そこにいた人物
目の前にはそびえたつ灰色の石造りの城がある。
いかにも魔王の城といった風な不気味な城だが、
「やっぱり中には罠なんかがあったりするのか? そういったものも探せる道具を作っておいた方がいいか?」
そう俺が思いついて聞いてみると、正人が答えた。
「罠の心配はないらしい。何でも魔王の城の中には“罠”がないそうだ」
「罠がない……まるで向かい入れているみたいだな」
「そうだな、その辺りも不気味だな。色々な事情をこの短期間に知ったものの、まだ何かが隠されている気がするんだよな」
正人がそう呟いて城のドアを開ける。
金属製の重い扉が、ギィッと鈍い音を立てて開かれる。
すると開いてすぐに、中の廊下に炎のような明かりがともる。
俺達に取っエは周りを見るのに都合の良い光景ではある、が、
「なんでこんな俺達に親切設計なんだろうな。気味が悪い。途中で魔物が襲って来るにしても暗い方が有利だしな」
「……私達を、魔王と“遭遇”させたい、とか?」
ぽつりとつぶやいた織江の言葉。
まさかとは、俺は言えなかった。
他の全員が黙っているのはそう思う所があるからだろう。
それでも何か仕掛けがあるのでは、そんな気持ちになりながら進んでいくも、罠も魔物も現れない。
そこで瞳が気付いたように、
「普段は魔王の四天王たちがいるから魔物を配備していないのでは」
「なるほど、留守中に俺達はせめてきているからそうだろうな」
正人がそう答えて、その理由がもっともに思えて安堵する。
ただそれならば常に一人くらいは四天王候補が残っていそうな気もするが、そんな様子も全く無い。
だから魔王に会うために誘い込まれている、そんな予感が俺はしてならなかったが、これ以上不安になっても仕方がないので黙っていた。
いずれ魔王と遭遇するのは確実だから。
そうして緊張したまま進んでいき、階段を上る。
分かれ道は魔王の城の中には何一つないのもまた、奇妙だった。
城であれば魔族の住む部屋程度のものはありそうだが、そういったものもない。
これは一体何なのだろう、不安が募る、そう俺が思っていた所でやけに派手な意匠の門が現れた。
どくろのようなものがモチーフにされた悪趣味なものだが、こまっく豪奢な装飾がされて、これまで見てきたものとは一線を画している。
これは、魔王の部屋なのだろうか?
そう思いっているとそこで正人が、
「入った瞬間に攻撃されるアもしれない、警戒するように」
そう聞きながらドアを開けると、特に攻撃はなかった。
そして中は、この城のほとんどを占めるような広さ、そして高さのある部屋だった。
だが中の様相は非常に簡素で、剥き出しの石造りの床と壁、そして明かりの入る窓が幾つかと……ドアから離れた反対側の正面に椅子が一つと、それに座る男が一人。
その男はふり服装をした人間のようにも見えたが、そこでアリアが悲鳴を上げた。
「そ、そんな……」
「アリアは知っているのか?」
「あれは、私達のご先祖様が勇者のパーティの一人で異世界から召喚された勇者に似ています。フラウ」
「わ、私もそう見えます。絵で見ましたから。でも、なんで……・」
怯えたようにフラウとアリアが呟く。
思いのほか大きい声だったのだろう。
そこでそれを聞いていたらしいその、その勇者に似た人物が俺達の方を見て、告げた。
「……正確には、その勇者の“コピー”が俺だがな」
あきらめにも似たような冷たい声が、響いたのだった。
自分を勇者の“コピー”だといった人物。
それは俺達の方を見てさらに続けた。
「俺が、“魔王”にあたる。といっても、ここから出られもしないし、ほとんど動けないがな」
「な、なんでこんな……」
アリアが珍しく動揺したように呟く。
勇者パーティの末裔として、色々と聞かされていたのかもしれない。
だから彼女にはいつも以上に衝撃的だったのだろう。
そこでその魔王と名乗った人物が俺を見た。
「一番お前が魔力が高いな」
「……分かるのですか?」
「そうだな。次の“魔王”になる“コピー”元がどれだかくらいはわかる」
「……え?」
俺はそんな間の抜けた声を上げてしまう。
するとその目の前の人物の“コピー”が、
「この世界が持っている歪な進化、それがこの魔王との戦闘だ。魔王を倒すことでその時生まれた強い人間をコピーして次の魔王とする。そうすることによって、さらに強い勇者を呼び寄せるのだ。魔王の存在の影響も魔族にはあるから、魔族も必然的に昔よりも強くなる」
「ちょっと待て、それで人間が滅んだら進化は止まるんじゃ……だから戦う意味はなくなるのでは?」
そんな疑問を正人が投げかけると、その魔王は薄く笑った。
「今度はその魔族が人間の立場に収まるだけだ。そして新たに、その人間になった魔族たちに対する“魔王”が現れる。そして同じように異世界のものを読んだりして戦い続けるわけだ。そしてすでにそういった事は何回も、起こっているようだ」
「どうして分かる」
正人が聞くと魔王は、
「魔王として幾つかの知識が流れ込んでくる。だが同時に、俺にはその勇者としての記憶もコピーが一部なされている。だから事情もこうやって今、話しているというわけだ」
どうやら魔王についての事情用を話してくれているのは勇者としての“良心”かららしい。
そう思っているとそこでその魔王が俺を見た。
「お前の能力は何だ? 次のの魔王であるコピー元」
「お、俺は魔道具を作るチートなのでそんなに強くないです」
つい正直に答えた俺だが、それに目の前の魔王は嘆息した。
「魔道具か」
「は、はい」
「それでは魔族の魔法ではなく魔力さえあれば、攻撃用の魔道具を大量に量産して、魔法の扱いが上手くない者でも使えるな」
「……」
「かつてないほどの、危機的な状況に“次”はなるわけか」
嘆息するように呟いたその言葉に、俺は、俺がニャコ達にあげたような武器を魔族側が大量に量産して人間に牙をむき未来が頭の中に描かれた。
恐ろしい未来絵図、そう思っていると魔王が立ち上がり、そして、
「それでは、今回の勇者は、人類の未来のためにも……確実に息の根を止めて、俺が強い事を示さなければならないようだ」
そう、目の前の魔王が言い切ったのだった。
評価、ブックマークありがとうございます。評価、ブックマークは作者のやる気につながっております。気に入りましたら、よろしくお願いいたします。