虚しくて、愛しい、ファーストキス
僕は南に恋をしている。
でも、その好きな人が、妹だったら……
どうすれば良いのだろう?
僕はまだ、よく分からない……
*
南が妹の麻弥だと知ってからも、いつも通り……
いつもみたいに、おはようと言い、朝食を食べ、研究所に向かう……
でも今日はちょっと違うみたいだ。
「しょー君。今日の夕方、崖に来てくれない? 話があるから……」
研究所に行く途中で、そう言われた。
こないだ色々話したばっかりなのに何だろうと思いながら崖に行くことにした。
僕が先に着いたようで南はいない。
今日もまた、日が水平線に近づいて空が青から赤に変わろうとしている。
ぶふぁぁ
崖の下から潮風が吹き上げ、僕の白衣を揺らす。
……今日は、妹の麻弥が自殺した日である。
とは言っても、麻弥は今、南として生きている。でも、僕にとっては何年経っても重要な日だ。
ガサガサッ
「ごめん……待った?」
「いや、全然」
南が塀の穴から出てきた。そして、崖に背を向ける僕にゆっくりと歩み寄る。
「……今日が何の日だか、覚えてる?」
「うん……麻弥が自殺し」
僕の言葉を遮られた。
「いいや! 違う! 私は生きている。麻弥は生きているの……
だから今日は……南としょー君が出会った日、だよ!」
そうだ。
思えば一年前、僕は麻弥が死んだことでこの崖から飛び降りようとした。それを止めてくれたのは、南だった。
それが、僕と南の出会いだった。
「私、自分がしょー君の妹だと思い出してから、色々考えた。
私は、しょー君の妹だったの。しょー君は優しいしょーにぃだった。
でも、記憶を無くして、しょー君の友達になった。家族みたいに仲良くなった。
そして、私はお母さんに作られたロボットであることを知った。命に変えて作ってくれた、お母さんと同じ形のロボット……
だから私、一体自分が誰なんだか分からないの! 誰でいればいいか分からない!
ねぇ、しょー君。私って、誰だと思う?」
その質問は、僕も南にしたかった質問だった。
「……南は、南なんだ。過去は妹である麻弥。見た目は母である麻弥。(母と妹の名前が同じ)
たぶんそれが南だと思う」
「じゃあ、私はしょー君のお母さんで妹で友達になっていいの?」
「……それなんだけど……」
「ん?」
「僕の恋人になってくれないか?」
風が吹いて、木々がザザ〜っと鳴った。
今日言うつもりでは無かった。でも、今日は僕と南が出会った記念日なのだ。
南はやはり、少し困っている感じだ。そりゃ、妹と恋人になんてな……
パシシューーーーン
鋭い音がして、南が倒れた。
「南…………南! みなぁぁーー!!」
急いで南の上半身を抱え上げた。頭の後ろに何か刺さっている。
「安心しろ! 死んじゃいない」
倒れた南の向こうにいたのは、鮫坂研究所の奴らと、そして、特殊そうな銃を撃ったリーダーだった。
「な……何をした?」
「ふん、我々が新開発した『悪魔の銃』だ」
『悪魔の銃』。名前からして恐ろしい。
「なんだ……それ」
「針が発射する銃だ。針の先から『悪魔の薬』が出るようにしたんだ。開発は大変だった〜。
でも見ろ! 敵が共通なら誰だって悪魔にできる! 沢山の悪魔を作って仲間にできる素晴らしい銃だ!! はぁっははは!」
「……ふ、ふ、ふははははっ!」
これは、相手をうろたえさせるために無理に笑っている。
「んぐっ!……何が面白い!」
「南は僕の味方だ! 敵なんかじゃない」
「ふっ、それはどうかな?
こないだお前が敵だとプログラミングしてある」
南が震えながら起き上がった。
目は、赤くなっている。悪魔になってしまった。
カチャ
南が手首に付いた銃を僕に向ける。
「南……おい、僕だぞ……」
「早く撃て!」
鮫坂研究所のリーダーが南を煽る。
さっきまで僕と真面目に話していたのに、悪魔になれば殺すのか?
「ふ、ふふん、ふあぁぁ!!」
南の銃は震えている。というより全身、特に膝が震えている。
南は確実に悪魔の効果を抑えている。正気でいるのだ。
「馬鹿な……」
リーダーがあり得ないという顔をする。
南は自分の中の悪魔と戦っているのだろう。
「わ、わた、しの、だい、好きな、しょー君を、殺せるわけが、ないでしょうがぁー」
南の目が、どんどん赤から茶色に変わっていく。
悪魔の効果が消えている!?
ふうぅ
南がため息をつく。そして素早く奴らの方に振り返り、武器という武器を次々に撃ち払っていく。
その姿は恐ろしくも美しかった。
奴らは信じられない光景にあっけをとられている。
南が僕の方に向き直る。
「しょー君、私で良ければ、恋人になってください!」
思いもよらぬ邪魔が入ったが、恋人の話に戻った。
「……ありがとう! これからもよろしく!」
後ろに鮫坂研究所の奴らがいるが、そんなの気にならなかった。
2人で顔を見合わせて笑った。
「ロボットの分際で俺を裏切るのかぁ!! クソくらえぇ!」
そう叫んでリーダーがこっちに走ってきて、南の背中を蹴り飛ばす。
はぁーー!?
…………南が、崖から落ちる。
僕は母も、妹も守れなかった。だからこそ僕は……
「南を、守るんだあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
僕は崖から落ちそうになる南の前に入り、自分は下に落ちながら、南を崖の上に押そうと思った。
せめて最後くらい、大切な人を助けさせてくれ!
だが、うまくいかなかった。
2人で崖から落ちていた。
……そんな、そんな、……最後の最後に、南と一緒に死ぬなんて……
絶望してどんどん下へと落ちる僕は、唇に何かを感じだ。
一緒に落ちている南が僕とキスをしてきた。ロボットとは思えないくらい、甘くて、柔らかくて、温かい唇だ。
キスをしたまま南は言った。
「愛ひてう」
唇が言葉に合わせて動くのを感じだ。
僕も言った。
「愛してふ」
それは、虚しくて、でも、幸せなファーストキスだった。
母の麻弥、妹の麻弥、そしてロボットの南……
3人中3人が恋人になった僕は幸せな不幸者。
*
*
*
追記
僕と南は死んでいなかった。
今までの話は長くて愛しい物語の始まりに過ぎなかったのだった。
完結しました。
よかったら評価と感想をお願いします。
もしかしたら、2章を書くかもしれません。




