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それから特に何事も無く二日が過ぎ、六月四日の夕刻。
“黄の星”での会議から直帰後、明るい内にシャワーを浴びて寝巻きに着替えた。来週も二度の出張、更には被害者生徒の葬儀と忙しい。休める時にしっかり休んでおかないと。
人目を気にせずソファに寝そべり、以前貰ったワインをチビチビ。そうして心地良い酔いが回る中、古典の経営指南書を捲る。まだ私が理事長就任前に自腹を切った一冊で、表紙には幼き日の息子の涎跡が残っていた。
そうやってのんびり明日への英気を回復させていた所、ダイニングテーブルの携帯電話が鳴った。仕事関係は帰宅と同時にマナーモード。しかしプライベート、要するに子供達と弁護士の番号だけは着信音が鳴るよう設定してあった。
「少し待ってておくれ。今出るから」
アルコールで若干ふらつきながら移動し、手に取ってナンバーを確認。ビ・ジェイ君からだ。大方一昨日契約し損ねた書類の件だろう。生憎既にパジャマ姿だが、真面目な彼女の事だ。サインすると言えば、暗くなるまでに必要一式を持って来てくれるだろう。
ピッ。「ああ、ビ・ジェイ君お疲れ様。良いタイミングで掛けてきてくれたね。丁度家で寛いでいた所だよ――――ビ・ジェイ君?」
普段なら即座のレスポンスが無い。咽喉の調子でも悪いのだろうか?
「どう」「―――済まない、……リー」「え?」
何だ、やけに声が遠いぞ?
「もしもし」
「……済まない。今から旅行に出るので、数日連絡が取れない事を伝えたかっただけだ。では」
「あ、ああ……分かっ」
ブチッ。挨拶抜きで切る所は如何にも彼女らしいが、
(何だ。この言いようの無い胸騒ぎは……?)
無意識に書棚の上へ視線が行く。まだ家族三人がこの家にあった頃の写真へ、とりわけ穏やかな笑みを浮かべる死者へ、私は静かに語り掛けた。
「知っているなら教えておくれ、ランファ。私達は後三ヶ月でメアリーを迎えに行かなければならないのに、この上一体何が起こると言うんだい……?」




