ver.032
「最初に私のプログラムを破った人間が居たと言ったね。それが、この女性、有野間麻友だ。彼女は、幼少期、愛する母親に散々罵倒され、そこで精神に乱れが生じてしまった。それに加わって、もともとリンクと相性が良かったのだろう。私の結界を無効化すると、公園に迷い込み、一人で泣いていた。そこでリンクが組み込まれ、彼女に能力が芽生えてしまったのだ。先ほども少し言ったが、有野間麻友は確率を操作することを可能としている。動かないはずの私の装置を偶然として起動させ、自身をとある駅のホームへ偶然移動させた。母親に貶されながらも、遥か昔、愛されていた記憶が忘れられなく、会いたい一心でだ。本来なら、初めに結界を無効化した人間は会川なのだが、私が、それに気づいたのは、別の人間によってとなる」
「母親が自殺した女の子、だっけ?」
「そうだ。会川は、私の感知さえも、はじいていたのだ。自身に降りかかる不利を、偶然確率として拒絶していた」
「すげぇ、無敵じゃん」
「あぁ、更に無意識に発動し続けている点も、恐ろしいよ。その後、彼女は成長すると、次に、先ほど見せた屋敷に施されたリンクまで見抜いていた。実は、私は暇つぶしのために、その屋敷を舞台に、君達が好む『ゲーム』を作っていたのだ。実験で壊れた人間を殺し、思考をデータ化して、それをモンスターに組み込み、闘うという単純なモノだったがね」
ゲームという単語が出てきて、ちょっと胸が鳴る。更に、それが今まで私達が体験してきたあの世界と同じで、胸の音が大きくなる。
「ってことは、あの世界は、カラスさんが作ったゲームなの? しかも、モンスターは、元々人間?」
「そうだ。初めはAIを一から組んでもよかったのだが、それでは味気なくなってしまうと危惧した。リアルな無駄な動きや人間の卑怯な動きを取り入れたかった。君達が必死になって殺したモンスターは善良な人間だよ。まぁ改造しすぎて、ほとんど原型が無いがね。それと、本来なら様々なイベントを用意するつもりだったのだが、リアルに時間が無くてね、あの程度に収まってしまった」
そう言われると、一階のサソリは人間臭い挙動があったし、二階のタコの触手は、人間のように擬態をすることが出来た。三階なんて、もろ人間だもの。ってか、それよりも、
「ただモンスターを倒す一本道なゲームなんて、クソゲーじゃん。まともなイベントなんて、湊と楽しい戦闘はあったけど、あれだけだし……、三階のステージなんて、色々と作りこみが甘い。なんか伏線の欠片みたいのが結構あったし」
「本来なら、五階まで作るつもりだったが、研究と同時に制作するのは、なかなか骨が折れるんだ。あまり責めないでくれ。さて、その屋敷は試作段階であったが、色々と改造しながら、リンクも施した。そこには、モンスターの元となる人間の思考だけを配置していた。人の影のような生物だった。そこに、彼女は友達を引き入れて入ってきてしまったのだ。おかげで、未完成だった思考達は暴走を始めてしまい、彼女達を襲い始めた。思考という存在となっても、まだ人間としての存在を本能で諦めきれなかったのだろう。おかげで『ゲーム』はむちゃくちゃだ。完全に壊れてしまった」
カラスはやれやれと下を向いた。私もつられて下を向いてしまう。足元から地球が眺めた。地表に近い部分で、白い雲が渦を作り、一気に広がる。巨大な台風でも起きているのだろうか。
