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「…………そのようなこと、聞いてどうしようと言うのです?」
蔑みの限りで、エテルティアは逆に父へ尋ねた。
「あなたは、災いの種をまき散らすだけまき散らして、何一つ、対処のための尽力をなさらないではありませんか?」
もはや、国王第一の建前を順守する気さえ失った彼女の中に、多くの過去が甦る。
発端は、偽りの婚姻だ。
そして、バルモア三世がそれを認め、真実の伴侶を新たに迎えた慶事が、今に至る不幸の序章となった。
この時点で彼が、過去を完全に精算さえしていれば、マヌエラ前妃とセレスティア王女を生涯幽閉するだけで、一切が終わったはずである。
だが、現実はそうでない。
バルモア三世は、自らの過ちを悔い改めるどころか、離別した愛妃を恋い慕い、新妃を蔑ろにし続けた。
真実の王女たるエテルティアに対しても同様である。
かけらほどの配慮すら、彼女は与えられなかった。
無論、マヌエラ前妃は、そんなバルモア三世の不手際を払拭するため、どのような尽力もしてはいない。
ただ、厚情に乗じて、前王妃として大公女の位を安堵され、国費による生活を賄い、更には元夫の道ならぬ訪問を拒みさえせず、唯々諾々と与えられるままを享受していたのだ。
セレスティアとて許されるものでない。
自らの存在の罪深さを理解しているのなら、物心がつくころには、すでにその座を辞するぐらいの姿勢を見せて然りだろうに、浅ましくも王女の座にしがみ付き、正当な王妃とその子供たちの感情を、踏みにじり続けたのである。
それに、立ち向かったのは、レスニア新妃と、エテルティア王女に外ならなかった。
レスニアは、憎い女の暗殺止まりだったが、英明なるエテルティアは違う。
根本から全てを正してはじめて、事態は収束を迎えると看破していたのである。
「正当な王女であるこのわたくしが、あなたの過ちを正すために、どれほど粉骨砕身しているか、少しでも知ろうとなさったことはおありですか?」
母娘が強いられた屈辱の重みを、果たしてバルモア三世が真実の意味で理解できるとは思えない。
自らの手を汚すのすら厭わず、「正しさ」を貫こうとする苦悩は、言い訳ばかりして安易な逃げ道を捜す男に、直視さえかなわないだろう。
「神の教えに従い、正しき有り様へ全てを導くため、わたくしが払った犠牲の多さを、認識できるとでもおっしゃるのですかっ?」
妄執。
彼女の信念をそのように断じるのは容易だろう。
けれど、「そう」でなければ、エテルティアは足元の崩れる危うい位置に立っていた事実がある。
そして、自らこそが正当な王女であるとの自負の元、災いする一切を排斥するのは、エテルティアにとって、神の教えを遵守るための重要な前提だった。
教義を蔑ろにした父の失策を正すため、彼女は手段を厭わないと神に誓ったのだから。
そのためには、自らの肉体すら道具にするのを躊躇しなかった。
人の道に外れると充分承知の上でだ。




