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ジオルフリード 〜無敵のスーパーロボット、異世界に降臨す〜  作者: 左門寺三号


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第10話 聖都の鐘は二度鳴る

 イシュタルクの聖都イシュタル、その朝は二棟の鐘楼の歌声で始まる。


 二つ日(エルターン)の淡い朝日が白亜の街並みを照らし、家々の、空の色を写し取ったような優しい青色の屋根が(さざなみ)のようにきらめいていた。


 石畳の大通りでは、鐘の音とともに朝の祈りを終えた人々が静かに行き交い、店先では焼きたてのパンや果実を並べる支度が始まっている。

 辻々に置かれた小さな聖像の前では、職人も、商人も、兵も、胸に手を当てて一日の平穏を祈った。


 その白亜と青の街並みの中心に、街全体がそこへ向かって(かしず)いているかのように、エルタニア大聖堂は(そび)えていた。


 二棟の鐘楼を翼のように従えた大聖堂は、二つ日(エルターン)の光を受けて(まばゆ)いばかりに白く輝いている。その正面に(しつら)えられた二つ日を(かたど)る双円の大窓から差し込む淡い光は、磨き抜かれた白石の床に二重の輪を落としている。壁面には古き聖譚が浮き彫りにされており、大地に根を下ろし二つ日を支える大樹と、その中央に顔のない人型が刻まれている。


 その聖堂奥、円卓の間には今、国の重きを担う者たちが集められていた。

 

 法衣を纏う聖職者。

 鎧を帯びる聖騎士。

 古書を抱える学僧。

 記録板を膝に置く書記官。

 そして、上座に座す聖王の前に、戦地より帰還した征異大司教(ヴエルドゥラーン)が深く(こうべ)を垂れていた。

 

「面を上げよ、征異大司教アルバス・ラザフォード」


 聖王の側に侍る宰相が、彼の方に代わってラザフォードに呼びかけ、先の報告を促す。

 

「戦線に異変あり、との急報であったな」

 

「は」


 征異大司教という職は、常に好奇と警戒の眼差しに晒される。異端、異獣、禁忌、そして人の理解を越えた災厄。通常の軍務にも政務にも収まらぬものを扱うがゆえに、その報告はしばしば不吉な鐘の音にも似た響きを帯びる。


「昨日、イシュタルク、ハルドゥマ両軍の交戦予定地上空に、白銀の巨人が出現いたしました」

 

 ざわり、と円卓の間が揺れた。

 ほとんどの者はすでに急報で概要だけは耳にしているだろう。だが聖王の御前で、征異大司教の口から改めて語られるとなれば、その重みはまるで違った。 

 

「巨人とは……ハルドゥマの新たな巨獣か?」

 

 真横に伸びる口ひげを蓄えた軍務卿が議場の動揺を切り裂き問う。

 

「巨人は巨角毛牛(ドゥルガ)が手のひらに乗るほどの巨躯で、その鋼の肌は《火投の術》を跳ね返し、容易く地を割って我が国、そしてハルドゥマの両軍を蹴散らしました。少なくとも彼らの息のかかった物ではないでしょう」


 そうでなければ私は今この場におるまい、そんな皮肉をラザフォードは飲み込み、続けた。


「その後、戦場より去った巨人を追わせた兵を連れてきております。」

 

「入れよ」

   

 聖王が頷き、宰相に促され、入口の衛士が扉を開く。

 入ってきたのは若さの割に眉間に苦々しさを深く刻んだ一人の兵士だった。

 戦塵を落とし、正装に着替えてはいるものの、その顔色は戦場の苦悩を薄めず塗りつけられているかのような渋面だった。

 彼は征異大司教の傍らまで進み、片膝をつく。

 

「名を」

 

「テオドア・ローニング。今回の征異軍では第三斥候隊、隊長を務めておりました」

 

「報告を」

 

「は」

 

 テオドアは一度、喉を鳴らした。

 戦場で声を張ることには慣れている男だが、白石の壁と国家の重責を担う顔ぶれに囲まれたこの場では、声を出すことにも苦心しているようだった。

 

「先の戦場に現れた白銀の巨人について、偵察の命を受け、《灯黙り(ひだまり)の森》へ進入いたしました」

 

 その森の名が出ると、(まつりごと)に関心が薄く、普段はこの議場にあっても我関せずと静かにしている学僧たちが色めきだつ。

 

「灯黙りの……!」

「あの森へ入ったのか」

「生きて戻れたとは」

 

