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黒之戦記  作者: 双子亭
第1章 戦火の花嫁
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『ハーフエルフの流民』第1話

    廃村、教会の礼拝堂ーーーー









 先の襲撃の後、起き上がった団員は俺の指示の下、団員達は黒ローブたちを拘束していった。



「報告致します! 襲撃者50名を捕縛! 現在広場に隣接する民家にて拘束しております! 逃走した者は追ってを出し、現在捜索中!」

「分かった。引き続き周囲の警戒を怠らないように」

「はっ!」



 報告した団員は敬礼すると、礼拝堂から退出していった。俺は礼拝堂の一番奥まった場所に腰を下ろし、左側にニコル、ウィリアム。右側にリン、アレイン、アヤノが並んでいた。



「アレイン、体調は大丈夫か」

「はっ、少し目眩いがしますが、戦闘に支障はありません」



 そう答え、俺は頷いて応えた。そして、俺の前にはひっ捕らえた2人の黒ローブ”だった”者を改めて眺めた。1人は目を伏せて、もう1人は敵意むき出しでこちらを睨んでいたが、何よりも目についたのは2人の耳だった。



「まさか、エルフ種が襲撃犯とは………」

「ふむ、この短い間に人間、獣人、エルフ、竜人が揃うとは、なかなか見慣れない光景ですな、ニコル殿」

「は、はい、そうですね、自分もエルフに出会うのは初めてです、はい」

「……………私たちは、エルフではありません。ハーフエルフです」



 そう言ったのは、目を伏せている方のハーフエルフだった。ちなみに、俺が射た相手は目を伏せている方で、肩の辺りに刺さり、今は治療を受けて包帯を巻いている。



「姫様!」

「フェリ、少し私に任せて下さい」

「………それで、私はこの部隊を率いるユウキ・サイトウだ。まず君たちの名前は?」

「私の名前はジークリンデ・フォルナンス。こちらは私に仕える侍女のフェリアードです」

「何故、このようなことを?」

「はい、私たちは元は商人の娘でしたが、故あってこのような落ちぶれた生活を送ることになってしまい、同じ境遇の方に助けられ、ともに旅をしておりました。しかしいつしか我々のような人数が増えていき、養うことができず、それが盗賊まがいなことに繋がっていったと思います」

「? あなたが纏め役というわけではないんですか?」

「はい、今は私が彼らを導いています。私はどうなっても構わないので、どうか彼らを許して下さい」

「………何度も商隊を襲っておいて許されると思っているのか? 死人も出ているのだぞ。リトルベルクに連れて行き、然るべき処罰を与えるべきだ、もちろんあの50人もだ」

「へ、死人! そ、そんな、人殺しなんてさせていません!」

「ならば、今回の襲撃の通り、眠らせて襲っていたのか?」

「はい、そうです」



 ジークリンデが応えると、今まで睨みつけていたフェリアードは、突然立ち上がったかと思うと、



「いい加減にしろ! 本来ならば貴様らが仰ぎ見ることさえ許されないのに姫様が貴様のような下等な人間如きに御頭を下げているのにその物言いは何だ! 切り刻んで肉塊さえ残らないようにしてやる!」



 歯をむき出しにして叫んだ。が、ウィリアムが剣で叩き伏せ、再び跪かせた。



「処罰については私が独断で決定することはできない。領都のイリーナ様が決めるので、あなた方を領都へ護送しなくてはならない。だが……」



 俺は2人を見つめながら続けた。



「イリーナ様の命令でロータス村に医者を運ばなくてはならない。あなたがこの命令に協力していただければ、私がイリーナ様に口添え致して罪を軽くするよう計らいましょう。フォルナンスさん、どうしますか?」

「………わかりました、協力しましょう。ただ、まだ大森林に仲間がいます。女性や子供、老人のハーフエルフが隠れています。彼らを残していくわけにはいきません」

「分かりました、領都の騎士団に来てもらいましょう。ただ、翌朝には医者を連れた商隊が来る。あなたの仲間もしばらくは行動をともにしてもらうけど、いいね?」

「はい、保護して頂けるなら、我々はサイトウ様の指示に従います」



 俺の言葉に了承の意を示すと、黒ローブの内の1人と団員を2人つけて、ジークリンデの仲間の元へ向かわせた。そして、俺たちは遅めの就寝に付き、翌朝の護衛任務に備えた。









    廃村、出入り門前の空き地ーーーー









「………」

「サイトウ様、先ほど確認が終わり、全員揃いました」

「そ、そうか」



 俺はジークリンデに応えると、馬上から辺りを見渡した。そこには親子連れの旅装したハーフエルフ、傭兵のような格好をした褐色肌のハーフエルフ、商人風の服装で馬車の上で荷物の確認をしている小太りなハーフエルフ等など、中には王国近衛兵用の甲冑や、隣国のメルティアナ帝国軍式鎧に身を固めたハーフエルフもいた。つまり………



