表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太陽と月の砂時計がある街~魔法玩具師ニザの冒険~  作者: ゆめあき千路


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

106/109

その百六:青い竜巻

 おかみさんは、ゆっくりした足取りで右回りに回転し、右手を振った。


 その指先から、丸い光が飛んだ。


 小さな光の玉は空中に浮かび、おかみさんの動きにつられるように、さっと空中を移動した。


 光の玉は、おかみさんの後を追うように、ビュンッ! と、速度を増して、そのままおかみさんの周囲を回り始めた。


 おかみさんはマントの裾をふわりとひるがえし、すばやく一回転して、止まった。


 光の玉は回転する風に乗り、その速度はいっそう速くなった。

 回りながら、光の玉は無数に分裂した。


 夜の薄闇の中、数え切れない光の粒が、おかみさんの周囲をビュンビュン飛んでいる。光の軌跡は目に残像となり、するうちに、粒だった光は風に溶けた。


 おかみさんは、輝く大きなつむじ風の中心にいた。


「あれは、なにをしてるんだい?」


 トニオさんは訝しげだ。


「わかりません。おかみさんが魔法を使うなんて、僕も今日、初めて知ったんです」


 みるみるうちに、つむじ風は成長した。

 きらめく光は風の中に呑み込まれて消え、ゴウゴウと唸りを上げてさらにふくれあがり、巨大な竜巻と化した。


 周辺の砂は巻き上げられ、千切れた草が飛び交った。浜辺からは少し離れた内陸側の草木までもが強い風に引っ張られ、浜辺の方へ大きくしなっている。


 だが、僕とトニオさんは、その強風の影響をまったく受けなかった。


 僕らがいるところには、風はそよとも吹いてこない。

 同じ場所に居るように見えても、おかみさんと僕らは存在する〈時間〉が異なるのだと、あらためて思い知った。


 おかみさんが両腕を上げた。


 竜巻が上昇する。

 ぐんぐん空へ(のぼ)っていく。

 おかみさんは両腕を上げたまま、頭上を振り仰いだ。


「さあ、おいき。行って、自慢の幸運を食い尽くしておやり」


 静かな命令は、怖い迫力に満ちていた。


 その一瞬、竜巻はまばゆい黄金色の閃光(せんこう)を放った。

 まるで内側に巨大な稲妻(いなずま)が走ったように。


 と、渦巻く風が、爆発した。


 竜巻はほどけた。ブワッと広がったそれは、青黒い霞のように夜の空をとざした。


――ピー、チチチチッ!!!


 とおいこだまのように、小鳥の声がした。

 無数の小さな翼が月光をはじく。その様子は、深い藍色の夜空へ大量の金粉をふり撒いたかのようにきらめいた。


 青い霞の正体は、夜空を飛んでいてさえ目の覚めるような青い羽をした小鳥たちだ。


「ニザくん、あれは小さな鳥の群れじゃないか?」

「ええ、青い小鳥ですね」


 そうだ、僕はあの小鳥を知っている。


 数千、いや、数万羽とも知れぬ数の青い小鳥が、空を埋め尽くして飛んでいく。

 島の内陸のほうへ、海賊の城塞めざして。




「これまでうまくやれたのは悪運が強かっただけ。悪党どもの幸運など、とうの昔に尽きているわ」


 おかみさんの冷たいつぶやきは、離れていてもはっきり聞こえた。


「ぞんぶんに、やつらが自慢する幸運とやらを食い尽くしてやるがよいわ。……まだ残っていればだけど」




「幸運を食い尽くす……?」


 どこかで聞いたことがあるフレーズだ。

 足下からぞわっと寒気がした。


 トニオさんは目をまん丸くして、青い小鳥の群れが飛んでいくのを見送っている。


「なんだい、あの小鳥は? 幸運を食い尽くす? おだやかじゃないな。それは魔法じゃなくて呪いじゃないか?」

「あれは、〈幸運の青い妖精鳥(ようせいどり)〉です。……たぶん」


 説明途中で自信が無くなった。『幸運の青い小鳥』と聞けば、誰だって『出会った人に幸運を運んでくる善良な妖精の仲間』と思うだろう。でも幸運を食われたら、残るのは悪運だよな……。


「ニザくんはあの小鳥を知ってるのか。で、幸運の鳥なのに幸運を与えるのではなく、食い尽くすってのはどういう意味だい?」

「まえに一度だけ、遭遇したことがあります。あれは幸運を司る魔法の妖精鳥です。出会った人間に幸運を与えることもできるし、悪いことをした人間の幸運を食べて、奪うこともできるそうです」


「幸運の鳥といえば幸運を与えるのが仕事だろうに。同じ鳥が幸運を奪うなんて、人間からしてみたら矛盾してるぞ」

「そうやって幸運を食われた人間には、地味な不幸が降りかかるそうですけど……」


「地味な不幸って……。なんだいそりゃ?」

「たとえば、毎日外を歩くたび、かならず頭の上に鳥の糞が落ちてきたりするとかです」


 これはマルセノ親方から聞いた話だ。おそらくマルセノ親方の実体験だと思う。


「さいわいにして僕は幸運を奪われたことはありませんが、あの小鳥が魔法の妖精鳥なのは本当ですよ」


どこでどうやって遭遇したのか、と興味津々なトニオさんに、詳しい話はまた後ほどと断って、僕らは空を見上げつづけた。




 青い小鳥の群れは、青い巨大なカーテンのごとく、色の付いた突風のごとくに進み、海賊の城の上に差し掛かった。


 巨大な青いカーテンが、海賊の城を包み込んだかに見えた。明かりが点っていた窓という窓はうごめく青でふさがれ、一切の光が遮断された。


 海賊城は、暗闇となった。


 夜半ゆえ、住人の大半は眠っていた。

 あまりの騒々しさに目覚めた者たちの、恐怖に満ちた悲鳴は、状況を確認してからやや遅まきに上がった。


「なんだ、なぜ灯りが点かないんだ!?」

「おい、マッチはどこだ?」

「いったい何が起こったんだ!?」


――ビーッ、ヂヂヂヂヂヂヂッ!!!


 それは嵐の暴風雨のごとく、風は唸り、頑健なる城塞の、固く閉められた鎧戸という鎧戸へ吹き付けた。

 青い小鳥たちは港に停泊しているすべての船にも襲いかかった。


 東と西と南の港は、青い竜巻に呑み込まれた。


 時間にすればほんの数分間だったが――……それが去ったとき、すべての船は、この世で最も悲惨な、難破船のように変わり果てていた。


 すなわち、帆船の帆布は襤褸(ぼろ)切れの破片となって横棒から垂れ下がり、大砲という大砲はバラバラに解体され、甲板にはあちこち大穴が開いていた。


 船の側面は細かいキズだらけ。鉄の船にはあり得ないほど錆びだらけになり、あらゆる防水効果が剥ぎ取られてしまった。

 これらの船で航海に出るのはとうてい不可能だった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