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国母セルア  作者: 小松しま
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 宣戦布告の報は、即時に大陸中を駆け抜ける。

 当事者の一方であるティアモラには、当然ながら、最優先でもたらされた。

 とは言え、イブリールに派遣されているティアモラ大使発信の報告ではない。

 こうした場合、最初の見せしめとされかねない存在ながら、セルアは生命及び財産の保証をした上、二日間の猶予を以て国外より退去するよう命じている。

 つまり、ティアモラ大使は、通告を受けてすぐ、祖国の都ヴァストォールへ急使を送る傍ら、身辺の整理に取りかかったのだ。




 そのヴァストォールにて、今もなおイブリール大使を担うドリュー伯爵は、急遽召喚された王城内の大広間へ単身にて赴き、居並ぶ廷臣たちの凝視に晒されながら、「病気療養中」である父王の名代として玉座に着くエテルティアの前で、母国の意向を告げる。

 彼の地位にあって、伺候の際に供を連れないないなど、慣習に反する振る舞いながら、このたびばかりは不問となるだろう。

 麗しき王女は、肘掛けに頬杖をついて、「敵国大使」に対して、あからさまな侮りを示していた。

 それを突き付けられるドリュー伯爵には、もはや死の覚悟ができている。

 敵地にて、祖国の代表を担う身だ。

 正式な宣戦布告を告げたが最後、その場で斬り殺されると、容易に想像できた。

 数日前に、イブリールからの密命が届いていたため、すでに部下や家族たちは国外へ逃している。

 アレクトルシスが即位する刻限を待って、ティアモラへの宣戦布告を奏上するのが、彼の大使としての最後の役目だった。

 担った任に対する責任でもある。

 生命が惜しかったら、現地雇いの使用人に伝言を託して逃亡する手段はあった。

 実際、イブリールからもそのように指示されていたものの、実直で知られたこの男は自らの使命を、その誇りにかけて全うする道を選んだのである。

 だからこその、イブリール大使でもあるのだろうが……。


「ええいっ! 何と言う!」

「セレスティア殿下は、祖国に仇なすのかっ?」

「その男の首を送り付けてやるが良い!」


 エテルティアにおもねる廷臣たちが、鼻息も荒く訴えた。

 それに対して、王女が否を告げないため、最も近しい位置にいたウォールグ大公が、兵たちに仕草で実行を促す。

 小太りの中年男性であるこの人物は、王家の遠縁で、廃人のようになって失脚したタスト公爵に代わって、最近ではエテルティアの最有力花婿候補を気取っていた。

 特別な功績がある訳でない。

 王女の母方……つまりは、西ティアモラで広大な領土を有し、「秘薬」の原料を供給できる立場にあるだけの、むしろ凡庸な人材だ。

 周囲の人間を次々に毒牙にかけるエテルティアの、次なる獲物である。

 この年になっても独身のままの、野望ばかり強い無能な男にとって、国の未来を担う王女との縁組みは、この上ない魅力だった。


「なりません!」


 動き出した兵たちの前に、一人の騎士が飛び出る。

 着々と発言力を強め、公式な場への同席を認められるまでになっていたラーダだった。


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