踏み倒されない。俺も昔痛い目を見た。傭兵には俺の様な団に入っていないフリーは珍しくなく、似たような連中が皆で仕事の取り合いをしている。

俺の名前もそこそこ売れだして、昔と違ってだいぶ余裕のある日々が遅れる様になってきた。そんな事を考えていると、何度か協力した事のある男から誘いを受ける。

「おーい、エフィムさん。商人護衛の仕事が有るんだけど加わりませんか? 丁度あと1人なんですよ。」

男は張り紙を俺に見せ、一緒に受ける予定のもう1人を連れてきた。

「アキム、ボリス、お前たち二人だけか? 前にいたもう一人は?」

俺は依頼書を持って来たアキムに聞く。するとこいつは悲しそうな顔をして俯き、代わりに後から来たボリスが答えた。

「あいつはこの間の仕事で大怪我しちまったんです。命に別状はないし、後遺症も残らないので復帰は出来るんですが、今は医者に止められて療養中ですよ。」

(なるほどな、それで抜けた穴に入ってくれという事か。)

俺達の界隈じゃよくある事だ。

「報酬はちゃんと山分けだぞ? しかしアキム、無事ならそんなに落ち込まなくても良いじゃねえか。」

何かあるのは見ればわかったが、気になったので声を掛けてやると、またボリスが答えた。

「じつは今回の怪我、こいつを庇って負った傷なんですよ。だからこいつ責任感じちまって。向こうは気にするなって散々言ってるのに、こいつときたら・・・・」

ヤレヤレと首を振ったのをみてアキムが食って掛かる。

「う、うるせえ! 俺の油断でやっちまったんだ。気にしない訳ねえだろう。」

最後の方では、ばつが悪そうに顔を背けた。

「分かった、分かった。反省はしているようだし俺からは何も言わねえよ。助けられた分だけ助け合え。」

俺はそう言って、頷いたアキムを見て安心すると、依頼書に目を通す。

(あんまり深く考えすぎて精神的に参る奴は多いからな、こんな所で潰れんじゃねえぞ。さて、依頼内容は商人の護衛らしいが・・・・)

どうやら自分達意外にも別のチーム(4人)が付くらしい。目的地はクルイローでここから約1週間だった。俺は一緒のチームが全員初心者なのを見て少し不安に思ったが、こういう卵を育てるのも俺達の仕事なので頑張る事にした。初心者でもギルドに入ったなら講習を終えた奴なのである程度は使える。10年前、俺が入った次の年から始まったので正直羨ましかった。まあ、初心者以外も受けられるのでしっかりと全部受けたのだが。


俺達3人は打ち合わせをして別れた。それから数日後に街の入り口で護衛対象の商人と出会い挨拶をして仕事の話をする。予定通りこの商人一家と馬車の護衛だそうだ。

商人夫妻と子供が2人で男の子と女の子だ。街へ帰る所らしく、積荷はかなり少ない。良い依頼主で、休憩時には荷台にも乗せてくれるそうだ。士気の上げ方をよく知っている。

今回は別のチームに女の傭兵がいるのは正直助かった。命の危険があると言っても、それが迫らないと男では動き辛い事が有るからだ。良い相手だけに失敗はしたくない。

実際、話を聞かないで死んだ馬鹿も多い。請け負った側もいい迷惑だ。

初心者チームについては大丈夫そうで安心した。26にもなると、若手の育成が楽しくなる時がある。自分が少し教えた事のある奴が噂で活躍した事を聞くと嬉しくなるもんだ。駆け出しの頃には思いもしなかった。こいつらにもいい経験を積ましてやりたい。


街を出発して暫くは全く問題が無かった。初心者連中は俺の事を知っていたみたいで、仕事のコツや心構えなどを教えながら街道を歩いて行く。偶に襲ってくるのもゴブリン程度で手本を見せてやり、残りは若手の練習材料にしたぐらいだ。アキムとボリスも色々と教える事で懐かれていた。俺達は昔の自分を見ているようで少し気恥ずかしいが、いつもの事なので我慢した。

護衛の男の子だが、やはりこういうのが気になる様で、目を輝かせて俺達に付いて回る。まったく、可愛いもんだ。


そして最終日の昼前になって嫌な感じがした。アキムとボリスも同意見の様で、俺達は全員に警戒しろと伝え、足早に進んだ。

案の定出てきやがった。野盗どもだ。飯の種だからと言って許すつもりはない。こいつらのお蔭で泣いた連中を腐るほど見てきた。俺たち傭兵の鉄則は『野盗は必ず殺せ』だ。女の護衛対象が攫われて、無残な姿で見つかった時は死にたくなる。

俺達は商人の馬車を急がせ、弓や投石で相手を牽制しながら街道を進んだ。

これは囮だと言い聞かせる事で魔法使いは温存する。

荷物を積載して足が遅いとはいえ馬車がいるのに相手が馬を持っていないなどあり得ない。そう思っていると正面から馬に乗った野盗が2人現れ、こちらの馬車を狙って攻撃してきた。こちらの馬に被害は無かったが、それを数回繰り返されるうちに足を完全に止められ、後ろの連中に追いつかれてしまった。

俺は別チームの魔法使いとアキムに指示をして、相手の馬を魔法で潰させる。アキムは流石で、馬の横腹に火球を当てる事で乗り手の足も一緒に燃やす。そのまま落馬して炎に呑まれた所を見て安心する。もう一人のお嬢さんは拳大の石を乗り手に当てて、落馬させることには成功したが、まだ生きていた。ボリスが駆けより剣を突き立てて確実に息の根を止める。

