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黒之戦記  作者: 双子亭
第1章 戦火の花嫁
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『竜人族の戦士』第3話

    ラインバレル地方、大森林近くの廃村ーーーー









 アヤノと和解した頃、俺は太陽が西の空を赤く染めようとしていたので、団員を集めて襲撃現場を後にして野営の予定地としていた廃村に着いた。



 この廃村は元々、大森林を利用した材木の生産が盛んだったが、ずいぶん前に盗賊の襲撃を受け、再興は無理と判断したので村人全員がイスタナ村に移住しており、今でも襲撃の傷跡が残っている。そんな中、団員たちは野営の準備を始め、今は夕餉の煙がそこかしこで上がり始めていた。そんな中、俺たちはとある廃れた教会に集まっていた。



「……………はむ、あむ、んむ、ん……」

「…………」

「……………はむ、はむ、ん…………おいしい」



 俺の前で『ウサギの串焼き』を頬張りながらそうつぶやく女竜人戦士のアヤノ。今の彼女を見ていると先刻の出来事がまるで嘘のように感じる。身長は俺よりも高い、だいたい180cmくらいはあるはずだが、今のアヤノはまるでリスが頬いっぱいに食べ物を詰め込んで食事しているように見える。



 そもそも何故アヤノがあの場所にいたのか、と尋ねた所、



「……………護衛」

「護衛? 商隊のか?」

「……(コクリ)」

「しかし、ギルドの雇用者リストに君の名前、載ってなかったが」

「……アヤはギルドに入ってない」



 なるほど、フリーの傭兵か。この世界には傭兵は傭兵ギルドに所属しなくてはならないという”暗黙のルール”がある。傭兵たちは伝統ある傭兵ギルドに所属することで、その傭兵の信頼できる、裏切らないという証明となり尚且つ割のいい仕事を斡旋してくれる、逆にフリーの傭兵は信用性が低く、仕事も入りにくいというデメリットも多いが、それでも諸事情によりフリーの傭兵は今でも各地に存在する。



 アヤノの話しによると、出発した街で商隊の長が暴漢に襲われたらしく、その時偶然居合わせたアヤノが撃退。腕を見込んだ商隊長はアヤノがフリーの傭兵にもかかわらず護衛として引き入れたらしい。



 旅は順調に進んでいたが、襲撃現場近くで護衛隊長である傭兵が何かを感じたらしくアヤノを偵察として出したが、この時、アヤノは帰り道を見失ってしまい、迷いに迷ってようやくたどり着いた所、武装した見知らぬ者たちがうろついていたので、撃退しようとした。その後はもう先の通りだ。



