5,まずは体づくり
見てくださりありがとうございます。
「うーん……」
私はとっても悩んでいた。何を悩んでいるのかというと……
「私とお姉様はとっても仲良しよね?」
「もちろんです。セレナお嬢様」
そんな当たり前のことを聞いてどうするのだと言いたげにエイミーは答えた。
「私とサイも兄妹のようにとっても仲良しよね?」
「まぁ、仲良しだと思います」
何か含みのある言い方に聞こえたが、仲良しだという点については間違っていないだろう。
あれから一年ほど。先日私はついに五歳になった。
お姉様とサイと一緒に秘密基地で夕焼けを見てから、お姉様とサイはなんだかんだ仲良くなってきたように思う。今じゃ呼び捨てで呼び合っていて、気が置けない友人といった感じだ。ちょっと原作で見たようなお姫様と王子様という雰囲気ではないのが謎だけれど、相思相愛なのは変わらない。
それに、二人は私とも仲良くしてくれる。
五歳の誕生日プレゼントとして、サイとお姉様が庭師と一緒に秘密基地で花壇を作ってくれた。とってもかわいいバラの花をみた時の感動は、今も忘れられない。
「でも、まだ私の死亡エンド回避ができたと油断するのは早いよね……」
「死亡……えんど?」
私が思わず口にした言葉を復唱したエイミーは、不思議そうな顔をしていた。
「……何でもないよ。ちょっと考え事」
「お嬢様はペネロペお嬢様と比べて、ちょっと猪突猛進なところがありますから、あまり変なことを考えないでくださいね?」
どうやら私は相当信頼されていないらしい……
「はぁい、わかってるよ」
「本当にわかっていらっしゃるのでしょうか……」
そんなぼやきを聞きつつ、私はまた考え事に戻る。
誘拐事件の時にも思ったことだったけれど、どうもかなり権力を持っている黒幕がいるような気がするのだ。
原作のセレナだって、やって良いことと悪いことの区別くらいあったように思う。
いくら何でも貴族の令嬢が簡単に毒薬を入手できるとは思えないし、毒薬を実際に使おうなんて思うとは考えられない。
実際原作のストーリ前半でセレナがペネロペにした悪事は、教科書を盗む、上履きを隠す、足を引っかける、パーティーで水をかけるなど、やってはいけないことをしていたが、法に引っかかるようなことはしていなかった。
もしかすると、感情を増幅させる魔法だか薬だかで操られているのではないかと考えるようになってきたのだ。そうではなかったとしても、相当権力を持っている人が、ペネロペお姉様に何らかの恨みを持って、その権力をフル活用しているとしか思えない。
だとすると、今の状況はちょっとまずい。
なぜなら、口ではお兄様みたいとか言っているくせに、やっぱりサイのことを好きになってしまいそうだからだ。
サイと初めて会ってから二年以上たつが、サイはいつだって王子様のようだった。
個人的には原作のちょっと腹黒いサイも好きだったが、実際のサイもとてもかっこいい。
そんな現状では、黒幕に操られてお姉様に毒薬を盛ってしまうかもしれない。
勿論、盛らないように感情を抑えるのが一番だけれど、万が一盛ってしまった時を考えて死刑回避に力を入れるのもありだろう。
そのためには、まず体づくり! 自分の身は自分で守って、自力で逃げる!
そして次に教養をつける! 運よく隣国に逃れることができて、かつ教養があれば男爵とかに拾ってもらえるかもしれない!
さらに自分を磨くこと! これも逃げることができた時に役に立つはず!
このなかだと、教養をつけることが一番大変そうだ。原作のセレナはとにかく頭が悪かったし、魔法の才能もなかった。頑張ってもどうにもならないかもしれないから、優先順位は低そうかな。
そして、自分磨きは……まだ五歳だしもうちょっと大きくなってからでもいいかもしれない。それに、原作のセレナだってペネロペには及ばないが、悪役令嬢だし周りより容姿には恵まれていた。だからきっと大丈夫……なはず。
それなら、
「決めた! まずは体づくりをするぞー!!」
「突然何を言い出すのですかお嬢様! これだから……」
「エイミー! まずは筋トレから始めようかな。うまくいきそうだったらちょっと剣の練習もしてみたいかも!」
「ご令嬢が剣なんて……お父様とお母様、それにペネロペお嬢様が何と言うか……」
「いいじゃん、女の子が剣を握っちゃいけないなんてルールはないでしょ?」
「まぁそうですが……」
「ねぇ、どうしてもだめ? エイミー……」
だてに悪役令嬢になる未来をもつ子供じゃない。目をウルウルさせて、上目遣いで見上げる。
エイミーとは私が生まれた時からの付き合いだそうだ。
あんまりに小さい時の記憶はないけれど、もうエイミーが私のこの顔に弱いことくらい知っていた。
「私がその顔に弱いことわかってやっていますよねお嬢様……。わかりました、お父様とお母様に相談しておきます」
「やったー! ありがとうエイミー、大好き!!」
◇◇◇
「……セリー? 一体何をしているの?」
一心不乱に木剣を振っていた私のところへ、お姉様とサイがやってきた。
「何って、見ている通りだよ? 剣の練習してるの!」
「サイラスも言ってやってよ。セレナったら二か月前くらいからいきなり筋トレを始めてて、それに最近になってついに剣まで振り始めたのよ。私、セレナがけがをしないか心配で心配で……」
「もう、相変わらずお姉様ったら過保護なんだから」
私が体づくりを始めると言って一番反対したのはお姉様だった。
私はそんなことをしなくても大丈夫だって、けがをするのが心配だって必死で止められたんだけど、私の強い意志に負けたのか、最近あまり止められなくなった。
「……ふっ、あははっ! セリーって本当に面白いよね」
しばらく呆然としていたサイが貴族の息子らしからぬ大爆笑をするので、私は少しムッとする。
「そんなに笑わなくてもいいじゃない!」
「ごめんねセリー、馬鹿にしたわけじゃないんだ。君のような人は一緒にいて飽きないなって思って。」
やっぱりサイは人をその気にさせるのが上手い。って駄目だ、好きなったら私は死亡エンドを迎えてしまう。サイはお姉様のことが好きなんだから、勘違いしちゃダメ。
「ところでどうして突然剣の練習なんて始めたの?」
「自分の身は自分で守れるようになりたくって」
その言葉を聞いたサイは少し驚いたように私を見つめて言う。
「それなら、僕がセリーを守ってあげるよ。だからそんなに心配しなくて大丈夫」
そして、片膝をつくと木剣を握っていない方の私の手を取ってキスをした。
「あっ、うん。ありがとう、でも、私も頑張る」
隣ではお姉様が大きなため息をついて私たちを見ている。
私は恥ずかしくてきっと耳まで真っ赤にしながらなんとか言葉をつないだ。
そもそも私の死亡エンドの中には、サイ本人に殺されるものもあるのに……
というか、あれ? 原作のサイは魔法使いタイプだったけど……実は剣も使えたのかな?だとしたら余計かっこよすぎる……
頭の中がいろんな感情と考えでごちゃごちゃになっていると、立ち上がったサイが何かつぶやいている。
「そうだな、魔法が使えるからあまり剣の練習はしてこなかったけど、やらなくては」
「ん? 何か言った?」
「なんでもないよセリー、僕はちょっと用事ができたから、今日はもう帰るね。」
「そっかー。またねサイ!」
足早に帰っていくサイをいまだにごちゃごちゃのままの頭でぼーっと見つめていると、なぜかお姉様が横で
「私も剣の練習を始めようかしら」
なんてつぶやいていた。
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