「幸いにも、私はちょうど制作を行っていたので、彼女達を確認することが出来た。そして、有野間麻友が、最初に公園に入り込んでいたことも知る。侵入した二人をそのまま捕獲しようとしたのだが、困ったことに、一緒に居た友達には、逃げられてしまったんだ。有野間麻友の力によって、だ。しかし、友達を逃がすことで力を使い切ったのか、有野間麻友は捕まえることが出来た。そして、彼女を分解し、精神、肉体の両方から調べ上げた。最後に、私は有野間麻友を殺し、思考だけをデータとして抜き取り、次のゲームにでも使おうかとプログラムに組み込んでおいて……」
「あの、さっきから思考、思考、シコシコうるさいんだけど、その思考って、なんなの?」
「その人間の、心のようなモノだ。記憶から構成された、人物像に近いな。それを、私は保存しておくことが可能なんだよ」
「ふーん、よくわからないけど、もういいや、どうせ理解出来ないし」
これから何かあっても、それは全て宇宙人の凄いテクノロジィと納得することにしよう。それと、有野間麻友ちゃんはそこで死んじゃったのか。
「そうだな。だが、有野間麻友のおかげで、逃げることを可能とした友達――『会川看奈』は、思考に襲われた記憶を持ったまま、存在している」
「あれ、そういや、有野間麻友も、会川って名乗って、ん、会川が二人?」
「その意味は後程教えてあげよう。看奈は、私のプログラムから外れているので、私は焦った。いくら事実が発覚しないとはいっても、その可能性は零ではない。もしも、これがきっかけによって、我々の存在が気づかれたとなると、私の立場も不味くなる。よって、看奈の通っていた小学校にリンクを施し、彼女の捕獲に移った。思考に看奈を捕獲するようにプログラムし、追い詰めたはずだった」
「でも駄目だったんでしょ」
「あぁ、そうだ。思考となっていたはずの有野間麻友が、またしても私の邪魔をしたんだ。看奈を勝手に保護すると、リンクから逃してしまった。加えて、私の作り出したプログラムからもだ。おかげで、今現在になっても、私は看奈に手出しできない」
有野間麻友ちゃん強すぎ。一度、どんな人なのか会ってみたくて、既に死亡していることを思い出した。残念。
「私は、その時点になって、有野間麻友に強い興味を抱いた。そこで、私は有野間麻友の思考を元に、彼女が成長した時に出来る体を制作すると、そこに思考をインストールした。有野間麻友としての記憶は封じ込めたはずなのだが、有野間麻友は、自身を『会川奈々(あいかわなな)』と名乗った」
「会川看奈と……似てるね」
「記憶は忘れたが、深層心理に刻まれた記憶は、そう簡単には剥がれない。親友であった『会川看奈』の名前を元にしたのだろう。ゲームを壊されて暇になった私は、研究の傍ら、会川奈々を使って遊ぶことにした」
“遊ぶ”と口にした時のカラスは、邪知なマッドサイエンティスト、ではなくて、純粋に楽しんでいたような表情を見せたので、私は驚いた。なんだ、血の通っていないエイリアンじゃないのか。
「適当に素性を作成し、過去をインプットして、その能力を余すことなく発揮できる、そんな夢のある職業についてもらった」
「確率を操作するってことは……凄腕のギャンブラーとか? 麻雀やったら、国士無双はもちろん、嶺上開花、海底撈月、九蓮宝燈、四槓子、天和など、聞いたことしかない役でも上がり放題じゃん! 数十年かかりそうな顎の尖った卓も、一週間で〆そう」
「違うよ」
「じゃあ、何?」
「殺し屋」
一瞬口が動かなくなった。
大きく深呼吸して、笑いそうになるのを押さえながら、カラスの顔を見る。嘘は、ついていないみたいだけど。まぁ、宇宙人がこうして目の前でヘラヘラ笑っているのだから、殺し屋くらいは居ても不思議じゃない……か?
