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「じゃあ、交渉成立ってことで」
「お互い納得済みってことですわね」
両リーダーが握手をして、この奪い合いが冒険者の掟に則った戦いであることが宣言された。
セイカはシンウと話すこともなく、その場からすぐに去った。尾地は他のパーティーメンバーに手を振って去っていく。「裏切り者ー」等の罵声を浴びながら。
帰路についたセイカと尾地は、コンクリの丘を登る。
セイカは無言である。尾地はヤレヤレといった感じだ。若い子の悩みなんて中年の手に負えるものではないが、放っておいていいとも思わなかった。
「シンウさん…幼馴染と話をしなくていいんですか?」
その言葉を聞いて、バッとセイカが振り返るが、顔は怒りと恥ずかしさが半々。尾地を睨んだが、すぐに顔をもとに戻した。
しばらく無言の後、
「シンウとは家がそばで…」
「それは彼女から聞きました」
尾地は会話をスキップした。
「彼女との間にわだかまりがある。了解了解、そこは理解しました。で、どうします?」
「どうって、なに!」
尾地のドライな対応に怒るセイカ。
「まず、リーダーとして、そのわだかまりは今回の作戦に悪影響を与えないか?他のメンバーへの影響は?」
尾地の言葉に少し迷ってから
「なにも影響ありません!私事ですから。他のメンバーへの接し方の変化も、しません。するはずもない!」
「じゃあ大丈夫ですね。ご自覚出来ているようですから…では自覚できてない方から」
「自覚…出来てないほう?」
「シンウさんと仲直りしたいんですね」
「…!」
セイカは言葉が止まり、足も止まった。
「わた…わたしは!」
尾地は彼女が言うのを待っている。
「仲直りなんて!」
「したくない?彼女が嫌いですか?」
尾地は詰める。
「幼馴染と言えどただの、近所にいた知人んの一人でしかありませんからね。セイカさんも御友人はご自分の手で選びたいでしょうし」
「あの子は…!」
「あの子は?」
セイカは黙った。言葉が吐き出されるまでに時間がかかった。
「あの子と一緒に冒険者になるって言ったのに!一緒じゃない。一緒になれなかった!」
ようやく現状の不満を吐き出した。
その彼女を見て、尾地は教えることにした。
「シンウさんもそう言ってました」
「シンウが?」
「お互いが約束を破ったと、後悔してましたよ」
セイカは息を吐きながら灰色の天井を眺めて
「あの子も…」とだけ呟いた。