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「ほう! これはまた、大きく出られましたな」
レヴァンス子爵は、悪戯っ子のように瞳を煌めかせて、けれど抑えきれない喜びを宿した笑みを浮かべる。
セルアは、満足そうにうなずいた。
「陛下は、それだけの資質をお持ちでいらっしゃいます。……違いますか?」
この主張を、曲げる日は断じて来ないだろう。
レスヴィックは、……セルアが生涯を捧げるただ一人の伴侶は、それだけの器量を有する傑物なのである。
「……確かに、いかにも……」
レヴァンス子爵はわずかに身体から力を抜いてささやくように零した。
「……何とも頼もしい……」
傍らに控えるスィーナー公爵は、感服と歓喜に肩を上下させる。
レヴァンス子爵は、そんな親友に目を向けた。
「頼むぞ。わしの代わりに、陛下の大成なされる姿を、しっかと見届けてくれ」
「うむ……」
この二人の間には、強い信頼の絆があるようだ。
セルアは、たまらない切なさに目を細めた。
正直な羨望を覚えた。
セルアには、そのような友は、ただ一人としていなかった。
腹心であり身内と思う侍女たちはいても、やはり同様に扱えるものではない。
つくづく自分は特殊な育ち方をしたものだと、まるで他人事のように憐憫を覚える。
逃れられない宿命の死が目の前にあってなお、相手に最も大切なものを託せる友情を、心底素晴らしいと思う。
それを欲してしまうのは自然の成り行きだが、セルアは即座に自戒した。
(……わたくしの全ては……陛下の御ためにある……)
小さく、膝の上の拳を握り込み、泣き笑いの心地で再度、覚悟を噛み締める。
レスヴィックの幸いが、自らの幸せであると。
「どうか、神の御采配をお信じ召されよ」
不意に、レヴァンス子爵が告げた。
セルアは反射的に顎を上げる。
病身の老紳士は、強い瞳でセルアを見詰めた。
「妃殿下は、我らが神の祝福を受けて誕生されし御方にございますぞ」
「……か、か……」
確かに、そのよう流布されている。
セルアは誕生する以前から、祝福を帯びた存在とされた結果、かろうじてながら王女の身分を安堵されて、どうにか生き長らえたのだから。
けれど、真実はどうなのだろうか?
この先の我が身の生きる道を思えば、暗澹たる切なさを覚えてならない。
レスヴィックの栄光を希うのは真実。
そして……愛しい伴侶と生きる道が分かたれた後の余生を切なく忌避したい願いも然り。
両立は断じてかなわないとわかっていてもだ。
「陛下の伴侶として……どうぞ、胸を張って生きられよ」
「!」
胸の内の逡巡まで読み取られていたのに、セルアは目を見開いた。
老獪なる傑物たちは、若き皇妃の懊悩をすら、微笑ましげに見守ろうと言うのだろうか。
「……あっ……」
わずかに狼狽したものの、セルアはすぐさま身を律し、泣きそうな笑みを浮かべた。
「何もかも……お見通しでいらっしゃるのですね……」
自分の苦しみを理解してくれる存在はありがたい。
でありながら、弱さに甘えてしまいそうな恐怖も感じる。
「……わたくしは、陛下を……心底、お慕い申し上げております……。わたくしの、全てを……捧げたいと……こいねがうほどに……」
まだ幼い少年であっても、レスヴィックは、この上なく聡明で、誠実で、朗らかで、セルアを日々魅了し続ける。
彼への愛は募る一方で、いつかの別れが今から恐ろしくてならない。
「あの方を……誰にも渡したくありません」
神の導きによって、一時的であっても、正式な伴侶となったため、一層の拍車がかかったのかもしれない。