「そういう系の職業は、漫画とか小説だけじゃないの?」
「君の国でも、探せばいくらでも居たよ。ちなみに、私も会川に陰ながら協力しようと思って、殺し屋団体を作り上げた。会川は、初めは金持ちの子供を守るボディーガードとして、不埒な想いを抱いて近づいてきた人間を殺すことで名を馳せると、殺し屋として会社を設立した。私もサポートしていたが、自身の能力を使って、それなりに必死に働いていたよ」
「確率で殺すの? どうやって? 銃を撃って百発百中とか?」
「そんな手間をかけずに、確実かつ簡単に殺す方法がある」
「何?」
「押すんだよ。会川は、ターゲットを駅のホームや、広い交差点の先に偶然立たせると、背後から忍び寄り、そっと背中を押して、突き出して、轢かせるんだ。もちろん、周りに居る人間には、偶然気づかれることは無い。能力によって、だ。成功率は百%だったな」
「そういう使い方もあるのかー。あ、でも、さっき殺されたって言っていたけど、どうやって?」
「私が最初に公園に入り込んだことを見つけた、女性が居ただろう」カラスは画面を操作して、白いコートに包まれた女性をまた映し出した。
「彼女の名前は、『海咲恵』という。ケイと名乗っていたな。彼女の姉が殺されたと言ったね。それを執行した人物が会川奈々なんだよ。ケイの姉は、父親を寝取り、以前のような優しい父親を変えてしまった女性を心の底から妬み、殺そうとしていた。だが、その寝取った女性の父親は、界隈の中では有名な弁護士でね、娘に何かあったら困ると、会川がボディーガードとして雇われていたんだ。刃物を構えながら接近する姉を発見した会川は、人知れず殺した。記録では、ケイの姉は自殺となっているが、ケイは自らの能力、『未来予知』を駆使して、会川の存在を着きとめた。そして、会川に対して復讐を始めたんだよ」
「でもでも、会川の力の前じゃあ、未来予知を使えても、無理だと思うんだけど……」
「それも、ケイ自身が理解していた。ケイは、同じように能力を持った人間を集めると、会川を直接殺すのではなく、外堀を埋めてから、殺すことにしたんだ」
「会川の能力を、無効化した?」
「いや、逆だよ。会川が死にたいと願うようにしたんだ。そうすれば、能力は彼女が願う方向へベクトルを強めることになる。会川は、有野間麻友の頃、母親に捨てられ、親友と離ればなれになっている。その寂しさを忘れられなかった。だからか、似たような女性を好む傾向があった」
「……レズ?」
「それとは、また話が違うな。その事実をケイは着きとめると、会川が好む外見で、なおかつ、能力を持った人間を探し当てた。名を、『渦原数子』という。特別な声色を持った女性で、感情を強めて声を発すると、聞いた者の脳にパニックを引き起こし、まるで操るかのように、相手を動かせられる。渦原を、会川の会社に送り込み、会川奈々と親睦を深めたところで、裏切らせた。ケイは、渦原が本気で会川奈々を裏切るように、前もって、渦原の恋人を会川に殺させ、その動画を魅せながら任務を決行させた。それによって、会川は死んでしまったんだ」
カラスは寂しげに言った。まるで、自分の娘が死んでしまったかのように。その儚げな姿に同情しかけて、会川が殺し屋だったことを思い出した。そうだよ、人殺しなんて絶対に許されないんだよ。死んで当然ですね、はい。
カラスはそこで、腕を壁から離した。画面に映っていた映像や画像が全て消え去った。後には、また宇宙空間が広がるだけだ。
「で、あのカラスさん、もうそろそろ、私について、教えて欲しんだけど。いやさ、今まで色々私達の地球から、会川奈々の死亡まで話を聞いてきたけど、私、関係なくない? 話に一瞬も出てこないじゃん。宇宙人に拉致られてドキドキしていたけど、無関係の人の話で、飽きてきちゃって……。それに、お腹も減ったし……」
刹那、椅子の下から細い棒が伸びてきて、そこにパンが置かれた。フカフカで焼き立て、物凄く美味そう。唾が出てきた。
「他に、飲み物は居るかい? パンが嫌なのなら、肉や魚も出せるが?」
その提案に思わず喉が鳴った。けど、「いや、やっぱり、いいや、お腹減っていない」と言ってしまう。
「そうか? 後悔するなよ」
「うん」
パンは消えてしまった。
残ったのは、人工的な、匂いだけだ。今、目の前に差し出されたパンは、あまりにも綺麗すぎた。人が作ったような、不自然さが皆無なんだ。機械が作ったパンとはまた違い、妙な気持ち悪さを持っていた。
