2,本物のサイ
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姉がさらわれる予定日まであと2日。
私は何か良い策はないかと庭を散歩していた。
そもそもなぜこの警備の固い侯爵邸で誘拐事件など起こるのかと疑問に思っていた。
しかしそれは昨日の夜判明した。
「ペネロペ、セレナ、私とお母さんは明日から急用で王宮へ向かうことになった。すまないが、一週間は帰ってくることができなさそうなんだ。いい子にしていてくれるかい?」
こうしてお父様とお母様は今日の朝、出かけて行ってしまった。
この屋敷に残ったのは、私と姉、そして少し人数の減った使用人たちだけだ。
だから一番頼りにしていたお父様とお母さまを頼るという解決策は無くなってしまった。
かくなる上は、やはり私一人で立ち向かうしかないのかもしれない。
そもそもみんなが私の寝言のような話を信じてくれるとも限らない。
「はぁ、何かいい武器になるようなものでも探してみるか」
とはいえ、二歳児が扱える武器なんて木の枝くらいなのだが。
部屋で考えていた時と同じ発想にたどり着き、あきらめて木の棒探しでもしようとしたその時。
「あれは……」
私は庭の片隅に呆然と突っ立っている男の子を見つけた。
間違いない。あの男の子は……
「サイーーー!」
サイだとわかったとたんに私の足は動き始めていた。それに気づいた侍女のエイミーは驚いた顔をしてサイの方を見る。
サイもサイでいきなり呼ばれたことに驚いたようで、はじかれたようにこちらに振り返った。
その振り返ったサイのところへ全力ダッシュで飛ぶこむ私。サイは困惑しながらも受け止めてくれた。
「何故君は僕のことを知っているの?会ったことがあるのかな……忘れてしまっていたならすまない」
その言葉に私はハッとする。そうだ、なぜ二歳児の私があったこともないサイのことを知っていて、しかも愛称で呼んでいるのか。まずい、このままだと不審者になってしまう。
「え、えーっと、私あにゃたのことを見たことがあるの。だから知ってただけ」
「そ、そうなんだね。それで覚えていてくれたなんて嬉しいな。君の名前も教えてもらっていい?」
「わたち、セレナ! セレナ・リンジーっていいます。」
何とか言い訳できたと安心しつつ、失礼なことをしていることにも気づいて慌てて距離をとり、まだ教えてもらったばっかりのぎこちないカーテシーをする。
「あはは、そんなに丁寧なことはしなくていいよ。そうだね、君のことはセリーと呼べばいいかな?僕のことはどうかそのままサイと呼んでほしい」
私がサイと呼んだことに合わせてか、彼は私を愛称で呼んでくれた。
それだけで前世彼を推していた私は爆発しそうだ。
好きになるのはダメだけど、親友ポジションなら許されるかな……?
ところでなぜサイはこんなところにいるのだろう。お父様とお母様は出かけてしまったし、この屋敷に用事があるわけでもないと思うのだけれど……
そもそもお姉さまと同い年のサイだってまだ4歳だか5歳のはずである。従者もつれずに一人でいるのはおかしい。
ん……お姉様?
「セレナ大きな声を出してどうしたの? ってどなた?」
私が大きな声でサイを呼んだからか、近くにいたのであろうお姉様が駆けつけてきてくれた。なんて優しいのだろう。じゃなくて!
「私もしかして、サイとお姉様の初対面イベントをつぶしてしまった?」
幸いなことに私のつぶやきはお姉様にも、サイにも、エイミーにも聞こえなかったようだ。
間違いない、これはサイとペネロペの初対面イベント、さらにサイがペネロペに一目ぼれするきっかけとなるイベントでもある。
町にこっそり降りたサイは、道がわからなくなって侯爵邸に迷い込んでしまう。その時、この場所で、ペネロペがサイを見つけて優しく、そして親しく話しかけるのだ。
子供だが身分のために大人からも一定の距離を置かれていたサイは、そのペネロペの性格に惹かれたのだ。
まあ、その後すぐペネロペは誘拐されてしまうので、別人として学園で会うことになるまでは会えないのだが。
そう、サイは学園でペネロペに出会う前から想いを寄せていたのだ。乙女ゲームをしていたころはこれぞ純愛と何度思ったことか。
「……」
「……」
二人は無言で見つめあっている。
どうやら私がいても出会いのイベントは無事発生したようだ。ゲームの強制力だろうか。
「僕はサイラス・ハンプシャーといいます」
「私は、ペネロペ・リンジーと申します。ハンプシャー公爵令息ね。どうしてこのような場所に?」
なんだか想像していた初対面とは違う気もするけど……こんなに他人行儀な出会い方だったっけ?
いや、けど数秒間見つめあっていたし……これはお互い惹かれあった証だろう。
「そして、なぜ妹と一緒にいるの?」
「ごめんなさいお姉様。思わず駆け寄ってしまって」
「貴方は悪くないわ。私はサイラス様に聞いているの」
「すまない。どうやら迷い込んでしまったようで、そして妹さんとは今仲良くなったんだ。どうか外まで案内していただけないだろうか?」
「わかりました。エイミー、公爵家に連絡した後迎えが来たら、サイラス様を外までお連れしていただけるかしら?私はセレナと部屋まで帰るから」
「了解いたしました。サイラス様、こちらへ」
「迷惑をかけてしまい申し訳ない。ありがとう」
サイはペネロペに、私に、そしてエイミーにそれぞれ一礼すると、エイミーに連れられて客室のある方へ歩き出した。
「サイー!またねー!!」
かしこまらなくていいという話から、思いっきり大声で叫んだ。二歳児なら許されるだろう。
彼は私たちの方を振り返るとひらひらと手を振って去っていった。
「セレナ、あの人に何か変なことされてない? ……知らない人に近づきすぎてはダメよ」
「わたち? なーんにもされてないよ。心配してくれてありがとう」
先にサイと一緒にいたわたしにちょっと嫉妬してるのかな、などのんきに考えていた私は、二日後に迫る誘拐事件のことなど忘れ去ってしまっていたのだった。
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