 ちなみに俺はアヤノに商隊が全滅したことを伝えると、



「……………はむ、んぐ……それはこまった」



 そう言って、次の串焼きに手を伸ばした。



「…………お主、本当に困ってるのか?」

「……はむ、はむ……(コクリ)」

「竜人とはエルフのような知性と獣人のような力を兼ね備えた誇り高き種族と聞いてたが………」

「あまりそうは思えないです、はい」



 アレインは信じられないものを見るような、ウィリアムは苦笑しながら、ニコルは呆れたような顔をしていた。



 アヤノはウサギの串焼きを食べ終わると、手に付いた油を舐め取ると俺の方を向いた。



「ん、どうした?」

「……………ユウキ」

「ん?」

「……………アヤを雇って」

「雇う?」

「………ん、商隊のおじさんは死んじゃったからお金を払ってくれない」

「………」

「お金がないとご飯は食べられない………」

「………」

「ユウキなら約束守ってくれそうだから」

「………………はぁ、分かった。君を雇おう、アヤノ」

「ユウキ!」



 俺が雇う意志を示すと同時に声を上げたのはアレインだった。



「この者は先程我らを襲撃した者だぞ! そんな者を雇おうなんて、いくらなんでも無用心にも程がある!」

「それは先刻の話しで誤解だったことが分かっただろう?」

「しかし………」



 アレインは俺の腕を掴むと話しの輪から連れだした。



「あの者の話しを全て信じるつもりか? もしかしたら商隊の襲撃犯の一人かも知れぬぞ」

「そうかも知れないな」

「ならば………」

「アレイン」



 俺はアレインの両肩を掴んで真っ直ぐに見つめた。



「今回の敵は半年前のゴロツキとは訳が違う。それはアレインだって感じてるだろう?」

「う、うむ」

「ならば、それに対抗するための強力な戦力は必要だろう。アヤノは竜人族だ知力については、まぁ、置いといて、武術はかなりのものだと俺は思う」

「むぅ……」

「まぁ、身元不明を雇うのは今に始まったわけではないけどな」



 そう言うと、俺はニコルを見た。ニコルは汗を流しながらアヤノのためにせっせとウサギの串焼きを作っていた。



「はぁ、分かりました。このことについてはもう何も言うまい」

「ありがとう、アレイン」



 俺はウィリアムたちの元へ戻ろうとアレインに背を向けた。



「ユウキ」

「ん?」

「半年前の事、まだ悩んでいるのか」

「……………大丈夫だよ、アレイン」



 アレインに笑顔で答えると俺はみんなのもとに戻った。





 俺は戻った後、アヤノに雇うことを伝えた。アヤノはそれを了承したので契約が成立した。ギルドの傭兵はギルドを通してのみ雇用契約を結ぶので、フリーの傭兵はこういう時便利だ。



 時はすでに月が昇り輝き始めており、アヤノとの契約内容はまた後日決めるとして、俺はアヤノに俺たちの現状を伝えた。最初はただ聞くだけだったアヤノは次第に何か難しい顔をしだした。



「………という訳なんだが、どうした、アヤノ?」

「……………何か、南の森の方から変な感じがする」

「変な感じ?」

「ん、これは…………」



 アヤノが何か言う前に俺は違和感を覚えた。



「アレイン? ウィリアム? ニコル?」



 先ほどから一言も発せない三人に呼びかけたが、三人とも応じず、さっきと同じ状態で座っていた。ただ、俯いてるので、様子が分からない。



「……………寝てる」

「寝てるのか? なら、何で起きないんだ?」

「ん、霊術の効果だからだと思う。あと…………」



 アヤノは外を指差した。



「……………他の兵士も、そう」

「なにっ!!」



 俺は思わず外に飛び出した。



 そこには、警戒していた団員も、仲間とともに食事していた者も、俺たちの警護をしていたリンも、地面に突っ伏すように倒れていた。



「っ!!」



 俺は声にならないような悲鳴をあげた。例え彼らが急ごしらえの団員だったとしても、50人もの団員を一気に眠らせるなんて、かなり高度な霊術を使いこなせる霊術士が向こうにはいるのだろう。そして今、戦える人間がいなくなったこと、先ほどの襲撃現場の記憶が蘇り、膝がガクガクと鳴り始めるのを感じた。



「……………ユウキ」



 アヤノに腕を引かれて、俺は再び廃屋の中に戻った。



「ア、アヤノ、これは」

「……………ん、ユウキ、落ち着く」

「へ?」

「はい、深呼吸」

「あ、あぁ」



 俺はアヤノの言うとおり深呼吸をした。そうすると大分落ち着いてきて、一騎当千のアヤノがいることに安心感を覚えた。



「そういえば、何でアヤノは霊術の影響を受けてないんだ?」

「……………これのおかげ」



 そう言うと、アヤノは胸元から透き通った青い霊石が表れた。



「……………これ、ババ様の形見。これをつけてると状態異常の霊術効果を無効にする」

「すごいな」

「ん、大事」



 アヤノは大事そうに霊石のペンダントをしまった。



「じゃあ何で俺は効かなかったんだ?」

「……………さぁ?」



 首を傾げながらそう答えられてしまい、俺はもうそれ以上聞くことは出来なかった。



「……………ん?」

「どうした」

「……………何か、近づいてくる。ユウキ、暗いけど弓使える?」

「あぁ、使えないことはない」

「ん、じゃあアヤが外に出て、霊術士探すから、ここの鐘塔からユウキは弓で射止めて」

「わかった」



 俺は弓と矢筒の用意を持つと階段を駆けて行こうとした。



「そうだ、アヤノ」

「………………ん?」

「出来るだけ、生け捕りにするんだ」

「ん、了解」



 アヤノは戦斧を担ぐと、扉を開けて外へと出ていく背中は俺にとって頼もしく映った。









    廃村、教会前広場ーーーー









 俺は鐘塔に昇り、柱の影に隠れて下の様子を眺めた。団員たちは死んだように倒れて眠っているが、まだ各所に篝火や焚き火が燃えているので広場の様子がよく分かった。



 東に村の出入口があり、入り口から広場まで一本の道で繋がっている。そこを見ていると、数十人の黒ローブ集団がゾロゾロと広場に向かって歩いてきた。鐘塔の上からだと分かりづらいが、背丈、体格もまちまちで、中には子供のような背丈の黒ローブもいた。



