8. 二人の事情
「ジル、もう良いわ。 だいたいわかったから。」
何回か獲物を見つけては矢を外して逃げられる事を繰り返した後、ロザリーはそう言った。
「どう? 僕どこを直せばいいのかな?」
「そうね、色々方法はあると思うけど……」
そう言って急に黙った彼女は、何かを決意したように顔を上げて僕を見据えた。
「その前に、聞いても良いかしら。
答えたくないことは答えなくても良いわ。」
「う、うん。」
真剣な表情の彼女に緊張しつつ答える。
「ジルは今まで、大変なこともあるだろうけど、毎日ご飯を食べて生活出来てるわよね。」
「うん。」
「それでももっと狩りが上手くなりたいと思うのは……やっぱりララの事があるからかしら?」
「……うん。」
「初めて会った時、村の人達とはあまり関わっていないって言ってたけど、それもララが関係してる?」
「………。」
「いいわ、ごめんなさい踏み込んだ質問をして……」
「あっ、ちがっ……
……ごめん。
ロザリーが良ければ聞いて欲しい。」
ララの事はあまり人に話すべきじゃないと思っていたが、正直この先の事を考えると自分1人ではどうにもならず、誰かにすがりたい気分だった。
そして、まだ短い時間しか過ごしていないが、ロザリーになら話せる。むしろ、聞いて欲しいと思った。
ロザリーは先を促すようにじっと僕を見た。
「ララは産まれた時から病気だったんだ。
成長不全症って言うらしいんだけど……。
身体の中の機能が上手く働かない病気らしくて、成長は遅いし顔色も悪くて髪もボサボサしてて……。
村の人達に気味悪がられたんだ。
移る病気じゃないし、呪いでもなんでもないのに、近付くなって……。」
理不尽だって思うけど、田舎の村人にはこういった気質の人間は多い。
実際、僕だってお医者さんにララを診て貰うまでは、呪いとかだったりしないだろうかと得体の知れない恐怖を感じていた。
自分の妹の事だったから詳しく知りたいと思ったし避けるような事はしなかったけど、もし他人だったら気味悪がって近付かないかもしれない。
「ララの病気をいつか治してあげたいし、そのためにお金を貯めたい。
でも、ララを1人にする事は出来ないから街に稼ぎに行く事も出来ないんだ。
村の人達にも頼れないし。
だから、すごく時間はかかるかもしれないけど、今僕が出来る事は少しでも多く獲物を狩って、革を売ったりお金になるものと交換して貰ったり……それぐらいしか、出来ないんだ。」
話を終えると、ふいに涙が込み上げてきた。
女の人の前で泣くなんて、とグッと眉間に力を入れて堪えるが、今にもこぼれ落ちそうだ。
今まで、誰かに相談する事も出来なかった。
何かが解決した訳ではないけど、それでも僕の心は少しだけ軽くなっていた。
その時、頭の上にフワッと温もりが触れた。
驚いて視線を上げると、ロザリーがすぐ側まで来ていて僕の頭を撫でていた。
「話してくれてありがとう、ジル。
今まで相談する相手もいなくて辛かったわね。」
優しく微笑むロザリーに、その言葉に、僕の抵抗もむなしく涙は次々と流れ落ちていく。
そして、ロザリーはそんな僕を見ながら信じられない事を言った。
「私にララの薬を作らせて貰えないかしら。」