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第一章.11

「すごいな、それが召喚か。」

英雄はファンタジーなこの現象に喜びを浮かべながらこちらへと歩いて来た。

「実際見るのは初めてだけど、でけえな。」

「うん、こんなに大きいとは思ってなかった。」

そうなのである。この狼だが、四足で立ち、顔を少し上げている状態で口が僕のお腹、みぞおちの少し下ぐらいに有った。色は灰色が多く、少しだけ白色が混じっている。毛並みはふわふわだ。

もう、いいよね?我慢しなくていいよね?

顔の毛並みを堪能しながら僕は英雄に熱い視線を送ると、彼はやれやれと首を振った後に頷いてくれた。

それを見た僕は、狼の首元に優しく抱きつき、顔を埋めた。サラサラでフワフワである。

「あぁ、幸せ~。ひでおーこの子ふわっふわでサラサラでもふもふだよぉ。」

頬が完全に緩みきっているのが分かる。だって仕方ないじゃないか!!

この大きな体に格好良い瞳で、そのくせ撫でると嬉しそうに目を細めるこいつを可愛がらない選択肢なんて有る筈無いじゃないか!!

狼君はスンスンと鼻を鳴らして僕の臭いを嗅いでいる。群れの仲間認定とかそんなやつかな?

そう思っていると英雄が、

「召喚される奴ってお前と元々相性が良いんだから、誘惑系のスキルも有効なんじゃないか?」

僕は『あ』と気付くと、体を離して狼に問いかけた。

「そうなの?」

すると狼はコクリと頷く。

「ひ、英雄、この子言葉が分かるって。可愛い上に賢いなんて反則だよ!! 他の子もこうなのかな!? 

召喚してみよう!!」

そう言ってすぐさま魔導書を開き、何かを話す狼と英雄を他所に召喚しようとしたのだが、

「ふぁれ?」

僕は足元から力が抜けて倒れてしまった。とっさに狼が体を入れてくれたので痛みは無く、むしろ幸せな気持ちで一杯になる。

「もしかして魔力切れってやつか?」

「そうかも。残存量を超えて消費するとなるって言われたの忘れてたよ。

うん、もう大丈夫みたい。ありがとうね。」

そう言って狼を撫でまわしながらゆっくりと体を起こす。

「とりあえず名前付けてやれよ。」

「あ」

僕が慌てて狼の顔を見ると、凄く悲しそうな顔をしていた。

「ご、ごめん!!」

慌てる僕を見て英雄は笑っていた。



「よーし、名前はウルフだからルルにしよう。」

そう言うとルルは嬉しそうに吠えてくれた。可愛い。

「それじゃあ次は俺の魔法習得か。と言ってもお前みたいにすぐ覚えられるのかこれ?」

僕達二人は唸りながら首を傾げて相談した結果。

「「先に街に行こう。」」

と口を揃えて移動する事にした。

実はここから西に行った所に安全な街が有るのだ。

僕達が転移した先は予定通り治安が良く、他種族に対しての差別が無い国だった。

たぶん大陸で一番治安が良いと言われたので始まりの国にはピッタリだ。ただし、犯罪率が0ではないので気を付けろとの事。そんなの日本も変わらないから気にしていない。

「なあ、ルルどうする?」

「・・・・一緒に居ちゃダメ?」

僕はその言葉に絶望し、右隣にいる英雄を見上げて聞く。左からはルルがすり寄ってきた。幸せ。

「っぐ、いや、駄目じゃないが、忘れたのか? 召喚士って社会的に不遇なんだぞ? 浮かれまくってる俺達が足元見られるのは間違いないのに、さらに底辺認定されてみろ。」

「確かにそうだね。名前が売れたら違うだろうけど、最初からそれは拙過ぎるか。ごめんねルル、一度召喚を解除するね。」

英雄の言葉を理解して僕が言うとルルは『え!?』といった顔をして英雄と僕を交互に向いた。きっともう少し遊びたいのだろうが、今は駄目だ。魔物が出始めたらお願いしよう。