だから、私は拒んだ。
おかげで、本当にお腹が減ってきた。
「さてと、君は、この写真に写っている人物を知っているかな」
カラスが、今度は両手の指を合わせた。途端に、私の目の前に一枚の写真が出現する。
三人の、家族が映っていた。
夫婦に、幼い娘が一人。
どこかで見たことのあるような……。でもはっきりと思い出せないので、私の記憶違いか。ため息が出る。またどうでもいい長話が始まるのかと思うと、私は泣きそうになった。「君の、両親だよ」
「……え? ちょ、今なんて」
「その写真に写る二人の男女は、生物学的に、君の両親となる。ちなみに、その写真の中央で、夫婦に挟まれている、こちらを睨みつけるような眼光を飛ばしている子供が、……君だ」
「待って、話が読めない」
「君の母親――君が、殺した母親が居るだろう?」
「結果的に殺してしまった母親なら、一人居た気がするけど、それが何?」
自分の心臓が音を立てていることに気づいた。無意識のうちに、何度も髪を撫でつけてしまう。
「そのおかげで、マコという架空の人物に化けていた私は、気づかれてしまったね。事故の後に死んだものだから、てっきり君は無関係だと思っていたんだよ。だから、あんな些細なミスをしてしまった」
「ちゃんと調べなきゃ、駄目だって」
「あぁ、今後の良い教訓となった。と、それは置いといて、君のあの母親は、……君の本当の母親ではない」
「嘘ッ。……それは、嬉しいかも」
自然と笑みになる。それを、カラスは不思議そうに眺めてきた。
「そんなにあの母親が嫌いだったのか?」
「うん、幼少の頃でもわかるくらい、母は人間として劣っていたから。ドンくさいくて馬鹿、オマケに頭も悪い。そのくせ私を妙に可愛がってくるから気持ちが悪い。あぁ、そっか、湊に似ているんだね。で、私はずっと、そんな人間が、私の母親とは、なんて最悪なんだ……、て嘆いていた。父が居ないのも、どうせ逃げられたんだろうと、思っていたの。体の血を半分抜き取りたいって、本気で思うこともあった。ってことは、カラスさんは、私の、……何なの?」
何故、私の母親が違うことを知っているのか。
何故、私の本当の母親を知っているのか。
その疑問と、私の頭で綴られる予想の答えで、内臓が体の中で螺子曲がっていくように、奇妙な統失感に襲われる。
「君の偽物に母親に、私は偶然出会ってね、新しく出来上がった君を、託したんだ。彼女は偶然山の中を歩いていた。彼女の素性を調べると、特に思い当たる過去や現在の繋がりは無い。これ幸いと、君を一人で生んだという記憶、無職だったのだが金を稼げるように会社に入っているという記憶を植え付けた」
「新しく出来上がった、……私が?」
嫌な言葉が出てきて、内臓どころか、心臓まで螺子曲がっていく気分だった。
そんな私の内心に関係無く、カラスは私から目を離すと、上を見上げた。物思いにふけるように、ゆっくりと口を開いた。
「君の父親も、面白い人間だった」
カラスはニヤつきながら言う。だが、それは笑みというよりは、苦しみの表情に近かった。
「会川にトドメを刺す人物は、先ほども述べたが、『渦原数子』という女性だったが、そこに至るまでの最後の手段として、……『鬼十』という名の男がいた」
「き、亀●?」
「鬼、に、漢数字の十で、鬼十だよ。彼は特異な人間でね、弱者に対して拷問をするのが大好きだった。金槌一本を持って、何も能力を持たないのに、依頼を受けた場合、全て成し遂げていた。潜在的なポティシャルなら、会川よりも上なのかもしれない」
「えっと、もしかして、私の父親って、それに、この写真に写っているこの人が……ちょっと待ってよッ!」
私は立ち上がっていた。「今、その人の……名字を言ったよね……」
「あぁ、そうだ。鬼に、十と書いて、鬼十と読む。君の本当の名前は、鬼十恵、だ。」
「い、いやー、最悪。なんじゃその名字は……。絶対にイジメられるじゃん。よかった、是々木でよかったー。それだけはあの人に感謝しておこう」
私の学生生活が、皆にち●こち●ことからかわられる想像が簡単に出来て、吐きそうになった。
「そして、君の本当の母親なのだが、恐い人間だった」
恐いと聞いて、私の目の前に浮かぶ写真を見つめた。
その女性は、優しそうに、笑っている。
どこにも恐いと思える場所は無いはずなのに、カラスは怖いと言った。
