第23話 ランディス合衆国とルジナート連邦
皆様、大変お待たせ致しました。
PCを購入して執筆環境が整ったのでやっと更新できました。
読んでくれている方々には大変申し訳なく……。
これからも拙作をよろしくお願い致します。
――ランディス合衆国、首都テリオン
合衆国大統領、トーマス・バッハの下には悪い報告ばかりがもたらされていた。
現場レベルではあまり認識されていないが、戦況は悪化の一途を辿っている。
頭痛の種となっているのは、ユースティアと言う国家。
「何なのだ、ユースティアは……たかが極東の小国かと思っていたが」
バッハは表情が歪むのも隠そうとせずに、忌々し気に吐き捨てた。
今になって思えば、ケチの付き始めはポートノワール沖海戦だった。
艦隊消失と聞いた時は耳を疑ったものだ。
「仮にもオースティン大陸の列強国、タイカ大帝国を堕とした国家ですからな」
国防長官のモスロー・フォラルが他人事のように言ったことが、更にバッハの怒りに火を着ける。
大統領の怒鳴り散らしかねない顔色を察した国家情報長官のセシリー・ホーランドが機先を制して口を開いた。
口の聞き方に気をつけろよとフォラルに内心で毒づきながら。
「カヌール海、ジーランディア海峡の実質的な封鎖に伴い、ほぼルジナート連邦への支援が止まっております。西の大北海周りのかなり非効率な輸送しかできておりません」
ジーランディア海峡は中央大陸とジーランディア大陸との間の海域の名称だ。
大陸間の海峡とは言え、ある程度の艦隊が展開できる広さはある。
ランディス合衆国は何度か、ユースティアに艦隊決戦を挑んだが散々に打ち負かされていた。
「ルジナートに事前に大量輸送しておいたお陰で今は何とかなっていますが、このタイミングであの2ヵ国が反転攻勢に出てきました」
「あの空中要塞か……あんな物が空を飛ぶとは今でも信じられん」
一番初めにこの世界に来たと言われている魔法国家――神聖ヴァルガリア帝国。
魔法文明は最早、何でもありだなと考えるしかない。
気落ちした様子のホーランドを見たバッハは少し冷静になった。
「……仕方のないことだ。あれは虎の子だろう。誰も掴める情報ではない」
「恐れ入ります」
「しかし厳しい……次の標的は首都ルジナートグラードだろう。ルジナートが落ちれば海を渡って我が国にまで向かってくるぞ……」
「海軍と空軍はあの空中要塞だけならば何とかして見せると言っています。問題はユースティアかと」
ユースティアには手も足も出ないと言っているようなものだが、実際にそうなのだから仕方がない。
バッハも何も言わない辺り、理解しているのだ。
だがあの空中要塞を何とかできるのか?と思わないでもない。
「ガラベルム帝國と……そうだな、トルキア帝國は動かせんか?」
「前者に関しては幾度となくユースティアと衝突しているようですが、敗北続きのようです。トルキア帝國は動いておりませんが、ガラベルム帝國と一触即発とのこと。動かないでしょう」
「チッ……役に立たんな。全方位に攻撃を仕掛けているのか? ガラベルム帝國は。まるで狂犬だ」
再び顰め面になって溜め息を吐くバッハ。
一番の脅威は獅子州連合でもましてや神聖ヴァルガリア帝國でもない。
ユースティアであった。
全くの想定外。
「現在、タイカ民国内の地方軍閥と元朝貢国家群にも働きかけておりますが、彼らも一度鎮圧されていますので期待はできないかと」
「外務大臣に何とかして見せろと伝えろ。軍だけに出血を強いる訳にもいかんだろう。対ユースティア包囲網を築くのだ。時間を稼ぎその間にヴァルガリアを堕とす!!」
「大統領閣下、あるいはユースティアとの講和も考慮に入れるべきでは?」
フォラルが単独講和を提案したところで、バッハは顎に手を当てて考え込む。
バッハとしては今回のルジナート連邦への合同侵攻を思うと無理筋にも感じるが、フォラルはやれることはやっておきたいと考えているようだ。
「ふむう……乗ってくると思うか?」
「ユースティアは神聖ヴァルガリア帝國と国際平和を目指す組織を創ろうとしていたと聞いております。見捨てることはないと情報局は考えています」
「西方艦隊はどうだ? まだアトランティス帝國の橋頭保を獅子州に作れんのか?」
超電磁砲搭載艦のせいでランディス合衆国のロライナ西方艦隊もかなりの苦戦を強いられている状況だ。
獅子州連合艦隊とは痛み分けの海戦が続いていた。
その辺りをホーランドが説明する。
それを聞いたバッハの表情が苦虫を嚙み潰したようになる。
