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「陛下っ!」
「陛下っ!」
セルアの咄嗟の働きによって、かろうじてわずかなずれで心の臓の直撃だけは免れたものの、決して看過できる状況でない。
その場は騒然となる。
「陛下っ! 陛下っ!」
セルアは半狂乱となって、夫を揺さぶる。
レスヴィックは苦悶の表情で、しかし、声すら上げられずに、小刻みに震えるばかりだ。
(ま、まさか……っ)
セルアは瞬時に確信する。
毒矢である。
スィーナー公爵の生命を奪ったのと同じそれが、この矢には仕込まれていたに相違ない。
「陛下っ!」
必死に矢を引き抜き、血しぶきの飛ぶ中、傷口に唇を寄せようとしたその時、サナレーン侯爵に妨害された。
「なりませんっ!」
毒を吸い出そうとするのは、あまりにも危険だ。
口腔からの吸収によって、セルアまで、スィーナー公爵たちと同じ運命を辿ってしまう。
「離してください! 陛下っ! 陛下っ!」
傷口から溢れ出る血に掌を染めながら、セルアは必死に嘆願する。
その周囲は、凄まじい混乱の坩堝となっていた。
「下手人が自害したぞーっ!」
誰が発した叫びだろうか?
それを耳にしたセルアは、呼吸すら忘れて硬直した。
(ま、……た、しても……)
国の重鎮が葬られ、続いて皇帝。
そして、次に控えるのは何だと言うのだろう?
(神よ!)
セルアは天をあおいだ。
そして、夫を腹心に委ねて立ち上がる。
「我らが神よ! 偉大なる皇帝陛下のお生命をお助けください! わたくしの……わたくしの、全てを捧げます! どうか、神よ!」
悲壮なまでの訴えだった。
その痛ましくも崇高な姿に、騒然とした空気が鎮まる。
人々の注目の中、天から一条の光りが世界を貫き、セルアの胸へと降り立ったのだった。
「っ!」
そして、その輝きは、大きく反射する。
「おおっ……」
集う全ての者たちがざわめいた。
「あ、……ああ、あ……」
恍惚とした姿で、セルアは胸元へ手を当てる。
常に携帯するようになっている聖櫃が、熱を持った。
いや、熱と言うよりは温もりだろう。
首からそれを提げている鎖が、音を立てて落ちた。
しかし、聖櫃はふわりと宙に持ち上がり、セルアの目の高さで止まる。
「……あ……」
言葉にならない神の啓示を、セルアが受け取った瞬間だった。
解した途端、セルアは両手でそれを押し頂き、中を開いて安置されている……こちらも発光している聖鏡を取り出す。
「妃殿下?」
「一体……?」
周囲の訝る声に応えるような余裕はない。
一刻を争うのだ。
セルアは唇を噛み締めると、その聖鏡を、愛しい夫の傷口に押し付け、そのまま肉体にのめり込ませる。
「ぐあぁっっー!」
すでに意識すら失っていたレスヴィックが、苦悶の叫びをあげる。
「陛下っ!」
「妃殿下っ!」
「何をっ?」
「うっ!」
光りの乱舞が起こる。
セルアは歯を食いしばって、暴れる夫の傷口に手首まで押し込めた。
再度、激しい血しぶきが起こる。
そして、レスヴィックの全身に稲妻が走った。
「ううっ……!」
誰もが目を庇い、必死にうかがうばかりだ。
これまでの全てを凌駕する目映い輝きが空間の全てを支配する。




