表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/45

40.レイニー王太子誘拐事件②

 レイニーは一人になった気配を確認し、しばらくしてから目を開いた。室内の暗さに目を慣らしていたのだ。銀髪が目にかかり煩わしいので首を振る。


 レイニーは後ろ手に縛られ、見慣れないごく狭い部屋に転がされていた。目線を下げれば、自身の身体には何も身に付けていない。


「……」


 暗闇の中、耳を澄まさなくても音が聞こえる。女性の声……そして、複数人。声の質から中年以上か。さらにほんの微かだが、陶器が擦れる音がする。水が注がれるような音も。

 途切れながらも聞こえる会話の内容と、察せられる茶器などの扱いから、上位貴族の茶会であると判断する。部屋の扉のデザインは見知ったデザインのもので……つまり、ここは王城の中。


 今週、王城で開催予定の茶会は一つしかない。扉の向こう側で開催されているのは、キングスベリー公爵夫人の茶会、と判断する。


 レイニーは身包みを剥がされて、この茶会が開催されている部屋に隣接する「用具入れ」に閉じ込められていた。

 キングスベリー夫人たちにまで情報は行っていないようだが、今頃、王太子が行方不明になったとしてルーサーたちが必死に探しているはずだ。


 用事入れの中には時計があった。

 茶会終了予定時刻まであと30分ほどだ。


 さすがのレイニーもこの姿のままご婦人たちの前に飛び出すわけにいかない。

 これはレイニーの羞恥心によるものではなく、彼女たちのためでもある。この茶会参加者の平均年齢は高い。レイニーが驚かせたことにより、ご婦人が気絶でもしたら一大事だ。大理石の家具に頭を打ったら死者が出る。


 扉一枚挟んだ部屋にこれだけの大人数がいる状態で、誰かがレイニーに致命傷を与えられるとも思わない。


 あと30分かそこらで彼女たちが解散し、使用人が片付けに来たタイミングで助けを求めれば良い……しかも、猿轡さるぐつわはともかく、手足を拘束している紐は比較的緩く、レイニーなら秒で解ける。


 ーーそんなこと、犯人やつも知っているはずなのに。


 レイニーは目を細めた。

 縛った紐が緩いのは、明らかにワザとだ。おそらく、レイニーの身体に痕を残さないために。

 レイニーをここに連れて来た人物は、レイニーに「じっと一人でこのままいさせること」が狙いに違いない。ラネージュ・ムウへの殺人未遂と同じだな、とも思う。あの時、ラネージュの侍女ゾエへ違法薬物「メモリア」を渡し、協力したのも同じ人物だろう。


 レイニーは()()()()()()

 今自分の身体には「メモリア」が盛られていることを。


 30分茶会の終わりを待っている間、異変すら感じず「メモリア」によって眠り始める。そしてそのまま何も対処しなければ、死に至る。

 つまり、犯人の狙いは、レイニーを完全に一人きりにすること。


 リコリス侯爵の尻尾を掴むため、あえてルーサーたちから離れて隙を作ったが……まさか裸に剥かれるとは。ここからいくらでもやり様はあるが、シュール過ぎる自分の状況に、まずは苦笑してしまう。


「メモリア」には、「幸せな過去」を繰り返し思い出させる効果がある。もし、その効果も作用したならば、自分は何を思い出すのだろう。


 幼少期、カームとアリアネルがいた頃か、それ以外ならーー。


 こんな格好をしているからか、嫌な寒さを感じた。ふと、いつだったかクリアと体育用具倉庫に閉じ込められたときのことを思い出す。クリアの一生懸命なオレンジ色の瞳を思い浮かべれば、どういうわけだか、ほんの少しだけ、心が暖かくなった気がした。


「!」


 扉の裏側に人の気配がした。

 レイニーは再び目を閉じる。もし犯人が戻って来たのならば、既に意識がないと見せかけた方が有利と判断したからだ。


 瞼から感じた隣の部屋の明かりは、直ぐに暗くなる。一度細く開かれた扉がまた閉じられたことを察する。


 僅かに漂うこの香りは。


 ーー世界で一番良い香り。


「……殿下、レイニー殿下!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