第21話 ルジナート連邦痛撃作戦
お待たせして申し訳ございません!
あけましておめでとうございます!
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ユースティア、神聖ヴァルガリア帝國軍の共同軍事作戦がついに決行に移される刻が来た。
ルジナート連邦軍を叩き出すために南部にあるユクレイン、聖ルーシ共和国へ向けてアルスガッド基地、ポートノワール軍港から時間を合わせて戦車大隊が北進を開始。
ポートノワールからはユースティアの『60式戦車』と『ゼノ00式戦車』が投入されている。
南部戦線で一気に押し返しルジナート連邦本土を叩く計画である。
ユクレイン国内で絶望的な戦いを繰り広げていた、ユクレイン陸軍と神聖ヴァルガリア帝國陸軍には待ちに待った来援となる。一時は首都間近まで侵攻されていたユクレイン陸軍は、ブリエチア地方で何とか踏み止まっていた。
「おいおい、敵さんが攻勢に出てきたぞ! 痛撃作戦は今日だったよな!?」
「そうらしいですよ。神聖ヴァルガリア帝國がユースティアって国と組んで行われる共同反攻作戦って話です」
「ユースティアって何処にあるんだ?」
「車長! 距離三○○○まで敵戦車が来てますよ。砲撃指示を!」
車内から頭を覗かせて前方を見た車長の目に、地平線を埋め尽くすルジナート連邦軍の戦車部隊が映る。
同時にランディス空軍の『ロスエンゼ300型』が双眼鏡の彼方に見える。
「またランディスの爆撃機かよ! うちらの戦闘機は仕事してくれよ!」
車長の口から切実なる叫び声が飛ぶが、他の3人の乗組員も思うところは同じであった。
何せ命が掛かっているのだ。
空から見れば戦車など動く棺桶である。
とは言え戦闘機乗りも奮戦しているのだが、いくら気合があっても機体の性能差を覆すのは難しい。
「とにかく、撃て! 照準合わせ! 砲塔と履帯を狙え!」
轟音と共に砲弾が撃ち出され、排莢される。
狭い車内は振動で震え、淀んだ空気が充満していた。
「航空支援もないのかよ……今日は空に敵機しかいねぇ……」
「もう全機喪失したんじゃないすかね?」
「まさか……ですが他の部隊も肝心な作戦内容は聞いていないようですし、極秘作戦なんでしょう」
「あいつら無線傍受に余念がないからな。そりゃ内容までは知らせんだろ」
ひたすら狙っては撃ち、狙っては撃ちを繰り返しているが撃破できていない。
戦車部隊はルジナート連邦の方が圧倒的な強さ――防御性能、機動性能を誇り、真正面からは貫けない。
「今日が命日になりそうだな」
撤退命令がない以上、ここで死ねと言うことなのだろう。
遠くからは間もなく到達するであろう『ロスエンゼ300型』の大軍が迫っていた。
車長は既に何度もしてきた死の覚悟を、再び決めた。
その時、眺めていた双眼鏡に信じられない光景が映る。
「なッ……何だ!? 爆発してるのか!?」
我が目を疑った車長が、思わず双眼鏡から目を離すが、空に咲いた爆発の華は見間違いようがなかった。
更に間断なく、連鎖的にランディス空軍機は消滅していく。
爆発して墜落や、制動を失ってきりもみ状態になるなど、そんなレベルではない。
一瞬で爆散、消滅である。
車長の言葉に何事かと、乗組員たちが無理やり顔を出そうとする。
目撃した彼らは目を見張り、硬直していた。
「はぁ? 何が起きているんですか、これは……」
「敵機が落とされてんの久々見るんすけど。何だこれ」
そのようなことを聞かれても分かるはずもない。
乗組員たちも別に質問している訳ではなく、思わず口から言葉が漏れているだけなのだが。
車長は遠くから聞こえる爆音と、敵機が消滅していく光景に、ただただ茫然とすることしかできない。
そこへ耳をつんざかんばかりの轟音が聞こえてきたかと思うと、一瞬で戦車部隊の上空を飛び去っていくものがあった。
後方部から噴出する青白い閃光を残して――。
「あれは戦闘機か? 凄ぇ速度なんだが……?」
「神聖ヴァルガリア帝國空軍の新型戦闘機でしょうか?」
「まさか。今までの奴とはものが違うぞ!」
「俺も見たいんだが……」
缶詰状態の操縦士のみが状況を把握できずにいた。
狭い視界の中、空など見えようはずもない。
ランディス空軍機が消滅しようとしていた頃、更なる聞き慣れない音が近づいてくる。
バラバラと空気を切り裂く音――黒い色で塗装された丸みを帯びた機体の上部に回る翼がついている。
「今度のはさっきのより遅いな……あれも戦闘機なのか?」
その時、通信長の言葉が車長の思考を打ち切った。
「首都キルフから大規模通信。ルジナート連邦痛撃作戦が開始されました! 全部隊は直ちに反攻に移れとのことです!」
「へー、タイミングぴったり合わせた作戦ですね。共同作戦とは思えないです」
「まぁとにかく前進だ! 今までの借りを倍以上にしてお返しして差し上げろ!」
とは言え、不安は拭いきれないのも事実だ。
空からランディス空軍を駆逐したとして、前線基地を叩かねば物量で勝るランディス連合はたちまち再出撃してくるだろう。
それにルジナート連邦の戦車部隊を抜ける訳でもない。
もやもやした感情を抱いたまま、戦車が鈍足で駆ける。
「部隊長から指示はあったか?」
「ありません」
何か良い作戦がないかと期待したが、無駄だったようだ。
正面から抜けないのだから側面から奇襲でも……とも思うのだがルジナート連邦の戦車部隊は横に広がって戦線を押し上げる戦い方をしている。
