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「そ、そうですとも。我らが陛下は、セレスティアさまの実のお父上さまでもあらせられます」
「確かに、お父上さまのお諭しなれば、実の御娘君が、聞き入れぬ訳にも参りますまい」
そもそも、ティアモラがここまで追い込められた要因の多くに、バルモア三世の言動があるのだ。
ここで、和平交渉に赴き、尻ぬぐいをしても罰は当たらない。
それに何より、彼らが告げる通り、バルモア三世は、セルアの実の父だ。
セレスティア……セルアも、今や敵国の皇帝の母にて元帥たる立場にあっても、尊属の言葉を、易々退けるような真似は、国民の手前、できるものでないだろう。
「暗殺部隊を組織せよ」
しかし、エテルティアの発した命令は、それとは全く異なるものだった。
ここで父を担ぎ出すなど、できる由もない。
公然の事実とされてしまった罪の具現だ。
恥の上塗りになるだけである。
また、セルアとの接点など、断じて持たせる訳にいかなかった。
「あ、暗殺部隊ですとっ?」
あまりにも突拍子のないそれに、誰もが竦み上がる。
標的が「誰か」など、尋ねるまでもなかった。
「……じ、実の、姉君を……そのような……」
いずれもが恐れおののくのは、無理もない。
尊属に仇なす行為は、大いなる禁忌なのだ。
しかし、エテルティアは動じない。
「仮にも王女として遇された祖国を捨て、敵として立ち向かって来る罪の結晶に報いの罰を与えるのは、神の御意志に従うものでもある」
勝手な言い分だが、確かに今、セルアを亡き者とできれば、イブリール軍は撤退を余儀なくされるだろう。
この議場の一同の統一した見解だが、彼らの中で、セルアは単なる飾り物の元帥でしかない。
ただ、優秀な幕僚たちが旗印として担ぎ上げているに過ぎないと決め付けていた。
であるからには、セルア一人を葬ったところで、形勢逆転も難しいだろうが、それでも国母逝去とあっては、服喪の撤収は免れないはずだ。
「ラーダ。そなたに、この任を……」
「御辞退申し上げます」
皆まで言わせず、彼は主に否を唱えた。
「な……に?」
「そのような策。私には、完遂させる自信がございません。また、敵軍元帥閣下の生命を正攻法以外で狙う蛮行を正当化できないのです」
彼は、きっぱりと苦言をも呈する。
いずれも、過ぎるほどの正論だった。
エテルティアは、わなわなと震え出す。
ここまで引き立ててやった子飼いのまさかの造反に、凄まじい怒りを覚えた。
……実際には彼女に背いてなどいないのだが、今、それを指摘できるような者がいる由もない。
「それがしが、大任を請け負いましょう」
怒る王女をなだめるように、エーデライト侯爵が名乗りを上げる。
「我が家には、これなる小心者などとは比較にならぬ、勇猛な騎士が幾人も仕えております。必ずや殿下のお心に添いましょう」
「国を裏切った時点で、セレスティア殿など、すでに王女でも何でもないのだ」
「確かに、神の鉄槌になろうよ」
「何、エーデライト侯の手に余るようでしたら、我が家抱えの騎士を提供いたしましょうぞ」
青年貴族たちは、己の浅はかさを、そうと知らずにひけらかす。
ティアモラは、すでに王城の奥深くまでが、壊滅状態に至っていたのだった。
もちろん、杜撰な暗殺計画が成功するはずもなく、刺客の誰一人として、セルアの喉元へ剣を突き付けるどころか、陣営への侵入すら果たせなかったのは、言うまでもない。




