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黒之戦記  作者: 双子亭
第2章 雲海の古城
32/33

『化け物退治へ』第2話

遅れて申し訳ないです。

なかなか思うように書けない&書く時間が割けないで半年くらい更新できなかった。

        竜臥山脈、地下水脈ーーーー









「………う、うぅ」



 俺は体中に激痛を感じながら、目を覚ました。どうやら洞窟の中のようで、傍らで燃える焚き火によって岩肌の天井が照らし出されていた。耳を澄ませるとゴォゴォと水が激しく流れる音が聞こえ、顔を傾けると少し先を水が勢い良く流れていた。身体を動かそうと試したが、動かなかった。特に左手と右足に痛みを感じて上手く起き上がれない。



「ここは、どこだ?」



 焚き火の明かりの範囲で分かる所を見渡すと、どうやら人工的に作られていることは分かるが、ここがどこなのかを特定することは出来なかった。



「………起きた?」

「アヤノ、か」



 不意に声をかけられ、そちらを向くとアヤノが何かを抱えて立っていた。抱えているものを地面に置くと、俺を起こした。



「………水、飲む?」

「あぁ、頼む」



 アヤノに水を飲ませてもらいながら、俺はアヤノに尋ねた。



「ここがどこか、分かるか」



 アヤノはシュンとしながら、首を横に振った。



「そうか……」

「………ごめんなさい」

「ん?」



 アヤノを見ると、俯いていて表情がよく分からなかったが、気落ちしているのは分かった。



「………守れなくて、ごめんなさい」



 どうやら化け物の攻撃から俺を守れなかったことを後悔しているみたいだった。俺は頭を撫でようと腕をあげようとしたが、痛みのせいでそこまで上がらず、代わりに彼女の手を軽く握った。



「川に落ちた俺をここまで連れて来てくれたのは、アヤノだろう?」

「………うん」

「ケガをしても俺はこうして生きている。十分に俺のことを守ってくれたじゃないか」

「………………」

「それに、今回失敗しても次はちゃんと守ってくれるんだろ?」



 アヤノは勢い良く首を縦に振った。



「なら、それでいい。それよりも早くここから出よう。出口はどこにあるかわかるか?」

「………出口はない」

「えっ!?」

「………でも、気になるものはあった」

「そこへ連れてってくれ」



 アヤノに支えられ、俺は洞窟の奥へと移動するとそこには石で作られたドーナツ型のモニュメントのようなものがあった。作られてからかなり時間が経過しているのか、半ば崩れかけている状態ではあるが、モニュメントの手前には階段があり、ドーナツの中央の空洞へと続いていた。それがまるで出口であるかのような気がした俺は、そっと石造物に触れた。





ーーーー霊脈式転送装置





 能力を使ってみると、頭の中に転送装置という言葉が浮かんだ。



(転送装置……… そんなものがこの世界に。いや、今はそんなことよりもこれをなんとかしないと)



 能力で読み取りながら、アヤノに指示を出し、崩れかけた装置を直しにかかった。幸い、動力源が霊脈ということなので、霊脈と装置を繋げて、破損箇所を直せば使えることが分かったので、いくつか手頃の大きさな岩をアヤノに持ってきてもらい、それを能力で加工して、装置に組み込んでいった。



 作業開始から1時間くらいで修復は完了し、装置は無事稼働した。ただ、修復材料が粗悪だったのか、バチバチと音を立てながら、徐々に崩れかけていた。



「あまり保たないな。アヤノ、飛び込むぞ」



 アヤノは頷くと俺を背負いそのまま石造物の中央の空洞へと駆け込んでいった。









        竜臥山脈、裂け谷ーーーー









 竜臥山脈の中腹、裂け谷の入り口で1人の女が谷底を虚ろな目で眺めていた。彼女の名はアメリア。サイトウ軍の1個大隊を率いる大隊長で人間とエルフの両方の血を持つ混血児であった。ユウキが裂け谷に落ちた日、彼女もユウキと同道して化け物に遭遇した。己の主君との間に飛び降りた化け物に対して、一瞬怯んでしまったが、すぐに立て直し、部下とともに攻勢に出たが、化け物の身体は鋼のように硬く、剣や槍、矢が通らなかった。攻めあぐねていると部下から崖下を見るよう言われ、見てみると主君と護衛の竜人が落下していくのが見えた。



(そんな、バカな………)



 信じられない、いや信じたくなかったが、主君は護衛とともに崖下へ落ちた。剣を振るうことさえ忘れて呆然と崖下を見ていたが、すぐに気を取り戻し、眼前の敵に集中しようとしたが、その化け物はジリジリと後退し、しまいには逃走していった。



 最悪だった。主君をなくし、討伐目標を逃したのだ。大隊長として大きな失態であり、流民上がりで何の後ろ盾もない彼女には今後の彼女の立ち位置を危うくさせるには十分な失態だった。



(なんということだ!)