「西部戦線も駄目、ルジナート戦線もキナ臭い。善戦しているのは獅子州連合を裏切ったドイチェルト帝國、ジェノヴァ国、ルビア共和国だけか。3ヵ国が勝って東進してくれれば助かるんだがな……」
「現在のところ優勢ですが、まだ時間が掛かるでしょう」
自国の実力に大いなる自信と誇りを持っていたバッハは、独力で現状を打破できないことに苛立ちを覚えていた。
故にどうしてもその声は荒くなる。
国家情報長官であるホーランドが分析したことが、それに拍車をかけてバッハは室内に轟くような声で怒鳴りつけた。
「ガッデムッ! 偉大なる我が国が負ける訳にはいかんのだッ! 最悪、ルジナート連邦を切り捨てて時間稼ぎをするのだ! とにかくユースティアに交渉を持ちかけつつ、裏で周辺国家に動くよう働きかけろ!」
◆ ◆ ◆
――ルジナート連邦首都ルジナートグラード
最前線基地に続き、南部の大都市ヴォロジ。
1つの都市が消滅したことで、政府中枢は大混乱に陥っていた。
基地はともかく、大都市が詳細不明の兵器に一撃の下に葬られたのだ。
50万もの国民の命が一瞬にして失われた訳である。
これには如何に人間の命の価値が軽いルジナート連邦とは言え、衝撃は大きかった。
ルジナート連邦政府は直ちに声明を発表。
無辜の民を大虐殺した神聖ヴァルガリア帝國を痛烈に批難した。
普段から残虐な国民性で知られるルジナート人が何を言っているのかと笑い飛ばす者もいれば、流石にやりすぎだと世界の論調は二分された。
ルジナート連邦に対する神聖ヴァルガリア帝國の反応は徹底した無視であった。
ただ世界に向けてこう強く主張した。
『ルジナート連邦はランディス合衆国と共に世界大戦を引き起こした悪の枢軸国家である。世界に無用な大乱をもたらしたルジナート連邦による被害者は既に数万人を超え、直接的にも間接的にも犠牲者は今後も増え続けるだろう。これは戦争を早期に終結させるために必要な措置であり正当かつ正義の行為である』
これを聞いたルジナート連邦政府は、自らのこれまでの非道を棚に上げて激昂した。
喧々諤々な言い合いが延々と行われている。
「あれ程の腐れ外道が戯言をほざきおったッ! 厚顔無恥とはこのことだぞッ!!」
「何が世界の盟主だ! 時代遅れの骨董品が!」
「ハイエルフなど亜人如きがぬかしよる! 我々、人間が世界の新秩序を作るのだぞ!」
「ふん、口では何とでも言える。あれが首都上空に来たらどうすると言うのだ?」
「その通りだ! 対処ができるとでも言うつもりか!?」
怒りの余り室内が騒然とする中、大統領ドロフェイ・ルサコーフが大統領府の執務室に集まる皆を宥めるように言った。
「ヴォロジが消滅したのはしょうがない。軍事基地でなかっただけマシだ。だが、このまま舐められたままでは国家の沽券に関わると言うものだ」
「その通り。ですがそのためにはあの古代兵器とやらを堕とさねばなりませんぞ。次は首都が標的になるのは間違いないでしょうな」
「で、では、如何なさいますので……?」
如何にルジナート人と言えども、ヴォロジの惨劇を見せつけられれば怯む者もいる。威勢の良いことを言う者も多かったが、都市消滅の衝撃により講和論を唱える論調も出始めていた。
「ランディス合衆国が航空攻撃を計画している。我々も加わって爆弾の雨をぶち込んでやるのだ」
「開発していた800kg爆弾をついに使用する刻ですな」
ルジナート連邦は火力偏重の兵器開発を行っていた。
まさに火力こそ正義と言う訳だ。
「し、しかし前回はあの『シアトー655型』でも全く歯が立たなかったのですぞ!」
「だからと言って座視する訳にもいくまい。仮にも同盟国。我々はこの大戦の連合国なのだからな。一蓮托生なのだよ。我が国が潰えれば次はランディスよ」
現にルジナート連邦はランディス合衆国の航空支援によって戦況を優位に進めている。更に神聖ヴァルガリア帝國や獅子州連合との間に位置するため、ランディス合衆国にとっては大事な緩衝地帯。
ルサコーフはそう考えていた。
「あのような兵器を複数保有しているとは思えません。それに運用するのにどれ程のエネルギーを要するか……」
「しかしこのルジナートグラードに襲来するまで時間はありませんぞ」
全く未知数の兵器。
先程まで大声でがなり立てていた者たちも弱気になり、場は一転して静まり返る。
そこへルサコーフの有無を言わせぬ低い声が響いた。
「次の戦いが最初で最後の戦い……乾坤一擲の一戦となる。今、軍部が調整している。お前たちも覚悟を決めることだ」
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