 学僧たちの小声はすぐさま波紋のように円卓を駆け巡る。

 だが、聖王が片手をわずかに上げると、その波紋は押さえつけられたように消えた。

 

「森は伝承通り、人の歩みを惑わせる魔力に満ちておりました。森の奥より、強力な魔力の風が吹き、幻惑が破られなければ進むことも戻ることもままならなかったでしょう。」


「魔力の風……」


「そして森を満たす濃密な白魔力(クリマーナ)が渦まく、その中心に巨人が立っておりました」


「巨人が魔力(マーナ)の流れをも変え、そなたらを招き入れたというのか……」


 早速、得体の知れぬ巨人を神聖視するような聖職のつぶやきに軍務卿が呆れたように鼻を鳴らしている。

 

「恐れながら……、征異大司教様の命に反し、我が方から巨人を害そうとする者が出てしまいました……。」

 

「報告は受けている……、あの狂犬だな」

 

「は……。その者は《火投の術》及び《瘴煙の術》を用い巨人に挑みかかりました」 


「《瘴煙》とはな……、それで巨人の反応は?」

 

 自慢の口ひげをしごく軍務卿が、外法の名に眉を顰めつつも、軍を預かる実務者としてその効果を知るべく問いかける。

 

「巨人は一切の痛痒も見せず、むしろ凶行を止めんと斬りかかる我らから守るようにその者を指で摘み上げられました」

 

「摘み上げた?巨角毛牛が乗るほどの手でか?」

 

「はい。そして武装をすべて取り除き、我らへと引き渡したのです」


「まるで子ども扱いとは……恐れ入るな」

 

 軍務卿の溜め息から停滞感の広がりかけた議場の空気を払うように、ラザフォードが先を促した。

 

「ここまでは既にお聞き及びの方も多いでしょう。しかしこの先が問題なのです。続けなさい」

  

「は。その後、巨人は我らに語り掛けてきたのです」

 

 円卓の空気が変わった。

 聖王が傍らの書記官に視線を送り、書記官は一言一句聞き逃さぬ姿勢で記録板を構えた。

 

「正確に申せ」

 

「はっ」

 

 テオドアは深く息を吸い、一つ間を置いてから切り出した。

 

「まず、巨人はこう告げました」

 

 そして彼は、あの森で受け取った言葉を、ゆっくりと口にする。

 

「――これなるは争いを好まず。先の戦場もこれなるの本意にあらず。何人たりとも、これなるの眼前にて傷つくこと能わず」

 

 円卓の間に沈黙が下りる。

 白石の壁に施された彫刻の影が、蝋燭の灯の揺らめきに合わせてちらちらと揺れていた。

 

「次に、こう告げました」

 

 テオドアは顔を上げた。

 

「――これなるは対話をこそ尊ぶ」

 

 再び、ざわりと議場の空気が揺れる。

 

「戦を止めよ、話し合え。そう言っておるように思えますな」


 法衣を纏う聖職者たちの多くが顔を見合わせて頷く一方、聖騎士たちは険しい表情のまま腕を組んでいた。

 

「ハルドゥマと、か」


「バカな!あのような節操無し共となど!」


 一刻も早く解放されたいテオドアは紛糾しかける御歴々(おれきれき)を遮って続けた。

 

「そして最後に、下手人グラム・レイズルへ向けた我が剣を抑え、こう告げられました」

 

 全員の視線が、再び彼に集まる。

 

「――彼の者の処遇でこれなるの心を騒がせるべからず。何人たりともこれなるを傷つけること能わず。これなるは裁きを与えず」


「殺さず、裁け、か。矮小な人間(ノールマン)など取るに足らんと……」

 

「争いを憎み、罪人を許す。慈悲深き天よりの御遣いかもしれないのです!その御心を疑いますか軍務卿!」


「バカバカしい!信仰で敵は止まらん!」


「静まられよ」

 

低く、しかし議場の喧騒を圧する声でラザフォードが告げた。

聖王の御前であることに気づき、熱くなっていた者たちが居住まいを正す。


「諸卿。白銀の巨人が神の御遣いであるか、あるいは未知の災厄であるか……、その結論を急ぐべきではありません」

 

「ふん、ではどうする」

 

「あれが何であれ、我らの手に余る存在であることは明白。ならば、御言葉通り()()の姿勢を見せるのが良いでしょう」

 

「結局はハルドゥマとの和平交渉か?兵が納得せんぞ。それに奴らが先んじて巨人を取り込もうとせぬ保証もない」

 

