魔法の特別授業
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翌日の放課後にセシルと私は教職員棟に向かった。
「オッドアイが不吉だというのは迷信じゃ」
薄暗い部屋の中で大きな魔法石が部屋の四隅で輝いてる。そんな中をノワール先生が人差し指を振りながら歩く。
「いにしえよりオッドアイなど人と異なる色を持つ人間は稀有な力を持つことがあるからのう」
ヴェルデ先生はチョークで板書しながら説明してくれた。この世界にも黒板ってあるんだ。先生が言うには私達渡り人の力の証もその「色」なんだって。私の場合は目の色の変化で桃佳の場合は金色の髪色。この世界にも金髪の人達はいるんだけど、桃佳みたいな輝きの金髪の人はいないらしい。
「そうそう。それで忌避されることがあったのじゃ」
アスール先生は何かの木でできた杖を振りながらうんうんと頷いてる。
「クロックフォード君の場合は魔力量が多いんじゃな。それが瞳に現れておる」
グラウ先生はセシルの瞳を熱心に覗きこんでる。セシルはちょっと嫌そうに唇を引き結んでる。
「それで?クロックフォード君の望みもリサ嬢の望みも魔力のコントロールでいいのか?」
ロッソ先生は魔法の戦いの猛者だったらしく、セシルに魔力や魔法を使った戦い方を教えてくれるそうだ。私は魔法石を使った魔法をノワール先生に教えてもらうことになった。
「はい。先生方、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
セシルと私は先生方にお願いしてから顔を見合わせて頷き合った。早速セシルは部屋の真ん中で、私は円卓を部屋の隅へ寄せて魔法の特別授業が始まった。
「ではちょっとやってみせておくれ」
先生達に頼まれて白い魔法石のペンダントをまたバットの形に変えてみせた。
「ほうほう。これは見事な金彩、銀彩じゃ」
私の瞳を覗き込んでノワール先生は嬉しそうに笑った。
「聖なる力に破邪の力。二つが混在しておる」
「時の魔女の魔法石は破邪の力と相性が良いようじゃの」
アスール先生とヴェルデ先生も興味深そうに私のバットを手に取って調べてた。ちなみにグラウ先生はロッソ先生とセシルの訓練を見て魔力の流し方を指導するんだって。
「でしょう?私の見立ては凄いのよ?それ、とっても貴重なんだから大切にしてよね」
突然、ここにいるはずのない人の声がした。
「は?え?アビー?!どうやってここへ入ったの?!学園は今、魔法での警備も防御も強化されてるのに」
「あら、あの程度じゃ私には効果はないわよ。それに私には悪意や害意はないもの。防御魔法は必要無いわ」
「なんと!『時の魔女』か!」
ノワール先生達は驚いて飛びのいた。
「…………」
アスール先生とヴェルデ先生はすでに遠くへ避難してた。早っ!二人して部屋の角の魔法石の裏からこちらを窺ってるんだけど、そんなに魔女が怖いの?
「何用か?時の魔女よ」
厳格そうな顔のノワール先生が一番肝が据わっているのかもしれない。
「特に用はないわ。ただリサの様子を見に来たの」
「ちょとアビー、邪魔しないでよね。私今忙しいの!」
「忙しいって、放課後まで授業を受けてるなんてリサの方がよっぽど暇人に見えるけど……?」
「う、言われてみれば確かにそうかも……じゃなくて!私は魔法のコントロールの仕方を教わってるの!死活問題なんだから、とにかくおとなしくしてて!」
「わ、わかったわよ。せっかく来てあげたのに。あとでお茶くらい付き合ってもらうんだから……」
アビーはブツブツ言いながらもおとなしく私の魔法の練習を見ていた。
「では始めようかのう」
ノワール先生は私にバットを返してそのままバット上に手を置いた。しばらくするとなんだかバットから冷たさが伝わって来た。
「わかるかな?リサ嬢」
「あ、はい!これって?」
「これはわしの魔力じゃ。これを自分の魔力で押し返してごらん」
「押し返す?でもどうすればいいのか……」
私はここへそのやり方を教わりに来たのに。
「魔法石の変化の時と同じよ。イメージするの。自分の中の温かいものが体を巡って、そう、魔法石を通して先生の方へ!」
「うおうっ!」
いつの間にか目を閉じていて、アビーの言う通りに想像していたらノワール先生の悲鳴が聞こえてきた。目を開けると、ノワール先生が床に尻もちをついていた。
「先生っ!大丈夫ですか?!」
ノワール先生はすぐに立ち上がれたから良かった。
「リサ嬢の魔力も凄まじいのぅ。どれ、今ので大体感覚がつかめたじゃろう?」
ペンダントの形に戻った魔法石が宙に浮かんでる。
「まだリサ嬢の魔力が残っておるのじゃ。何か命じてごらん」
「命令ですか……?」
えっと、どうしよう……そうだ。
「戻っておいで」
私が手を差し出すとペンダントはふよふよと飛んできて私の手の中に納まった。
「上出来じゃ。後はこれを繰り返し練習していけばよい。己の内なる魔力に方向を与える訓練じゃよ」
「はい!ありがとうごさいます!アビーもありがとね」
「どういたしまして」
私は何度も魔法石に魔力を巡らせる練習をした。夕方になる頃には魔法石を思い通りの形に変化させることができるようになっていた。もちろんかっこいい剣の形にもできた!やったー!
