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世界1位への熟練度(レベリング) 〜家族を守るために「剣術」を極めた俺が、世界を買い叩くまでの物語〜  作者: しろくま


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深淵の騎士と、折れない剣



 新宿ダンジョン6層深部。

 蠢く粘膜の壁が完全に静止し、周囲の温度が急速に奪われていく。

 二人の前に立つ『深淵の騎士アビス・ナイト』は、漆黒の霧を固めたような鎧を纏い、その手には実体のない青白い燐光の長剣を握っていた。


「……湊、こいつ。今までの魔物と威圧感が違いすぎるぞ」


 剛が盾を低く構え、慎重に間合いを詰める。彼の肌には、物理的な冷気ではない「死の予感」が産毛を逆立たせていた。

 対する湊の視界には、これまでにない異常な光景が広がっていた。


――【警告:対象の攻撃軌道が単一の因果に収束しません】

――【演算不可。物理法則を超越した事象が含まれています】


(軌道が……視えない?)


 熟練度2.15%に達した湊の眼は、あらゆる「無駄」を看破する。だが、目の前の騎士が剣を振るう予備動作には、筋収縮も重心移動も存在しなかった。ただ「振る」という結果だけが、虚空から生じている。


「剛さん、下がって……ッ!」


 湊の叫びと同時に、青白い閃光が走った。

 剛が反応するよりも早く、騎士の長剣が彼の大盾を透過するようにすり抜け、その肩口を浅く切り裂く。


「なっ……!? 盾を、通り抜けた……?」


「物理攻撃じゃない。魔力そのものを刃にしてるんだ。剛さん、その盾は『物』として受けるんじゃなく、魔力で弾くイメージで!」


 騎士の追撃が来る。今度は湊へ。

 回避は不可能。湊は背中の『黒鋼の重剣』を抜き放ち、初めてまともに打ち合った。


 キンッ――!


 重厚な金属音ではなく、ガラスが擦れ合うような不快な音が響く。

 重剣を伝わって、湊の腕に凄まじい衝撃が走った。重さではない。魂を直接削り取るような、冷たい震え。


(重い。……いや、これは『執念』の重さか?)


 騎士は一歩も引かず、機械的な精密さで連撃を繰り出す。

 湊は『極・剣術』をフル稼働させ、死線の上で舞うようにそれを受け流していく。だが、熟練度という「効率」だけでは、この理不尽な魔力刃を完全に無力化できない。


(……一撃一撃が致命傷だ。受け流し一回にかかる集中力が、これまでの比じゃない)


 湊の額から冷や汗が流れる。

 この騎士を倒し、ここを抜ける「最短経路」はどこだ?

 魔石の位置は鎧の深部。だが、実体のない鎧をどう斬る。


『……オロカ、ナ……。キワメ、シモノ……ヨ……』


 騎士の声が脳内に直接響く。

 その瞬間、騎士の姿が三つの残像に分かれた。三方向からの同時突き。どれもが本物で、どれもが致命の軌道。


「湊ォッ!!」


 剛が叫ぶ。だが、湊の脳内は逆に、極限の静寂へと沈んでいた。


(……視えなくていい。理屈じゃなくていい。一円でも安く、リスクを買い叩け)


 湊は目を閉じた。

 視覚という情報に頼ることを捨てた瞬間、耳の奥で、粘膜が脈打つ音、剛の心音、そして――騎士が魔力を凝縮させる「一点」の音が聴こえた。


 熟練度が、臨界を超える。


――【熟練度:2.15%……2.18%……2.20%】

――【新技習得:『心眼のしんがんのきわみ』】


(そこだ)


 湊は踏み込んだ。三つの残像、そのどれでもない「空白」の空間へと。

 重剣を横一文字に振るう。それは騎士の鎧を斬るためのものではなく、この空間を満たす「魔力の流れ」そのものを断ち切る一撃。


 ガギィィィン!!


 確かな手応え。

 三つの残像が一つに重なり、騎士の胸元に深々と重剣が食い込んだ。

 騎士の動きが止まる。その中心、砕けた霧の奥に、青く輝く巨大な魔石が露出した。


「今だ、剛さん! 一番いいやつ、叩き込んでください!」


「おうよ! 待たせやがって!!」


 剛が吼える。大盾を捨て、両手で握り込んだ補助武器のモーニングスターに全身の筋力を乗せた。

 漆黒の防具から蒸気が噴き出すほどの過負荷。


「シールド・バッシュならぬ……『城塞粉砕キャッスル・ブレイク』!!」


 轟音。

 騎士の胸部に剛の重撃が直撃し、露出していた魔石が粉々に粉砕された。

 悲鳴にも似た霧の霧散と共に、深淵の騎士はその姿を消し、冷気に包まれていた通路に、再び生温かい粘膜の拍動が戻ってくる。


 湊は剣を鞘に収めると、その場に膝をついた。

 呼吸が荒い。右腕は激しく震え、指先一つ動かすのにも苦労する。


「……ハァ、ハァ……。なんとか、なりましたね」


「ああ。……死ぬかと思ったぜ。おい、見ろよ湊。こいつ、とんでもねえもん落としてったぞ」


 騎士が消えた場所に転がっていたのは、小さな漆黒の指輪。

 そして、これまで見たこともないほど透明度の高い、巨大な魔石の欠片。


 湊はそれを手に取り、薄く笑った。


「これ……ギルドに持っていったら、いくらになりますかね」


「ガハハ! 焼肉どころか、高級寿司も余裕だろ!」


 二人は互いに肩を貸し合いながら、出口へと歩き出す。

 だが、湊の脳内では、先ほどの騎士の言葉がリフレインしていた。


『キワメ、シモノ……ヨ』


 この『極み』の先には、まだ何かがある。

 最短経路の先に待っているのは、単なる富だけではないのかもしれない。

 湊は、その答えを買い叩くため、さらなる深部を見据えた。


【第11話:後書き】


第11話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


隠しボスとの激闘、そして新技『心眼の極』の覚醒。

これまでの「物理的な効率」から、さらに一歩進んだ「概念的な効率」へと湊の力が進化しました。

また、剛との連携もますます円熟味を増し、単なる「壁とアタッカー」以上の信頼関係が見えてきた回となりました。


【11話終了時点:ステータス】

名前:佐藤 湊

レベル:9(上昇!)

スキル:【極・剣術】熟練度:2.20%(上昇!)

・新技:心眼の極

獲得アイテム:深淵の指輪(効果:?)


次回、第12話「指輪の秘密と、招かれざる影」。

手に入れた秘宝の正体と、湊たちの成長を快く思わない者たちがついに動き出します。

物語の影が、少しずつ色濃くなっていきます。お楽しみに!


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