 彼女はすぐに部隊の中で先の化け物との戦いで傷ついた者を砦に返し、砦から援軍を出して残りの部隊とともに主君の捜索にあたらせた。そして一夜探しまわったが見つからず、今は小休憩の時間だった。アメリアは左手の親指の爪を噛みながら眼下の川を眺めた。



(こんな所で、こんな所で躓いていては!)



 アメリアは帝国出身の流民だった。とある軍閥貴族の側室に生まれた彼女は幼い頃から父親に剣術、槍術、馬術を習い、軍事に関する知識も修得し彼女自身の才能と努力の結果、帝国軍の中でも頭角を見せてくる所まで来ていた。



 だが、現実は彼女の努力を否定し、彼女は軍を離れ、国外へ逃げなければならなかった。それは帝国の人間至上主義によるものだった。帝国の上層部は人間以外の種族に対しては非常に排他的であり、彼女が軍上層部に食い込んでくることを良しとせず、結果彼女にあらぬ失態を着せて、地位降格を計ったが、人間至上主義者の毒牙はそれだに収まらなかった。軍を追い出され、途方にくれる彼女は実家へと帰るとそこには赤々と燃える屋敷があった。父も、母も、異母兄弟たちも皆死んでしまい、唯一残されたのは運良く屋敷から離れていた、妹のユリーシャだけだった。アメリアは妹を保護すると、すぐに帝都から離れた。だがアメリアを殺そうとする追手は放たれ、旅に慣れない妹とともにということもあり、すぐに追手に追い付かれ殺されそうになっていた所をジークリンデ達に助けられた。



 ジークリンデに助けられた後は、彼女とともに行く宛のない旅をしたがユリーシャは長い旅になかなか慣れず、これ以上の旅生活は無理だと考えていた所、やっと定住できる場所をクレヴァーに見つけ、尚且つ昔のように軍に所属して生活することができたのだが、



(可愛いユリーシャの為にも、なんとしてでもユウキ・サイトウを見つけ出さなければ!)



 彼女の行動原理は溺愛する妹が中心であり、忠誠の為に職務に励むのではなかった。



 この光景を見ていた2人の兵士は、



「おい、大隊長見てみろよ。あの憂いを帯びた瞳。尋常じゃねぇよ」

「ああ、そうだな。だが、ありゃ何か特別なものを感じるな」

「なんだ、特別なものって?」

「いや、それは……」



 そこへ別の兵士が近寄って来た。



「ああいう目をした女、俺は見たことあるぜ」

「おお、新入り。で、なんだ?」

「俺の妹がな、恋人の帰りを待つ時と同じ目をしてやがる」

「恋人を待つ時の目? ということは……」

「アメリア大隊長は」

「城主様に」

「「恋してる!!!」」



 そんな噂はあっという間に部隊中に広まり、それがいつしかクレヴァー軍全体へと浸透するのに時間が掛からなかった。本人のあずかり知らない所で噂は広まり、後にまた別の問題を起こすこととなるが、それはまだ先の話しであった。









        竜臥山脈、奥地ーーーー









「ふう、なんとか出れたな」

「………ん」



 壊れかけの転送装置を潜り抜け、洞窟から抜けだした。そして抜けだした先は古びた石造りの建物の中だった。大きな建物のようで、建物内を見渡すと、同じような転送装置が幾つか備え付けられていた。



「………ユウキ、こっち」

「ん? どうした」



 建物の出口でアヤノが手招きしていた。俺は足を引きづりながら出口に向かうと、そこには、



「なんだ、これは!?」



 いつの間にか、夜が過ぎ、朝になっていたようだ。東からの朝日に照らされて俺の目の前に堂々と現れたのは雲海に浮かぶ黒い巨城だった。俺はその神秘的な光景に言葉を奪われたが、



「………あれ」



 アヤノの指差す場所は城の入り口だった。遠目で分かりにくいが、どうやら人が何人かいるみたいだったが、すぐに城の中に入ってしまい見えなくなった。



「………あと、これ見つけた」



 差し出されたものを確認するとどうやら折れた剣のようだが、柄の部分を見ると、そこにはフリット家の紋章が刻まれていた。



「! まさか、今入っていった奴らは」

「………キース・フリット」

「クソっ! あいつらこんな所まで……… アヤノ!」

「………ん」



 アヤノは俺を背負い直すと、駆け足で城へと続く橋を渡っていった。俺は改めて城を見て、まるでラスボスのダンジョンのようなそんな雰囲気を醸す城に不安を感じながら、城門を潜っていった。

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