密度は減るが、戦車の性能差がここでも効いてくる訳だ。
先程から何発か砲撃が飛んでくるが、命中弾には至っていない辺り、運だけは強いらしい。
顔を出して前方を注視し続けていた車長は、どうしたものかと考えていたのだが――
突如、ルジナート連邦の戦車が大爆発を起こして炎上する。
近くには先程の黒い機体が浮かんでいる。
「何だ? 攻撃した? あれは滞空できるものなのか……?」
誰に言うでもなく呟きが漏れるが、当然答えられる者などいるはずがない。
車長の双眼鏡を持つ手には、いつしか強い力が込められていた。
黒い機体が何かを発射すると、またもや戦車が爆散する。
車長はもう目の前の光景に付いて行けなかった。
「至近距離とは言え、あの硬い戦車の防御を抜くと言うのか?」
信じられないが、あちこちで敵戦車が爆発する様子を見せられては、納得するしかない。ここに至ってようやく、車長の心には希望と言い知れぬスッキリした感情が込み上げていた。
「ざまぁ見ろ!」
思わず車長の口からは溜まっていた鬱憤が吐き出されていた。
―――
「『ロスエンゼ300型』との通信、途絶しました」
信じられないと言った表情で通信士が愕然としながらも報告した。
ルジナート連邦と聖ルーシ共和国との国境近くにある最前線基地ロスエフの指揮所が静まり返る。
これまでこのような事態など起こったことがなかったのだから当然と言えば当然と言える。
「中将閣下! やはり『シアトー655型』に護衛させるべきだったのです!」
「戯けたことを抜かすなッ! 爆撃機の第3大隊だけで十分と言ったのは貴様だろうが!」
基地司令に怒鳴りつけられて、言葉に詰まる参謀中佐。
慌ててフォローに入る空軍少佐が、考えられる可能性を上げた。
「ですが、通信もないまま撃滅されております。何処かの国家の介入があったのでは?」
「介入だと? 神聖ヴァルガリア帝國なら既に首を突っ込んできとるだろう? 何か? 新型戦闘機でも開発したとでも言うのか?」
「そのような情報はありませんが……もしかすると最近話題のユースティアでは? カヌール海に出没していると噂で耳にする程度ですが」
「ああ、あのカヌール海で我が国の海軍を沈めているらしい国か。たかだか海軍力が高いだけの国ではないのか?」
全員が両者の会話に耳を傾けていた。
誰もが状況を把握しようと必死なのだ。
「そんなことは今は良いでしょう。他国の介入があったとすれば、前線が崩壊する可能性がある。直ちに『シアトー655型』を付けて『ロスエンゼ300型』の再出撃を求める」
割り込んできたのはルジナート連邦の陸軍中将で、この基地の司令補である。
滑走路などの整備をしたとは言え、ロスエフ基地はあくまでルジナート連邦がランディス合衆国に貸し出しているだけ。
流石のランディス司令も無視できない。
「そうですな。では準備に取り掛かりましょう。おい! 出撃準備に掛かれッ!」
そこへ凄まじいまでの轟音が――
大地を揺るがし、空気を震わせる爆発が次々と巻き起こる。
あまりの衝撃で基地内の窓は割れ、風が熱気を運んでくる。
「な、何が起きたッ!?」
司令官の問い掛けには誰も答えられなかった。
誰もが混乱する中、ようやく情報と共に1人の軍人が飛び込んできた。
「当基地は爆撃を受けております! 滑走路、駐機中の戦闘機、爆撃機、基地のあちこちが炎上中です!」
「爆撃だとぉ!? 敵影は見えたか!?」
「それが、何処にも見当たりません」
「どう言うことだ……レーダー士は何をしていたッ! 報告急げッ!」
「レーダーが真っ白で……何も映りません」
その時、凄まじい音と共に司令部にも爆弾が直撃した。
轟音と共に司令室にも破壊が撒き散らされている。
幸いにも命は助かった司令官は五体満足なことにホッと胸を撫で下ろすが、それも一瞬のこと。
周囲の状況を確認して愕然とした。
「何だこの威力は……とんでもない炸薬量だぞ」
今の攻撃で多くの者が死んだようで、瓦礫の中には多くの遺体が転がっている。
「地下へ退避しろッ!」
司令官の叫びは猛烈な爆音に掻き消され、誰にも届かない。
生存者を助けようとしている者がいる中、彼は慌てて地下へと向かう。
爆撃の密度が凄い。
彼は地下への入り口を見て固まっていた。
瓦礫に道を塞がれて為す術はない。
他の入り口に向かう暇もないだろう。
全てを諦めたように司令官は天を仰いだ。
広い蒼穹を――
超空一五○○○m。
ユースティアの超高空爆撃機が編隊を組んでルジナート連邦上空を飛行していた。
ロスエフ基地に地獄の雨が降る。
―――
数時間後、基地消失の報を受けて大混乱に陥っていたルジナート連邦政府。
南部の大都市、ヴォロジでも異変が起こっていた。
その上空には丸い円盤状の超巨大戦艦とも呼ぶべき物体が不気味に浮かんでいた。とは言え、戦艦とは言っても形状は全く異なる。
大都市はその影に日光を遮られて、暗く沈んでいる。
誰もがその円盤を見上げていた。
そしてその中央部がゆっくりと開いていく。
やがて蒼銀の光がその穴に集約され、神々しいまでの光の塊と化す。
脈動していた光が安定して完全な球体に変化すると、水滴が落ちるかのようにその蒼銀の光塊はその力を解放した。
ヴォロジのルジナート連邦国民が、空を見上げた日――
それは神聖ヴァルガリア帝國の切り札、古代兵器『キリル・エア』が憤怒の鉄槌を下した刻となった。
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