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国母セルア  作者: 小松しま
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 皇帝夫妻が案内を受けて出向いたスィーナー公爵の寝室にて、偉大な宰相は物言わぬ骸となって横たわっていた。

(ああ……レヴァンス子爵閣下……)

 彼の亡き親友を、セルアは心で呼ぶ。

 皇帝の大成する姿を見届けてくれとの、二人の間で交わされた約束は、果たされなかったのだ。

 どれほどスィーナー公爵は無念に思っているだろうか。

 その表情に苦しみの色がないのは、せめてもの慰めだ。

 控えていた医師の告げるところ、三人とも、苦痛を感じたのは、最初の内だけで、早い段階で意識を失い、その後しばしを経て絶命したと説明された。

 そうした作用の起こる毒の名を、セルアは知っている。

 西ティアモラの極一部の高山でのみ採取される植物の根から抽出されるものだ。

 わずかな量で死に至る非常に高価な劇薬で、取り扱いには細心の注意がはかられていたはずである。

 ただの下男が、おいそれと手にできるものでは断じてない。



 宰相の任にあったスィーナー公爵は、国葬によって送られる次第となった。

 異例ながら、その孫娘夫妻と共に、だ。

 時を同じくして卑劣な牙の犠牲となった肉親たちへ皇帝が示した、最上級の配慮である。

 公爵未亡人は涙ながらに感謝を告げた。

 彼女は、葬儀を経た後に、幼くして爵位を継承した曾孫を連れて、領地へ下がる旨を訴えている。

 唯一となった後継者の養育に、残る人生の全てをかけたいとの望みは、傷心を考えれば、当然の身の振り方だろう。

 レスヴィックは、心からの見舞いを告げて、それを了承した。

 その際、望みがあったら、何なりと言って欲しいと尋ねたところ、一つの願いを奏上されている。

 未成年の君主が、国の功労者を送り出す際に恒例となる行為だ。

 喪服でなく、最礼装をまとうそれは、亡き臣下に、そして弔意を告げる全ての列席者に、この後の安堵を言外に告げるための覚悟を示す計らいとされ、過去にも例があった。

 もちろん、レスヴィックは快諾した。




 そして、国葬の日を迎える。




 人々より敬愛を捧げられていたスィーナー公爵を見送るために、多くの民がイブリンの大聖堂へ馳せ参じた。

 美々しい礼装で儀式に臨む未成年の皇帝の姿は、彼らに更なる哀しみを抱かせる。

 喪服をまとって傍らに控えるセルアにとっても、想いは同じだった。

 健気に父代わりの冥福を祈る皇帝の姿は、誰にとっても哀れ極まりない。

 祭壇に安置された柩の前で、最後の別れを告げはじめれば、啜り泣きもいや増すと言うものだ。


 その時である。


「!」

 セルアの身体の中に、戦慄が走った。

(な、何っ?)

 恐ろしく不快で、おぞましい「何か」が迫っている。

「っ! 陛下っ!」

 考えるより先に、セルアは夫の身に飛びかかった。

 一刹那。

 セルアの行動が早かったのか、遅かったのか、判断などできるものではなかった。

 大聖堂に悲鳴が響き渡る。

 皇帝の身体を、一本の矢が貫いていた。


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