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83.強さの意味

 真宗は、素手の戦闘の構えに入った。にしきも構える。


 「にしき、お前の肉弾戦は見たことがない。俺について来れるか?」


 「あれから何年経ったと思ってるんだ。いいから来い」


 にしきの手招きに応じ、真宗が突進した!

 両拳に妖心気を込め、高速の打撃を繰り出す!


 にしきは全身に心気を巡らせた。

 真宗の打撃を受けたり避けたりしつつ、確実に敵の急所へ打撃を当てていく。


 「そんなはずはない! そんなはずはない!」


 真宗は焦りながらスピードを上げる。

 その全てをにしきさばき、相手にダメージを加え、極め付けに、後ろ回し蹴りを決めた。

 30メートルは吹っ飛び、大木に激突した真宗は、すぐに立ち上がった。


 「なぜだ! なぜ、破邪士を食いまくった俺が負ける! 妖魔はどこまでも強くなれるんじゃないのか?!」


 「真宗、お前は、俺といた頃より、弱い」


 「そんなはずはない! 俺は酒呑童子も超えた。あの時2人で足元にも及ばなかった奴と勝負して、完膚かんぷなきまでに勝った。俺は強くなったんだ!」


 「お前は根本的に間違えている」


 「何をだ! 何が間違っているんだ!」


 「強さってのは、何かを守ることで発揮されるんだ。ただの自分の興味や関心だけで生じるものじゃない。強さをはき違えているんだよ、お前は」


 「何!?」


 「俺は、家族を、仲間を、人間を守れる自分になりたいと願い、修行をしてきた。それが今の結果だ。あの時を思い出してみろ」


 「あの時?」


 「あの時のお前は、恩を感じていた俺の親父や、ひと回り歳下の俺の安全を思いながら、戦っていた。だから、強く、気高けだかかったんだ」


 「……」


 「もう降参しろ。お前に勝ち目はない」


 「……、はっはっはっは!」


 「何がおかしい」


 「言うようになったな、ボンボンが! あの頃、俺はお前らに感謝も仁義も感じてなかったんだよ! ボンボンのお前も嫌いだった! いつか一家全員寝込みを襲って殺してやろうと思ってたぐらいだ!」


 「……」


 「それに俺は妖魔になった! その素質ももともとあったから、破邪士を食うのも躊躇ちゅうちょなかったんだ! もう、おせーんだよ! 俺には、この生き方しかなかったんだ!」


 真宗は全身の妖心気を拳に集めた。


 「最後だにしき! こいつでケリをつける! 心妖拳!」


 真宗は猛進し、渾身の拳を繰り出した。


 にしきは、初めて全身に行き渡らせていた心気を拳に集めた。ガードを落とし、攻撃に全てを集中させるためだ。


 「真宗、残念だが、お前がそうなった俺の責任は、全うさせてもらう」


 「心気拳!」


 互いの気力がぶつかり合う拳の衝突は、あたりの地面や木々を広範囲にえぐり、ぎ倒した。


 そして、にしきの拳に腹部を貫かれた真宗が、ぐったりとにしきに寄りかかった。


 「お、俺は、どこで間違っちまったんだろうな」


 「おまえのせいじゃない」


 「どう考えても未熟な俺のせいだろ?」


 「俺は、おまえにパワハラしたやつを、ズタズタに殺してやりたい」


 「へへ、そうだな。あのカスが、元はと言えば、最初だったのかもな」


 「パワハラの大半は、妖魔の血が絡むようだ。それでも真宗、お前は、妖魔でいたいか?」


 「へへ、ごめんだね……」


 真宗は、事切れた。


 にしきはやりきれない気持ちで、真宗の遺体を、そっと地面に横たえ、背を向けた。


 彼の遺体が、妖魔のそれとして蒸発していくのは、見たくなかった。




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