そう考えて召喚本を見て気がつく。

「あれ?これってもしかして・・・・」

英雄とルルが怪訝な顔で此方を向く。

「うん、なんかね、取扱説明書みたいなページが増えてる。」

それによると、召喚は顕現・待機・解除の3つの状態があるらしい。

顕現は今のルルの様に現れる事。

待機は僕の体の中に魔力として留まる事。

解除は心の中に出来た空間へと帰る事になるらしい。

待機状態にすると僕の魔力を吸収するらしく、ご飯の必要が無くなるそうなので財布にも優しい。

一度契約した相手はみんなこの空間をベースに生活するそうです。魔力が提供される間、衣食住が完全完備で種族に合わせて住居が変わるらしい。なんて羨ましい。

英雄も同じ顔をしていた。

「もう一歩進めばジャンクショ○だね。」

「召喚時点で底上げされてるから似たようなもんだろうが。」

「記憶が無くなってたら教えてね。」

「そんな悪辣なものをあの人が与える筈無いだろう。」

「それもそうか。所でこの3形態だけど・・・・」

「ああ、試した方がよさそうだな。」

英雄の言葉に頷いて全て試したのだが、うん、これは便利。

PCでいうと、起動・スリープ・シャットダウンだ。

スリープ状態でもルルの意識は有るらしく、いきなり僕の体から飛び出した時は驚いた。

これで護身はなんとかなりそうだね。40kg以上の塊が勢いと敵意を持って飛び出したら間違いなく吹き飛ぶ。ルルの場合はそのまま押し倒して首に噛み付き砕くだけだ。

とりあえず街の近くや人とすれ違うまでは顕現してもらう事にして、

「それじゃあ行くか。」

「うん、楽しみだね。」

そう言って僕達は歩き出した。



それからしばらく進み、日が傾いてきた頃にようやく建築物が見えてきた。

「やっと着いたな。装備背負っての旅って思ったよりキツイな。」

「そ、そうだね。僕なんて社会人生活と女体化で体力がかなり落ちてるから、ルルとリンクしなかったら夜になってたよ。」

2人で息を整えながら、さらに近くまで歩くと、それが防壁であることが分かる。

「話に聞く魔物避けか。ここまで一匹も会わなかったけど、こうやって見ると命に直結する問題だって改めて考えさせられるな。」

「うん、戦い方云々もあるけど、荷物まで持ってる僕らが襲われたら、ひとたまりも無かっただろうね。」

僕達は魔物と言う死が隣り合わせの事実を肌で感じながら、防壁の一か所で人が列になっているのを見つけ、そこが入り口だと分かると列に並んだ。

僕達の前に幌付きの馬車を引く商人の家族と護衛がいたのだが、荷台から2人の子供が面白くなさそうに辺りを見回しているのに気がついた。きっと兄妹だろう。僕と目が合ったので手を軽く振ると、プイっとそっぽを向かれた。護衛の人達と僕達は苦笑する。

そのやり取りで少し壁がなくなったのか護衛の1人が声を掛けてきた。

その穴を隣にいる人がさっと埋める所を見ると『おぉ!』と心の中で歓声を上げる。

「あんたたちは旅人か?」

気さくそうに話しかけてきた人に僕は笑顔で応対した。

(ちなみに読み書きはマレフィさんのおかげでバッチリである。)

「ええ、私たち2人でここまで来たんです。皆さんはこの街でお仕事を?」

「ああ、俺達は見ての通り傭兵でな。今回はこの人たちの護衛で別の街から帰って来たのさ。良い街だ、気に入ってくれると嬉しいよ。それじゃあな。」

そう言って彼は護衛に戻り、ちょうどやってきた別の人と話をして休憩に入った。

どうやらタイミングを見て声を掛けてくれたようだ。あんな風に仕事ができる人って憧れる。

「惚れたのか?」

英雄が冗談交じりに聞いて来た。聞こえたのだろう新しい護衛さんも笑って此方を見る。

「ああやって余裕を持って仕事できる人達って純粋に格好良いよ。僕なんてお店を回すのでてんてこ舞いだったのに。」

苦笑しながら思い出す。

家族経営の小さな喫茶店だった仕事場を思い出す。僕のシフトは基本的に平日なのだが、何故か休日よりお客さんが多いのだ。おかげで仕事の日はいつも大変だった。その分休日に休みを取れたから英雄と遊べたけど。

と言うと、英雄が『それで休日に休めたのか』とか『休日にお前がいたら店に客が押し寄せるもんな』とか言われた。

僕は招き猫か何かか?というかなんで僕を狙って客が来るんだよ。

そうやって会話をしていると、どんどんと順番が進み、僕達の番となった。

傭兵の人は軽くこちらに手を上げて先に行く。

窓口に進んだ僕達は身分証明書に、マレフィさんから渡されていたこの世界の神殿が発行する巡礼者用の物を取出し、料金を払って街に入った。ちなみに使い捨てである。


「人多いね。」

「ああ、多すぎる。」

その人の多さに僕達は圧倒された。僕達が住んでいたのは地方だ。移動には電車ではなく車を使う。というか電車なんて数えるほどしか乗ったことが無い。英雄も大学までは車を使っていた。小遣いがガソリン代へと消えていくと悲しそうな顔をしていたのが印象的だった。

