おまけ3
「「咲良」さん、お加減は如何ですか」
スーツをきちりと着こなした白髪の男性が、縁側で自分の隣に腰かける「咲良」に問いかける。「咲良」は先ほど外回りの仕事から帰ってきたばかりで、まだ真紅の着物を身にまとっていた。
「心配なさらずとも、至って元気そのものですよ」
「咲良」は、にっこり笑って隣の男性をみやる。「咲良」はその右目を眼帯で覆い隠してはいたが、それ以外は誰が見ても、ハキハキとしてとても元気な女性だった。だが男性は訝しむ態度を変えない。
「そんなこと言って。今日も外回りのお仕事だったんでしょう?お疲れのはずですよ」
「まぁ歳ですから、多少の疲れはありますけれど」
もう60を超えていますし当然の疲れですよ、と「咲良」は肩を竦めて見せた。それでも男性は一向にひかない。
「「咲良」さん、僕の言っていることはそういう事ではないとわかっているでしょう。「咲良」さんはそんなに僕のデスクワークと交替したいんですか?僕は全く構いませんけれど」
脅し紛いの台詞に「咲良」の笑顔が凍りつく。
「あ、えと、はい、きっと疲れてます…その、凄く疲れてます、ごめんなさい清高さん…」
つい先刻まで屈強な男どもを泣かせてきたとは思えない位素直な返答に、その男性、清高は満足そうにうなずいた。
歳を重ねるごとに、立場が逆転していると感じて止まない「咲良」だった。