 広場まで着くと、今まで集団で行動していた黒ローブたちは、バラバラに散開していき、眠っている団員や荷物の集積場で荷物を漁っているようだった。



 夜の静寂の中で荷物を漁る音、黒ローブの足音が響く中、広場全体に鉄が石畳に打ち付けられたような音が響き渡った。



 驚いたように黒ローブたちが音のした方向を見ると、戦斧を構え、黒衣黒甲を身に纏ったアヤノが威圧するように立っていた。数人の黒ローブが抜剣しながらアヤノの前に立ち塞がり、他の黒ローブはその後ろに隠れるように集まった。



「……………アヤノ・エイジアス。ユウキ・サイトウに雇われる傭兵」



 いつもの通りの声なのにここまで聞こえるくらいよく通る声で名乗り上げたアヤノは、戦斧を黒ローブたちに向けた。



「……………誰?」

「………」

「……………兵士を眠らせる霊術使ってる霊術士は誰?」

「………」



 何も答えない黒ローブたちだったが、アヤノは何か感じたのか、戦斧を振り上げた。



「……………そこ」



 戦斧を振り抜くと同時に刃から突風が吹き抜けてそのまま広場に面する民家に直撃。半壊状態だった民家はそのまま全壊した。この一部始終を見ていた黒ローブたちの中の何人かは悲鳴を上げて逃げ始めたが、抜剣していた黒ローブたちはアヤノに襲いかかっていった。



「「うおおおおぉぉぉぉぉっっ!!!」」

「……………ふっ」

「ぎゃ!」

「うぐっ!」

「っ!」



 襲い掛かっていった黒ローブたちは、統率の取れた動きを見せたが、相手は竜人の戦士。3合も刃を交わらす前に叩き伏せられていた。



 そんな、戦闘を確認しながら俺は全壊した民家を確認した。まだ埃が舞ってるのでよく分からないが、かすかに霊術を使用する時に発する光が見え隠れしていた。



(あそこか………)



 俺は弓に矢を(つが)え、光の元に狙いを定めた。風は殆ど止んでいるので、『離れ』をするだけだ。



「………フッ」



 『離れ』とともに矢は真っ直ぐに飛びそのまま、



「きゃっ!」



 中ったかどうかは分からないが、霊術発動の光が消えるのを確認した。これでアレインたちも起きるだろうと安心すると、不意に悪寒に襲われた。俺は柱の影に隠れると同時に、今まで立っていた場所を突風が通り抜けたかと思うと、手すりの部分が抉られるように削られていた。そして月を背にして立つ小剣を構えた黒ローブの姿。



「貴様が、貴様が姫様を」

「はっ?」

「貴様だけは許さん!!」



 黒ローブは小剣を構え直すと同時に襲い掛かってきたが、手すりの後ろから延びた戦斧で弾かれた。



「……………ユウキ」

「へっ、ア、アヤノ? って、うおっ!」



 アヤノは俺の襟首を掴むと、そのまま鐘塔の上から地面に向かって飛び降りた。



 ちなみに、高さでいうとビル4階分に相当する高さを飛び降りた。



「……………到着」

「はぁ、はぁ、はぁ……… アヤノ!」

「ん?」

「飛び降りる前に何か言ってくれないか!! ビックリしただろう!!」

「……………ごめん」



 地面に飛び降りた状態(俺をお姫様抱っこするアヤノ)で俺は涙目になりながら叫んだ。



「逃がさん!」



 そして、後を追うように上から飛び降りてくる黒ローブ。短剣を構え、勢いを使ってそのまま刺すつもりだろう。



「……………ユウキ」

「おう」

「投げる」

「は?」



 意味を理解する間もなく、俺は浮遊感を味わったかと思うと、そのまま干し草の積まれた場所に突っ込んでいった。そして干し草を掻き分け、何とか脱出してアヤノの所に戻ると、短剣を弾かれ、戦斧を突き付けられている黒ローブとこちらに振り向くアヤノが教会の前にいた。



「……………捕まえた」

「あぁ、ご苦労」

「? どうしたの」

「………確かに、俺は行動する前に何か言って欲しいと言った」

「………(コクリ)」

「だがな、これからはもう少し言ったことを俺が理解する時間をくれ」

「………分かった」



 こいつ、分かってないだろ、と心で思いながら、俺は周りを見回した。抜剣していたものは皆気絶しており、俺が射た相手はアヤノが捕縛したのか、肩の辺りに矢を立てながら民家の前で縄で縛られていた。



 眠っていた団員たちも起き上がり始めている様子を眺め、俺はやっと終わったと一息つくのだった。









    ーーーーしかし、この襲撃が新たな荒事を生み出すとは、その時の俺には思いつかなかった。

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