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「いいかげんにしてください、お父さま! わたくしは忙しいのです。これ以上、煩わしい呼び立ては……」
いかにも不機嫌な言葉と共に、ラーダ一人を伴ったエテルティアが入室する。
父王の呼び出しを受けて、足を運んだ様子だ。
しかし、すでに就寝していたバルモア三世は、そのような訴えをしていない。
実はこれも、セルアの手配によるものである。
エテルティアは、そうとも知らず、父に呼び出されたと信じて疑っていない。
本当は応じるつもりなどなかったのだが、夜分にまで及ぶ閣議中に「重要な話し」だと、重臣たちの前で通告を受けては、無視する訳にもいかず、仕方なしに最も信頼できる側近であるラーダ一人を供にして出向いたのである。
何にしても、臣下たちに聞かれて良い内容であるはずがないと、予め人払いをなした上でのおとないだった。
よって、常ならば扉を守る兵たちだが、今は王女の到来時に指示を受け、回廊の最初の角まで退けられている。
「っ!」
部屋を見渡したエテルティアは、この室内にいるはずのない人物の存在に目を見開いた。
城の下働きそのものの質素な装いをまとう、二人の青年。
なぜ、このようなところにいるのかと疑問を覚えるより先に、ひらめきが彼女の芯を貫く。
「……まさか、……セレスティア……」
直感だった。
会ったことなど一度もないが、長年の憂慮の対象物たるその特徴は、諳んじてしまえるほどに把握している。
目の前の人物は、正にそれそのものではないか!
果たしてセルアは否を唱えず、緩く瞬いた。
「誰かっ……」
「お待ちを!」
侵入者を捕らえるために遠ざけた警護の者たちを呼び寄せようとする主君を、ラーダが止めた。
「父君の御命令でございます。陛下の御叡慮に水を差すような真似はなされますな!」
彼は言外に、この展開がバルモア三世の意志によるものだろうとなだめる。
……何の力も持たない王に、果たしてそのような手配ができるはずもないのだが、エテルティアはとにかく気を取り直した。
腹立たしいが、憎いセレスティアの前で取り乱し、父王を糾弾するような真似ができるはずもない。
あくまでもエテルティアは、バルモア三世の名代として、国政を担っている身だった。
ラーダの言葉通り、セレスティアのいるここで、その前提が偽りだと暴露する訳にいかない。
「エテルティアよ。そなた……イブリールへ暗殺の手を延ばしたと言うのは、事実か?」
しかし、バルモア三世が口にした、まずは質しておかなければならない重要な問いに、エテルティアは、顔から表情を消し去る。
刹那の間、寝室は不気味な沈黙に包まれた。
それを破ったのは、ラーダの手だ。
彼は、別室への扉を閉ざしたのである。
これを以て、二間先の回廊……それも、角にまで人払いで回避させた兵の介入は、ほぼ防がれた。
つまり、王と二人の王女。
それぞれの供である自身とモルティス。計五名のみが存在する、密室状態を作ったのである。