「これ程の流民がいるとは………」

「私もこれ程の数のエルフ族の特徴を持つ者を見たのは初めてですな」

「………あ、あそこを見てください。ハーフエルフだけでなく、獣人もいるみたいです、はい」

「あそこには人間族か………」

「ユウキよ、これを連れて行くのか?」

「あぁ、そうだな」

「そうだな、ではない! 見よ、あの武装した流民の数を! 我らの倍の数がいるではないか!」

「だが、一度した約束を(たが)えるつもりはない。それに彼らは俺たちに対して反抗するつもりはないだろう」

「何故」

「俺自身の立場をフォルナンスさんに伝えておいた。彼女は商人の娘、それなりに学力があるなら俺を敵に回すようなことはしないだろう。それにフォルナンスさんの話しだと、元々彼女たちはリトルベルクに向かっていたらしい。あそこは数こそ少ないがハーフエルフたちが障害なく暮らす限られた城市だからな」

「そのリトルベルクの主であるイリーナ様の側近であるユウキを害しては、『百害あって一利無し』という訳か………」

「そういう事。だからアレイン、団員全員に『彼らは敵にあらず、ともに旅をする仲間として友好を深めよ』と、さっきの説明と一緒に連絡しておいてくれ」

「おうっ」



 アレインは応えると、団員が待機する場所に向かった。



 俺は隣りで騎乗するフェリアードを見た。前回は黒ローブだったが、今は若草色の服装に革製の軽い鎧を身に纏って、腰には短剣を背には短弓と矢筒を提げていた。



「………何だ」

「いや、やっぱりエルフ族の血を引いてると弓の扱いもうまいのかなって思っただけだ」

「当たり前だ、人間如きに弓で遅れを取る私ではない」

「そうか。ところで、そちらの兵数はどれくらいだ?」

「従軍経験、戦闘経験のある者は500くらいか」

「500…… その500人の兵士を君とフォルナンスさんが指揮してたのか?」

「いや、もう一人……… あそこだ」



 フェリアードが指差した所に隻眼の青狼族の男が立っていた。高さはアヤノよりも大きい2mくらいはあり、腰には二振りの曲刀を提げ、腕を組み堂々たる姿勢はどこか頼もしく思えると、俺はそう感じた。



「あの獣人は名は『クロウ』という者でな、盗賊『琥狼党』の頭目だった男だ」

「そんな男がどうしてここに?」

「頭目の座を狙った子分の裏切りにあったそうでな、死にかけている所を姫様がお救いになられた。ただの盗賊ならばそこまでだが、あの男は義理堅い所があるらしくてな、そのまま恩を返すため姫様とともに旅をしたのだ」

「なるほどな」



 俺は再びクロウを見るとクロウは一瞥すると出立の準備の進む馬車に戻っていった。



「サイトウ様、隊の準備が完了しました!」

「サイトウ様、難民たちもいつでも出発できます」



 団員とフォルナンスさんの報告を受けた俺は頷いて答えると、



「よし……… 全隊、出発!」

「「「おおおぉぉぉっっっ!!」」」









    リーネンブルク侯爵領西部、ロータス村近郊の街道ーーーー









 俺たちの旅は比較的順調だった。医者を連れてきた商隊の護衛はフェイが隊長を務めており、その他に赤猫戦士団100人を護衛で引き連れていた。よって総勢650名の戦士や団員でその2倍の非戦闘員を護衛しながら進んでいった。そして、ロータス村が見え始めた頃だった。



「しっかし、ホント多いなコレは………」



 馬上で俺は振り返りながら呟き、フォルナンスさんが応えた。



「私はいつも見慣れていますが、昼間に移動するのは久しぶりですね」

「いつもは夜間に行動するんですか?」

「はい、これだけ多いとひと目に付きますし、野獣の危険は有りますが、集団でいれば安全ですから」

「なるほどな」

「ユウキ」



 傍らにいたリンが俺に呼びかけた。



「前から何か来る」

「へっ?」



 前を再び見ると、2頭の馬とそれに騎乗する武装した男がそれぞれの馬に乗り、砂埃りを上げてこちらに向かっていた。



「団員は馬車から大盾出して前へ!」

「流民を馬車の影に隠し、流民戦士はその護衛! 赤猫戦士は対騎戦闘準備!」



 俺とアレインの指示の下、戦闘に参加する者は慌ただしく動き出し、戦闘に参加しない者は馬車の影に隠れた。



「ま、まもなく敵と接触します!」

「大盾隊、構えぇ!」



 大盾隊が構え、赤猫戦士団が弓を構え、接触に備えたが、結果、それは無用に終わった。



 なぜなら、



「はああぁぁぁぁっっっっ!!!!」



 後ろから猛烈に駆けてきた、



「ふっ」



 1騎の武装した『村娘』風の女性が、



「たああぁぁぁぁっっっっ!!!!」



 『大剣』でまとめて吹き飛ばしたからだった。









    ーーーー唖然としながら俺はその大剣を持った『村娘』が大剣に付いた血を払いのける様子を見つめた。

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