9,様々な思惑
「ねぇエイミー、どっちのメイクの方が私に似合っていると思う?」
「私の意見としては左目の方がお似合いになっているかと」
「だよね、やっぱり元の顔を生かした方がいいのかな……」
あと半年で、ついに乙女ゲームの舞台であるアマネセル学園へ入学する。
つまり死亡予定日まであと一年半といったところだ。
勉強はかなり頑張ってきたし、体を鍛えるのも怠らなかった。魔法に関しては相変わらず火花が少し散る程度にしかできなかったけれど、こればっかりは才能がなかったとあきらめるしかないだろう。
もし毒を盛ってしまっても逃げ出せれば勝ち目はあるはずだ。
そして、ここまで頑張ってきた今私は一つ疑問に思うことがある。
「……私本当に、お姉様に毒を盛るのかしら?」
「何か言いましたか、お嬢様?」
「う、ううん、何でもないよ。メイクは左目の方を採用することにする。ありがとう」
「いえいえ、お安い御用です」
何なら私が毒を盛ったとしても、お姉様は許してくれるのではないかと思ってしまうほどに、お姉様は私に対して甘いし、過保護だ。
私もいい加減お茶会やパーティーなど社交界に出なくてはならないのに、お姉様が「まだセレナには早い」としつこく言うから、まだ一度も顔を出したことがない。
原作の乙女ゲームでは、セレナはペネロペが入学した年から学生でもないのに、サイを見たいからと言って学園に入り浸っていたがそのようなこともない。
ついでに言えば、ペネロペに原作でやっていたような程度の低い嫌がらせもしていないし、私の取り巻きであろう令嬢たちとも何も交流はない。
そう、私は全く人づきあいがないのだ!
さらに言えばサイは、本格的に勉強を開始するために10歳で隣国へ留学に行ってしまい、16歳で帰ってきてアマネセル学園に入学してからも、学業と王宮での仕事に忙しく手紙でのやり取りしかなかった。
このままお姉様に毒を盛らずに済み死亡ルートを回避しても、行き遅れてしまうのでは? というのが最近の悩みだ。
だから毒を盛ってしまい隣国へ命からがら逃げた時にも、そのまま平和に終わった時にも、自分磨きをしておくことは損にはならないはず!
「幼いころはなんとなくペネロペお嬢様と雰囲気が似ている気がしましたが、セレナお嬢様は美しく、ペネロペお嬢様は可愛らしくなりましたね」
お姉様は私と同じプラチナブロンドの髪だけれど、そこに薄ピンクの瞳のたれ目を持っているのでとってもかわいい。
対する私は真っ赤な瞳につり目なのでどうしてもきつい印象を与えてしまいそうだ。
それでも、私はお姉様とは系統は違うけれど、磨けば光る容姿であることは自覚している。
「よーし! もっと研究を重ねるぞ!!」
学園に入る前までに身に着けておくべき一通りの勉強が終わってしまい暇な私は、今日も自分磨きに精を出すのであった。
◇◇◇
「おーいサイラス、今時間はあるか?」
「スチュアート殿下、どうしましたか?」
「例の件について話がしたくて……今日の夜私の部屋に来ることはできるか?」
「大丈夫です、わざわざありがとうございます。ペネロペも呼んでいいですか?」
「あぁ、是非呼んでくれ」
ペネロペとセレナの身に起こった誘拐事件について犯人の予想がついたらしい。
どうやら僕と関わっていることによって、セリー達の身に危険が生じているらしいと知ってからは、できるだけセリーには会わないように徹底してきた。
ペネロペは自分の身を守れる程度には魔法を扱えるのに対して、セリーはかなり怪しい。
それに僕はセリーの身に何かあったら、もう生きていけない。
隣国への留学も、今時間がないからと理由をつけてセリーと会っていないのもそのせいである。
用心するに越したことはないと、セリーを社交界へ出さないようにしてくれとペネロペにもお願いした。
ペネロペは、
「そうすれば、誘拐犯にまた遭遇することもないし、変な男に引っかかることもないし、セレナがわざわざ社交界に出る必要はないわね」
と納得していた。僕が二人に出会った頃はずいぶんとペネロペからは警戒されていたが、最近は「他の男に渡すくらいならサイのほうが安心できるわ」と言って、僕を認めてくれた。
そもそも、なぜ姉の承認がいるのかについては未だに疑問だけれど。
「そういえば、スチュアート殿下はなぜ僕らに手を貸してくれたのですか?」
スチュアート殿下はもう27歳になるのに、社交界には一切顔を出さなかった。
浮いた話も聞いたことがない。
だが、1年前のある日ペネロペが突然強力な助っ人が現れたと言って、僕のもとにスチュアート殿下を連れてきたことで関係を持った。
正直、王族という身分の人が入ったおかげで調査は格段に進んだが、僕はいまだになぜ彼が協力をしてくれるのかがよくわからない。
「うーん、しいて言うなら君と同じ感情からと言えばいいかな?」
「そうですか……ますますわかりませんね」
「ふふ、いつか教えるよ」
スチュアート殿下と関係を持ってみて感じたことは、決してできの悪い人間ではないということだ。むしろとても頭が切れる。
彼が社交界に出てこないのは、今の王に逆らうような勢力を集めるリーダーにならないためだといつだか言っていた。
しかしそれなら、僕らの手伝いをするのはあまりよくない。
なぜならペネロペとセリーを誘拐しようとしたやつは、僕の家であるハンプシャー公爵家と彼女らの家であるリンジー侯爵家の婚姻によるつながりで勢力が増すのを嫌ったと考えられるからだ。
勢力争いはスチュアート殿下の最も嫌うことだ。
「やはり勢力争いの一環なのですよね?」
「そういうことになるね」
「そういったものに首を突っ込んでもいいのですか?」
「ずいぶん深く聞いてくるじゃないか。……そうだな、大切なものを手に入れるにはこの問題を解決する必要があると思ってね、やっと決意をしたんだ。君も、そうだろう?」
「そうですね……すみません、まだ頼まれている仕事が残っているのでまた夜に」
「あぁ、また会おう」
早くセリーに会いたい。
あと半年でセリーが学園に入学してくる。
学園内で少し話すくらいなら関わってもいいだろう。
そしてあと一年半で僕とペネロペは卒業をする。
卒業パーティーが終わった後には、貴族の男たちが意中の女性に求婚する婚約の儀がある。
それまでにこの問題を片付けなくてはならない。
それにセリーにはただのお兄さんだと思われているから、何とかして異性として意識してもらえるようにしなければ……まぁ振られてもほかの男には渡さないけれど。
「待っていてね、僕のセリー」
その夜僕らが新しく知ったのは、犯人をおびき出さないとこれ以上証拠をつかむことができないということであった。
僕とペネロペはしぶしぶ、半年後にはセリーを社交界の場に出すこととなるが……
同時に僕はやっとセリーと直接会えることがうれしかった。
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お話は大体折り返し地点です。