12
弟子から光源を奪い取り、『それ』を直視した師。彼の絶叫は薄幕の夢想を容赦無く切り裂き、私を否応無く現実へと引き戻した。
「な、な、何とおぞましい……!!」
ショックで尻餅を着く彼を支え、零れ落ちかけた携帯を取り戻す。虎老は口端から泡を出し、ガタガタと歯を震わせていた。それでも過去の修行が功を奏したのだろう。よろけながらもどうにか自力で立ち上がり、埃で汚れた尻を掃った。
視線を遮るよう、背で彼を庇う。一歩後退したのを確認し、意を決した私は再度正面から見据えた。
通話相手は諦めたらしく、何時の間にか着信音は止んでいた。沈黙する機械の横には、所有者が学生服を纏ったまま大の字に横たわっている。ピクリとも動かないものの、首から下は一見正常。だが、
「何と、酷い真似を……!」
黒髪を肩口まで伸ばす彼は、文字通り眼窩のみを抉られグシャグシャにされていた。そのせいでデスマスクは絶叫のまま硬直し、与えられた絶望と激痛が如何に残酷な物だったかを雄弁に物語っている。
「くそっ!うぇえっ……」
嘔吐に近いえづきが耳に入った瞬間。圧倒的不安に苛まれた私は、咄嗟に師を呼んでいた。
「あなたは行って下さい!通報は私が」
「何?しかし」
「早く!!」
元はと言えば好奇心に負け、巻き込んだ私の責任だ。この上長い聴取にまで付き合わせたくはない。その罪悪感にも増して―――我が心にあったのは、彼と同居する息子の事だった。
「コン」
「お願いです、師匠。どうか戻って、あの子を……ロウの無事を確認してきて下さい」
見た所、遺体は息子とほぼ同年代。制服こそ公立校の物だが、それが果たして何の慰めになろうか。
親馬鹿の必死振りに心動かされたのか、分かった、師は重々しく首肯。
「ここはお前に任せる。一緒に儂がおった事は矢張り」
「ええ、くれぐれも他言無用でお願いします」
師と私の縁を知れば、あの子は必ず疑念を抱くだろう。最悪、自ら今の居場所を捨ててしまいかねなかった。
一足先に人工の光の世界へ戻った彼は振り返り、弟子に一礼した。
「では頼んだぞ、コン」
「はい。師匠も充分お気を付けて」