 軍務卿の指摘に、議場の空気が再び張り詰める。

 白銀の巨人が敵でなくとも、その力を敵国に利用される危険はある。誰もが考えながら口にしなかった懸念だった。

 

「いえ、和平の申し出ではありません。白銀の巨人について互いに軽挙を慎むべく対話の場を設けると、先んじて我らが対話を提案するのです」

 

「ハルドゥマが応じると?」

 

「応じぬならば、それは彼らが白銀の巨人の言葉を軽んじたという事実になります」


「応じたとて巨人への対応の足を引っ張れる、いずれにせよ主導権はこちらというわけか……悪くない」

 

 信仰と実利、その双方を損なわぬ提案に、聖職者たちも軍務卿も口を引き結んだ。もはや異を唱える者はいない。

 議場を包む静寂の中、これまで沈黙を守っていた聖王が小さく頷く。

 その一つの動作だけで、国家の方針は定まった。

 

 


 会議を終え、地下牢へ向かうラザフォードの足音が黒い石造りの螺旋階段に響く。

 階段の先、祈りの光も二つ日の明かりも届かぬ場所、罪人の叫びも、厚い石壁に吸われ消えていく。そんな牢獄の一室で、グラム・レイズルは鎖に繋がれていた。

 両手、両足のみならず首にまで鉄環を嵌められている様は、罪人というよりも檻に入れられた猛獣のようであった。

 鎖に両腕を吊り上げられ、だらりと項垂(うなだ)れながらブツブツと何事かを呟いているグラムが、己の房の前で立ち止まった足音に、じゃらりと鎖を鳴らして顔を上げた。


「これはこれは、征異大司教(ヴエルドゥラーン)ラザフォード様。この様なしみったれた糞溜めによくぞお越しくださいました」


 グラムの投げやりな挑発に眉間の皺を僅かに深くし、ラザフォードは房へと向き直った。


「グラム・レイズル……」


 思わず彼の名を呼んだラザフォードの顔に浮かぶのは軽蔑だけでは言い表せない複雑な色だった。その感情を努めて面の皮の下に押し沈め、感情を殺し、冷酷に告げた。


「みじめな姿になったものだな」


「前置きはいらねえ。日取りはいつだ?俺の首が飛ぶ記念すべき日の。それともここから出して巨人の首を取りに行かせてくれるのか?」


「残念ながら、貴様の首が落ちることはない。聖王の御名において判決が下った。貴様は無照牢送りの刑に処される」

 

 グラムは宣告に鼻で笑う。

 

「征異大司教様直々の無照牢送りとは、巨人に楯突いた俺は軍法違反どころか異端者ってわけか。ずいぶん偉くなったんだなあ巨人様はァ」

  

「最後に、一度くらいは己の愚行を悔いていると思ったが……」


「後悔?しているさ」


 鎖をじゃらつかせ、ラザフォードを下から覗き込むように睨む。

 

「巨人を仕留め損ねたことをな」


「……その巨人に感謝するのだな」


「あ?」


 ラザフォードは踵を返し、グラムにとっての本当の罰となる言葉を告げる。


「巨人が貴様の助命を要求したのだ。貴様が何をしようと()の身は何人たりとも傷つけることはできないのだから、とな」


「んなっ!?」


 グラムの顔からほんの一瞬、血の気が引く。

 そして次の瞬間には、それを押し潰すように怒りの咆哮を上げた。


「ふざけるなァッ!!」


 鎖が激しく鳴り響く。

 両腕が引きちぎれんばかりに振り降ろされ、鎖が石壁を打つ。

 鎖の近くにいた甲虫にも似た光沢を持った蜥蜴(とかげ)がカサカサとそれを()けて離れていった。

 じゃらじゃらと音を立てながら身体を捩じり吠え猛る狂犬の、否、負け犬の絶叫を背に、ラザフォードは二度と振り返ることなく階段を上っていく。


「待てェッ!! ラザフォードォォッ!!」


「愚か者が……」


 蜥蜴の水晶玉のように無機質な目がちらちらと赤く瞬き、二人を見下ろしていた。

お読みいただきありがとうございます

左門寺三号でございます!


サッサと銀とニッケちゃんの話を書きたかったので今回は難産でした…4400文字って普段3000字前後で投稿してるので4キロ超えの巨大児みたいなもんですね

そのせいで先週分の更新がずれ込んでしまってすみませんでした!


次回以降は主人公サイドの比率を上げていくつもりなのでお付き合いくださいませ


見てくんないと、暴れちゃうぞ!


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