「リサ嬢もクロックフォード君も飲み込みが良いな」
ロッソ先生に教わって、セシルは剣を使って魔法を発動させる訓練をしていた。魔力を巡らせた剣をゆっくりと振り続けて魔力の流れを滑らかにするんだって。剣を体の一部にして動かすんだね。セシルは汗だくだったけど、かなり手ごたえがあったみたいで満足そうに剣を見てた。
「ロッソ先生!お久しぶりですわ!」
今日の授業はお開きにしようかって時に再び誰かが部屋へ入ってきた。え?誰?翡翠色の長い髪の美しい女の人だった。たぶん私達よりも少し年上くらいかな。
「グロリアか……。久しいな。何故ここへ?」
「王家の招請を受けましたの。陽光の魔女様と一緒に王国を守って欲しいって。今日は先生方にご挨拶を」
ロッソ先生の教え子かな?王家の招請を受けたってことはこの人も魔女?
「緑の魔女……」
アビーの呟きが耳に入った。やっぱり!確か陽光の魔女と緑の魔女は善い魔女なんだよね。
「あれは一体誰なんだ……」
まだ剣を振り続けていたセシルが私の隣へやって来た。
「アビーがあの人のこと緑の魔女って言ってたよ」
「また魔女か……」
セシルがうんざりしたように呟いた。
「さっさと帰ろう。これ以上魔女に関わりたくない」
「あら、失礼ね」
「どうしてお前がここにいる?ロッソ先生が心配ないというから、先生の顔を立てて今日は放置したが、これ以上リサに近づくのは許さない」
「あらぁ、威勢だけはいいのねぇ。どう許さないのか教えてもらいましょうか。お坊ちゃん」
セシルとアビーが睨み合って火花が散ってる。
「待って待って!仲良くは無理でも喧嘩はダメだよ!」
セシルはずっと辛い思いをしてた。それにアビーも心の自由を奪われてた。私から見たら二人とも被害者だから、そんな二人がこれ以上いがみ合うのは悲しかった。
「リサ……」
「……わかったわ。今日はもう帰るわ」
「あらまあ!貴女方も魔女ですの?初めまして!わたくしグロリア・グリーソンと申します。『緑の魔女』なんて呼ばれてますわ。よろしくお願いいたしますわね」
ロッソ先生達への挨拶が済んだらしいグロリアさんがこちらへやって来てアビーに手を差し出したけど、アビーは私に向かって「またね」って笑った後で姿を消してしまった。アビーは人見知りなのかな?グロリアさんちょっと困ってるみたい。挨拶くらいしてあげればいいのに。
「…………グリーソン?」
セシルが何かを思いついたように呟いた。グロリアさんのこと知ってるのかな?その声が聞こえたのかグロリアさんはセシルを見てハッとした。あ、なんか嫌な予感……。
「まあ!まあ!まあ!なんて美しいオッドアイなの?!美しいお方!そしてその秘められた魔力、素晴らしいですわ!」
グロリアさんはセシルの頬を白魚のような両手で包んで上向けた。ちょっと、この人いきなり何する気なの?!
「わたくしのものになりませんこと?」
とんでもないことを言いやがりましたよ、この人。殴ってもいいかな?
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