「落ち着け!! 相手の馬は潰した、馬車を背にして防御に回るぞ!! 依頼人の許可が出た、人が無事なら良い。荷物は最低限だけ守れ!!」

大声を上げて指示を飛ばすと、全員が頷いた。皆良い顔しやがる。


それからは大忙しだった。傭兵崩れと思われる腕の立ちそうな奴は俺達3人が相手をして、それ以外は魔法を牽制に使う事で、1対1の状況を作り確実に数を減らさせる。

だが相手の人数が多い。残り半分と言う所で初心者の1人が斬り伏せられた。息はまだあるが、かなりマズイ。

後方から襲われたので馬は無事だが1頭しかいないので家族全員を乗せるのは無理だ。

このまま行けば商人を守るのは大丈夫そうだが、向こうのチームは数人が死ぬかと考えていると、いきなり後ろ側から犬の『遠吠え』が聞こえた。

「なんだ!?」

「グレイウルフ? なんでこんな所に?」

「お前らよそ見をするな!!」

ボリスが叱り付け、俺がその隙に1人を斬る。

「あと10人、踏ん張れお前ら!!」

野盗どもを油断なく睨みつけていると、隣からアキムが声を掛ける。

「エフィムさん、ウルフの後ろから人が来ます!!」

その言葉を聞き、少しの間だけ後ろを振り返り、確認する。

(こいつらの仲間や、遊びに来たカップルって感じじゃねえな。冒険者か?)

近づいてくる2人組に警戒をしている野盗を見て考えていると向こうから大声で呼び掛けられる。

「僕達は冒険者です!! 手伝いが必要ですか!!」

少しだが息が上がっている所を見ると丘の向こうから急いで来てくれた事が分かる。

ありがたい。俺は大声で答える。

「俺達はこの馬車の護衛をしている傭兵だ!! すまないが手伝ってくれ!!」

俺はそう言うと正面を見据えて仲間たちに余裕を見せてやる。

「アキム、ボリス気合入れろ!! 援軍が来た、お前らもビビってんじゃねえぞッ!」

野盗共は口々に『獲物が増えた』だの「女じゃねえか、この後が楽しみだ」だのくだらない事を言いながら笑ってやがる。馬鹿な奴等だ、ここであの冒険者に嘘でも自分達が正しいと言えばもう少し介入を遅らせられるものを・・・・

狼は怪我人のいる所に迷わず進み、一番近い野盗の足を狙う。右足に噛み付かれバランスを崩し、倒れた所で槍を持った傭兵が横腹を狙って止めを刺す。致命傷だろう。

そこへさっきの冒険者が駆けつけたのを見て俺は叫んだ。

「腕に自信は!?」

2人はにやりと笑って答えた。

「無くは無い!!」

「がんばる!!」

頼もしい答えに俺は頷く。実力は分からないがこの状況に飛び込んで来られるだけの胆力が有るなら十分だった。

女の冒険者が怪我人の所に走り、魔法を掛けるとそいつは何事も無かったかのように立ち上がり、また壁を築く。それを見て一息つくと他の連中に支援と回復を掛けて回っていた。自分の出来る事をしっかりと分かっているのは、指示を飛ばさなくていいので助かる。

男の方は文句無しの戦闘力だ。一番押されていた所へ勢い良く突っ込み、一撃で胴薙ぎにした。動きは素人だが死ぬ覚悟も殺す覚悟も出来ている。実戦を想定した訓練を積んでいるのだろう。相当良い師についているのが窺えた。安物の盾と剣を振り回しているが、同じ初心者でも、こっちの方が使えるな。

俺は黒髪の嬢ちゃんに魔法を掛けてもらったのを確認して、向かい合う1人を斬り伏せて効果を実感すると、

「オオオオオオオォォォォォォ!!」

と雄叫びを上げて敵に突っ込んだ。

今の声で敵がこちらを見ている隙を逃さず、狼は相手を押し倒し、喉を噛潰す事で1人。冒険者の男は剣を左腕に突きこんで、慌てた敵を確実に斬って1人殺す。

俺は、後衛にいる3人に突っ込み、1人を正面から斜めに斬り下ろす。

相手が倒れたのを確認すると、その後ろにいた男の胴に剣を突き立てた。2人の返り血を浴びながら、そいつの右脇を潜り抜け、逃げ出そうとした最後の1人を背中から斬って周りを確認する。

どうやらこいつで最後の様だ。



「助かったぜ。俺はエフィム、さっきも言ったが傭兵だ。お前達が居なかったら依頼人はともかく、こっちの連中に死人が出ていたかもしれん。ありがとうな。」

2人は照れながら笑う。

「気にしないで下さい。好きで飛び込んだだけです。それに、敵味方の識別をすぐにされたり等、こちらも助かりました。」

「そうですよ、困った時はお互い様です。まだ練習中ですが、水を出すくらいは出来ますので、とりあえず返り血を流してください。温風までは使えませんので、ちゃんと着替えてくださいね。他に怪我をした方はいませんか?」

2人はそう言いながら狼と辺りの警戒を忘れない。首に掛けているプレートはどう見てもアイアンだ。どうやら冒険者ギルドには将来有望な若手が入ったようだな。見た所16ぐらいか、大人気ないが少し嫉妬もする。

俺は頭を振りくだらない考えを捨てて、頭から勢い良く水を掛けてもらい血を洗い落として、着替える事にした。それを見て他の連中も続く。こっちのお嬢さんはまだ土と風しか使えないで羨ましそうな視線を送っている。アキムは風と水が苦手なので喜んでいた。


クルイローまでは後半日もない、こちらの怪我・死傷者は無し。若手にもいい経験を積ませられたし、依頼主も過去にもっと酷い状況を体験した様で、今回の馬車と商品が少し傷つくぐらいであれば問題なしと言ってくれた。今回の仕事は大成功だな。


俺はそう考え、若手に見えない所で深呼吸した。


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