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息子との運動の効果は覿面で、凄惨な事件に遭遇したにも関わらず、その夜は五分と経たず意識を手放せた。
そうしてスッキリ迎えた翌日は、文字通り上へ下への大騒ぎだ。早朝の職員用連絡網で召集された全教師達へ、説明役として出向いた昨日の刑事と共に、事件のあらましを伝達。続く質疑応答の後、各担任達へ至急候補の生徒のピックアップを依頼し、ようやく緊急会議は終了した。
「―――で、理事長。どうして俺達だけ呼び出されたんすか?」
短髪を掻き毟ながら中等部体育教師、アラン・アンダースンが尋ねる。その横ではきキューが細い肩をこれでもかと強張らせていた。幾ら夢療法で記憶を封印されているとは言え、愛する家族のそのような姿を見るのは悲しい限りだ。
「あ、もしかしてハイネの奴の事ですか?あいつ、例の条件にドンピシャですし」
「正解です。彼は下宿生の上、今は部活で帰宅も遅い。出来ればお二人には親御さんに代わり、彼に注意を払っておいて欲しいのです」
「任せて下さい!ね、アラン君!?」
胸の前で両拳を握り締め、苦笑する幼馴染を他所に元気良く返事する音楽教師。全くこの子ときたら、『ホーム』の頃から何一つ変わらないな。
「当たり前だ。となると、あいつが学校にいる今の内に作戦立てとかないとな。理事長、話はそれで終わりですか?」
「ええ。二人共、お忙しい所来て頂きありがとうございました」
「じゃ、俺達はこれで失礼します。行くぞ、キュー」
「うん。失礼しましたー!」
バタン。パタパタパタ……!遠ざかる行く足音もやがて途絶え、私は革製の背凭れに体重を預けた。
(さて。一民間人としては、これが精一杯の防御策だ。贔屓もいい所だが、あの子には私の老後のためにも是非、末永くロウと仲良くして欲しいからな……)
「ふふ……」
ランファは生憎もういないが、メアリー。グルメで大食な君だ、きっと新しいコックの味にも満足してくれるだろう。




