第3話 日差しと影の会合
「みゆうっちが翼と仲良くなりたいっていうから、私がサポートするって話だったじゃん!」
私、楠一葉は花守心優に対して率直な疑問を口にした。
「そんな話もありましたね」
彼女はいまだに遠くを見つめている。
「だから私は、みゆうっちが話に入ってくるのずっと待ってたのに全然入ってこないし!」
「それは一葉さんと半和くんがあまりにも楽しそうに会話をしているものだから、私が入る隙がなかっただけですよ」
「そんな楽しそうに見えた?」
「ええ、それはもう恋する乙女のような顔をしていましたよ」
彼女の言葉を聞いて恥ずかしくなってくる。
翼と話してる時の私、そんなに楽しそうだったのか?
彼女のペースに乗せられてはいけない!
「それはいいとして!翼と仲良くなりたいって言ってたじゃん!」
そう元々は彼女から裏で「半和くんと仲良くなりたいから協力してほしい」と頼まれていたのだ。
私はみゆうっちに恩があるから、彼女の要望に応えてあげようと思って待っていたのに全然話に入ってこない。
しまいには、クラスメイトの前で、彼の前で堂々と私に告白をしてきた。
どういうことなんだ!
「確かに私は彼と仲良くなりたいです。」
彼女は私の目を見てはっきりと伝える。
「恋仲になっていいとも考えています。」
「それはダメ!」
反射的に声が出てしまった。
場に沈黙が流れる。
彼女が小さく「こほん」と咳をして、「半和くんと恋仲になってもいいので」と続けてきた。
「なので、あなたに告白しました。」
「それはなんでよ!」
意味がわからない。
翼と恋仲になってもいいなら、翼に告白すればいい。
それはダメだけど!
花守心優という女のことがなにもわからない。
彼女は妖艶な笑みを浮かべて理由を説明し始めた。
「一葉さんと半和くんは常に一緒にいるので、あなたの恋人なれば、半和くんの近くにいられることになり、お話をできる機会が増えるということです。」
「ほう」
首を傾げる私に言葉を続ける。
「ここで提案なのですが」
彼女はまたしても妖艶な笑みを浮かべた。
「本当に私の恋人になりませんか?」
「へ」
私は彼女の提案に驚いて、体のどこから出たかもわからない声を出してしまった。
彼女はいまだに笑っている。
これは、詐欺師と同じ笑みだ。
「ならないから!」
「それはとても残念ですね」
まったく残念そうじゃない。
そんな彼女はまたしても驚きの提案をしてくる。
「じゃあ2週間の期限付きで恋人になりませんか?」
「2週間?」
またしても首を傾げてしまう。
いまだに彼女が考えていることがよくわからない。
「私は、半和くんに近づきたい。ただ、近くには一葉さんがいる。一葉さんと半和くんの関係を壊すのも忍びないですし、2週間でも恋人になれば私は半和くんに近づくことができる。」
いまだに理解できずにいる私に言葉を続ける。
「あなたは、半和くんといつも通り接して頂ければ大丈夫ですし、私とは2週間後に別れると宣言していただいても構いません。2週間の交際宣言と恋人っぽいことを少ししていただくだけで結構です」
ようやく全貌が見えてきた提案に私は率直な疑問を投げつける。
「みゆうっち、なにがしたいわけ?」
「私はただ、半和くんと仲良くなりたいだけですよ」
彼女は笑って答える。
うん。これは、詐欺師と同じ笑みだ。
彼女はなにを考えてるかわからないし、胡散臭いし、承諾したくない。
ただ、彼女には恩があるし、交際宣言はするものの2週間だけだし、翼ともこれまで通りに関わっていけるしーー
「みゆうっちの提案に乗ってあげる」
悩んだ末に彼女の提案を承諾した。
「それは感謝です」
彼女は5本の指先の腹を合わせて感謝を伝えてくる。
「今日から2週間でいい?」
「本日から2週間。ちょうど夏休みに入る前まででお願いします」
彼女は深々と頭を下げた。
そんな彼女の姿は真剣だった。
「なんか恋人っぽいことでもしてみる?」
私は自分のペースにしようとあざとく聞いてみる。
「私はこのあと用事があるので帰ります」
「なんでよ!」
彼女が帰り支度をする姿を見て、最後に今一度確認する。
「みゆうっちは、本当になにがしたいわけ?」
彼女は遠くを見つめながら答える。
「見てるだけでも楽しかったのですが、ちょっと茶々を入れたくなりまして」
「それに」と近くにいる私に目線を変えて言葉を続ける。
「私は、半和くんのこと人として好きですし」
彼女の頬は少し赤くなっていた。
照れたように言う彼女に私は口をあんぐりとさせる。
「それでは、明日からお願いしますね」
帰り支度を済ませた彼女はそう伝えたら足早に帰ってしまった。
1人屋上に取り残された私。
屋上から外の様子を眺めるとサッカー部が声を出しながらシュート練習をしている。
私は少し考える。
みゆうっちはなにがしたいのだろうか。
2週間という間でなにができるのだろうか。
みゆうっちは彼を狙っているのだろうか。
彼女の目的がなんなのかわからないし、なにを考えているのかもわからない。
この2週間どうすればいいのだろうか?
わからないが、彼との時間は大切にしたい。
ここまで考えて、これ以上考えても無駄だと感じたので考えることをやめる。
今日は色々あったが、いつも通り彼と帰って一旦落ち着こう!
私は急いで玄関の方へと向かった。
彼とはいつも一緒に帰っているし、「返事してくる!」と一声掛けたので待っているはずだ。
少し待たせてしまったから、まず謝ることから始めよう。
ここまで考えたところで玄関に到着した。
しかし、学校の玄関には誰もおらず閑散とした場が広がっていた。
楠一葉はこの現場で状況を理解して、少し悲しくなる。
「なんで先帰ってんのよーー!」
楠一葉は、学校生活で初めて1人で帰ることになったのだった。




