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国母セルア  作者: 小松しま
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 呼び出しに応じて現れたその姿に、絶句したのだ。

 長く美しい髪を断ち切り、男のなり……いや、軍装をまとうセルアが入場したのである。


「なっ……」

「ひ、妃殿下っ」

「一体……」

「なぜっ……!」


 人々が仰天するのも無理はないだろう。

 そんな中、ファウラが、侍従の掲げる「何か」を手に取り、人々に示した。

 元帥杖である。

 セルアは、将校としての作法で、彼女の前に片膝を着いた。

「ハルバード元帥閣下の退任願いを受理し、その推挙を以て、新帝の御名において、妃殿下を、新たな元帥として、ここに任命いたします」

 今度こそ、悲鳴に似た叫びが生まれる。

 誰もが予想できなかった展開だ。

 セルアは動じず、ファウラの手から元帥杖を受け取った。

 そして、玉座に深く一礼する。

 新帝への忠誠を誓い、一拍を経て、すっくと立ち上がった。

 途端、ファウラは侍従と共に、その場より下がる。

 セルアは玉座に進み出て、サナレーン侯爵が支える手から我が子を抱き上げ、一同に向き直った。


「わたくしはここに、イブリール全軍を統括する身になったことを、宣言いたします」


 高く響き渡る、威厳に満ちた声である。

 直後、怒濤の歓声が起こった。

 それは凄まじい波となって、大聖堂を呑み込み、ややもせずに周囲を取り巻く民衆たちの元へ到達する。

 驚愕の報に、誰もが興奮を余儀なくされた。

 セルアは、あまりの音響に泣きじゃくる我が子を抱いて、踵を返す。

 その後を、従者たちが続いた。



 彼らが向かった先は、一般参賀のためのバルコニーである。

 セルアは、新帝を片腕に抱き、残る一方で、市民たちに元帥杖を示した。

 早くも伝達されていた「大事」が、紛れもない真実であると知って、集う人々が歓声を上げる。

 思いも寄らない成り行きに、しかし、誰もが狂喜した。

 健気な皇妃の姿への愛情は、いや増すばかりだ。

 ひとしきり喝采を受けたセルアは、傍らに従う侍女が捧げ持つの盆に元帥杖を下ろすと、「かんなぎ」・フィオレを抱いて歩み寄る女官長の手から幼子を、その空いた腕に抱き取った。

 帝国の未来を担う二人を、国民の前に示したのである。


「我が愛する……イブリールの民たちよ」


 セルアが口を開いた途端、場は沈黙に包まれた。

 泣きじゃくっていたアレクトルシスも例外でない。

「わたくしは、このお二人に、あなた方の安寧の源である祖国の未来を委ねるため、レスヴィック陛下の名代として、これよりの国難に立ち向かいます」

 敢えてレスヴィックを先帝と呼ばず名指ししたのは、あくまでも自らが彼を代行する立場にあり、その存在を強調させるための、セルアの計らいである。

 動じずに大人しくしているフィオレに引きずられるように、新帝もまた、母を見上げた。

「わたくしのなす全ては、レスヴィック陛下の行いであり、何もかもが、レスヴィック陛下の御意志によるものであるのです」

 セルアの告げる悲壮な覚悟は、空間を支配し、多くの人々の心を打つ。

「この身は、先の皇妃セルアであっても、レスヴィック陛下そのものなのだと、どうか理解してください」

 請願を受けるなり、一斉に呼応の声が響いた。

 万歳の喝采が止まない。

 讃える声に、セルアは笑みを浮かべた。

 そして、真顔を作ると、二人の幼子を軽く持ち上げる。

「先の皇帝、レスヴィック陛下の叡慮を以て、ティアモラ王国へ宣戦布告いたします!」


 イブリール史上に残る名高き戦いは、ここに開始されたのである。



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