「さて、まずは宿屋かギルドかだが・・・・女連れだしギルドからだな。下手な宿に引っかかると俺もお前も危険すぎる。」

僕もその言葉に頷き、近くにいた衛士さんに場所を聞き、二人で目指すことにした。

ギルドに付いた時はもう日が暮れていたのだが、幸いだったのはカウンターが混んでいないことだ。併設される酒場で筋骨隆々の男たちが酒盛りしている所を見ると仕事終わりの一杯なのだろう。

正直言うとちょっと怖い。英雄も怖いらしいが、武神様達の殺気に比べたら耐えられると先導してくれた。

僕達は天井から下がっている看板を見て、新規登録の受付へと進む。

「いらっしゃいませ。新規登録の方でしょうか?」

とエルフの男の人が対応してくれる。さすがエルフ美形だ。

「ええ、私たち二人ともです。」

英雄が答えるとエルフのお兄さんは紙を取り出してきた。

「こちらの用紙に記入をお願いします。この国の文字はお分りでしょうか?」

僕達は大丈夫だと答えると申込用紙に記入をしていく。

「はい、ありがとうございます。次は犯罪歴を調べますのでこちらの水晶にお触れ下さい。」

犯罪なんてしてません。神様クラスの犯罪になら巻き込まれました。

特に問題なく無事に突破すると、お兄さんは僕達に2枚のプレートを渡してくれた。

真ん中で緑と黄色にわかれたプレートである。若葉マークかこれ?

「これは見習い冒険者用のプレートとなります。ギルドが行う初心者講習を全て受講していただきますと正式に冒険者として採用される事となりますが、よろしければこちらの紙にサインをしてください。」

そう言われて僕達はサインをする。

「こちらが講習の日程表になります。明日からですと・・・・最短であればちょうど1週間で全て受講する事が可能です。何か質問はございますか?」

英雄は女が泊まって大丈夫な宿はあるかと聞くとリストアップしてくれたのでお礼を言って、僕達はギルドを後にした。

英雄は『新人いびりとかって無いんだな』と拍子抜けしたように言うが、顔は真剣そのものだ。僕も中にいるルルのお蔭で気がついている。ギルドの受付中からずっと視線を向けられていたのだ。


今も付いて来ている。


僕達は小声で話す。

『どうする?』

『相手の力量次第だけど、どう考えても素人の僕達が瞬殺されるだけでしょ。逃げ一択だと思う。厄介な事に女連れで安い宿なんてこのリストを見る限り簡単に絞れるから対処が難しいね。』

『返り討ちに出来そうならやるしかねえな。出来なそうなら逃げた後にもう一度ギルドに行って相談してみようぜ。』

『決まりだね。ルル、まだ僕に戦闘手段が無いから、英雄のアシスト宜しく。まだ殺しちゃだめだよ?回復魔法があるみたいだから片手と片足を潰してね。爪でも牙でも方法は問わないから。』

その言葉に頼もしい答えが返ってくる。

僕達は人通りが少し多い場所をわざと選んで振り返る。一本向こうの通りに入れば人は一気に多くなる。ここなら人ごみに紛れて逃げられるし、目撃者も多い。逆にこれに突っ込んでく奴なら容赦なく殺せる。土地勘がないから離れるのはマズイが、今打てる手が無い以上背に腹は代えられない。住人に被害が出れば僕達も犯人もお尋ね者だが、死なば諸共、バンザイアタックの恐ろしさを教えてやる。

「僕達に何か御用ですか?」

そう言って振り返ると、通りを歩く人たちがこちらを振り返る。これは恥ずかしい。

だが、ここは日本じゃない。何かを察した住人達は慌てて距離を取る。

『ここの人達よく訓練されてるな。盾が無くなるのは困るがこれなら住民に被害はでないか?』

『生きる為に仕方なくであって、好き好んでこんな事はしたくないからね。しかし僕達って救い様の無い外道だよね。これから先大丈―!? 出てきた!!』

僕達の狙いに気付いたのかどうかは分からないが、僕達の前に1人の女の人が出てきた。

金髪ロングで美人なエルフのお姉さんが現れ、僕達はお互いにしか聞こえないように小声で喋る。

『こういう状況でなければ喜んだんだけどな。俺が気付いているのは後2人だルルは?』

『まったくだよ。しかし悲しい事に美人だとは思ってもそういう考えに至らない。ルルも同じ匂いのする奴が2人だって。左右奥側の路地に隠れてるみたい。右の奴は屋根に上ったよ。』