カラスは初めて、自分の心情を吐露した。今まで楽しいとか、面白いとか言っていたけど、それは表面だけの想いで、本心ではそう思っているとは私には感じられなかった。戯言というのか、本音じゃない。でも、言葉には、私達人間と同じような位置で、言葉を発していた。
「私は、君の本当の母親を殺すつもりだった」
「……え?」
「だが、殺す直前で、君の母親は、私を見破ったんだ。完璧に人間の姿や振る舞いを行っていたはずなのに、彼女はそれを意図も簡単に見破ったんだ。もしかしたら、私が地球の生物ではないと、そこまで見破っていたのかもしれない。……私は、正直、君達人間を馬鹿にしている。私達に比べれば浅はかな知恵で生きている生物だからな、当然だよ。私は、人間に対して、つねに上から接していた。同じ位置から会話を交えることは、絶対に無かったんだ。だが、あの時、あの瞬間だけは、私は君達人間に、引きずり降ろされた。頭をわし掴みにされ、逆に、人間に遥か彼方から見下された……。本当に驚き、そして、怖かった。私は、あの瞬間、死すら覚悟した。リンクを得てから、そういう感情とは無縁に生きていたはずなのに。……彼女は純粋な力を得ていた。私が思うに、あれは人間の進化の一部なのかもしれない。肉体的に約二千年以上動きを辞めてしまっている。次の段階として、思考から繋がる理性、新たな力を、得ようとしているのかもしれない。彼女は、相手の気持ちを手に取るように理解する力を持っていた。運が良ければ、君にも遺伝しているかもしれないな」
「カラスさんは、私の母を殺そうとしたんだよね」
「いや、殺した」
カラスは静かに言い放つ。
「君の父親の人質となったんだ。会川をサポートしていた私は、君の母親をとあるレストランに誘い込み、毒の入ったデザートを食べさせることにして。鬼十が会川を追い詰めることを辞めないと、妻、それと子供を殺すと、脅した。だが、鬼十はそれに応じなかった」
「子供って、私?」
「そうだ」
「私は、生きている」
「一度殺した」
ひゅんと、風が頬をなでる。この部屋で風が起こるはずがないのに。すぐに気づいたけど、自分の口から風が変な方向へ噴き出ていた。
「君は母と共に死亡した。だが、私は君のことを惜しいと思ってね。毒の入ったデザートを食べて二人が動かなくなった瞬間、私は君だけを助けることを決心した。と、言ってももう既に死んでいる。なので、思考だけを取り出すことにしたんだ。そして、成功した」
思わず、私は頬を撫でてしまう。髪も、体のいたるところを、触っていた。
普通の人間のはずだ。
ってか、「私は、誰なの?」
「君の思考を保存している最中、君の偽物の母親を見つけた。彼女は、山に居たと言ったね。死体を埋めに来ていたんだ。彼女は、自分の不注意から近所をうろついていた幼女を殺してしまい、その死体をゴミ袋に包んで一人埋めに来たのだった。それを発見して、先ほど言った通りに、君を彼女に託した。詳しく述べると、その死体に、君の思考をダウンロードし、インストールしたんだよ。元の体は毒が廻って使い物にならないのでな。ちょうどよかったんだ」
私は立ち上がっていた。
そのまま、自然と後ずさりしてしまう。背後に倒れそうになったからだ。
拳を作って、手のひらに爪を差し込んだ。
痛い。
痛い、痛い、痛い。
これは、……現実なの?
「そう焦るな」
「だって、でも、……私は、私は、一体、人間で、え、……是々木恵だもの。そんな、作り物じゃ……。私は、一七歳の、普通の女の子のはずなのに」
「問題は無いよ。君が以前使っていた脳は一度消去したでで、何も記憶は無い。君は、君なんだ。肉体だって、九九%は人間と同じなんだよ」
ん?
九九、ってことは、足りないじゃん。
「その一%は?」
「君は、今、一七歳と言ったね」
カラスが語気を強めて言ったので、私は一瞬たじろいで、少し冷静になった。
「……明日から、一八歳になる」
「それなら、君は既に一八歳になった。今、ちょうど一二時を超えたところだから」
「それが、何ッ?」
「あと、二四時間だね」
「……何が?」
と言いつつ、私は、その意味を理解していたのかもしれない。
「君が他の人間と違うところは、寿命なんだ。一八歳と二四時間、それだけしか、君は生きることは不可能なんだよ」
カラスは久しぶりに笑ったみたいに、笑った。