少しだけ深い呼吸をして相手に言う。

「エルフ? 一体どのような要件でしょうか?」

僕は努めて平静な声で相手に質問する。僕はともかくルルを舐めるなよ。あんたと同じ匂いのする相手が隠れているのはバレてるんだ。早く僕も攻撃方法を手に入れよう。

「待って、不躾な視線を向けたのは謝るわ。貴方達と少し話がしたいのだけど、付き合ってもらえないかしら?」

エルフのお姉さんが穏やかな声で僕達に告げるが、屋根の上の人と左奥の通路にいる人は明らかに動きが変わり、少しずつ回り込んでいる。

英雄に目配せする。こいつらマズイ、動きに躊躇いが一切ない。逃げ道も余裕を持って潰そうとしてる、格上だ!!

『この会話聞かれてる。』

『ああ、間違いないな。動き出したのは残り2人の事を話してからだ。

で、聞こえているんだろう? なら俺達がどうするかも分かっている筈だ。』

お姉さんの顔から感情が消える。盗み聞きの方法は気になるが今はそれ所じゃない。

「英雄どれに行きたい。」

「屋根の人は身軽そうだな。正直、攻撃を当てられる自信は無い。正面のお姉さんは目に見える分純粋に怖い。」

英雄は下半身に力を込める。いつでも飛び出す構えだ。

「左から来る人は魔力がお姉さんと同じくらい高いよ。悔しいけど今の僕じゃ手も足も出ないね。お姉さんはそれ以上に何かありそうで僕も怖い。」

僕も飛び出す準備をする。現代であれだけ変態共から逃げ回ったんだ。ルルの強化込なら何とかなる。

お姉さんが冷たい瞳で僕達を見据えてきた。

「私は貴方達とお話ししたいだけよ。危害を加えないことは約束する。

私達にとっては結構重要な事なのよ、力尽くでも聞いてもらうわよ?仲間の事に気がついている所を見ると実力が見習い程度でないことは分かっているわ。平和的に解決しない?」

一気にお姉さんの圧力が増す。

残りの二人も臨戦態勢だ。これはやばい・・・・

動かないのではない、動けないのだ。完全に抑え込まれた。

英雄も僕も冷や汗をぐっしょりと掻いている。

『どっちだ!!』

『正面!!』

「「 行くぞ!! 」」

僕達は一気に正面のエルフに走り出した。

(最低でも片腕は取る!!)

お姉さんの体から魔力が膨れ上がり僕達を威圧する。

僕達は震える足で大地を踏みしめ何も考えずに突っ込む。いや、採れる方法が何も無いのだ。

僕が狙うのは相手の四肢。どれか一つにダメージを入れてそのまま逃げる!!

覚悟を決め、お姉さんが何かを早口で紡ごうとした瞬間だった。

「 待てい!! 」

凄まじい怒声と、お姉さん以上の迫力に僕達は完全に動きが止められた。圧倒的強者を前にした恐怖で止められたのだ。ルルまでも怯えきっている。

英雄はすかさず僕の前に体を入れて腰から剣を抜き、エルフと声の主に鋭い視線を向ける。どうやら犯人はお姉さんの後ろにいたらしい。

「まったく、これはいったい何の騒ぎだ?」

そこにいたのは30代後半から40代ほどの大男だった。背中には赤い大斧を背負い、腕を組みながらこちらを凄まじい眼光で見据えている。その圧力だけでも動けないと言うのに、同時に叩きつけられる戦意は刃向う意思をも叩き潰す。

「どうも貴女達の様子がおかしいから後をつけてみたら、これはいったいどういう事?」

僕は全身の体温が一気に冷えた事を感じる。僕を守る為に前に立った英雄でさえ理解できず、ビクリと体が震えたほどだ。とても落ち着いた女性の声だが、問題は聞こえた場所。

その声は僕の真後ろから聞こえたのだ。

僕の右肩にこの人の手が添えられる。細い手だが、畑仕事や家事ではなく、何度も荒事を経験したという確かな圧力が刻まれている。その手に決して逃がさないという意思を感じた僕は恐怖から鈍る頭でようやく理解した。


僕達は詰んだのだ。


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