お茶会の後
来ていただいてありがとうございます!
「顔色が悪い。そろそろ帰ろう」
ぼんやりとあの白いツインテ―ルの女の子が消えた辺りを眺めていたら、心配そうな顔をしたセシル君に腕を引かれた。
「え?そう?どこも何ともないよ?」
「いいから」
肩を抱かれて一緒に歩く。え?そんなに顔、酷いかな?あれ?ちょっと違和感??セシル君は前を行く王子様に声をかけて、帰る旨を伝えた。意外にも特に引き留められることもなく私達は帰途につくことができた。
学園の敷地を抜け城の中を歩きながら私はさっきの違和感について考えてセシル君を見た。あ!セシル君の瞳の位置がちょっと、ほんの少しだけ前より上になってるような気がする。
「セシル様……背が伸びましたか?」
近くに王子様がいるから丁寧語で話しかけた。
「へえ!そうなの?セシル。全然気が付かなかったな」
王子様も驚いてる。あれ?あれ?確か舞踏会の時は同じくらいの背の高さだったよね?顔の位置がちょっと高くなってる。何で私ってば今頃気が付いた……!
「ああ、呪いが解けたから、かな」
セシル君は少し自信なさげに応えた。
「呪い?呪いが解けると背が伸びるのですか?」
「時の魔女は最初に遭遇した頃の姿が好みだったんだろう。呪いを受けてからはあまり背が伸びなかったから」
「あ、もしかしてセシル様の成長を止めてたのですか?」
セシル君は年齢の割に幼い感じがしてたから少し不思議だったんだよね。
「さすがにそれは無理だ。だが成長を遅らせることはできたんだろう……たぶん」
「へえ、さすがは『時の魔女』だなぁ」
王子様、そこ感心するところと違う。
じゃあセシル君は今、急激に成長し始めてるんだ……。『時の魔女』その名の通りに時間に関する魔法が得意なんだ。他にどんな魔法が使えるんだろう。お城の人達を打ち倒したくらいだから攻撃魔法はデフォで使えるよね。おっかないな。私は少し気を引き締めなおして、何故かまだ私の肩を抱いてるセシル君を見た。…………そういえばうちの弟も中学に入ってから劇的に背が伸び始めたっけ。あっという間に私の身長を越されて驚いたなぁ。
「では戻りましょう、セシル様、リサ様。馬車の準備は出来ております。本日はもう遅いのでクロックフォードの本邸に向かいます」
「ああ、そうしてくれチェンバーズ」
お城に戻るとチェンバーズさんが馬車の準備をして待っていてくれた。
夕闇の街を馬車に揺られてると、窓の外、行き交うたくさんの人達の中に小さな女の子を連れたお母さんらしき女の人が歩いているのが目に入った。あ、あの子うちの妹に似てる。……みんな元気かな。突然帰ってこなくなった私のことを心配してるだろうな。なるべく考えないようにしてきた元の世界のことを思い出してしまう。今日は王子様に色々聞かれたから思い出すことも多くてちょっとだけ気が滅入った。結局、お茶会の美味しそうなお菓子もほとんど食べられなかったし……。それにそうだよ!今日は対策会議のはずだったよね?その話、全然出なかったよね?
「ああ、殿下はそういう所があるんだ。最初はそのつもりがあったとは思うけど……」
セシル君が言うにはハーヴェイ殿下はよく興味があっちこっちに逸れるらしい。
クロックフォードのお屋敷での和やかな夕食の後、セシル君と私とチェンバーズさんは小さな居間に場所を移してお茶をいただいていた。何故かセシル君のお母様のクロックフォード侯爵夫人が「後は若い二人で、ね」ってにこやかに私達を案内してくれた。夕食を食べた後なのにテーブルの上には美味しそうなお菓子がたくさん。
「庭園であまり食べてなかったから」
ってセシル君が用意させてくれたんだって。
「セシル君、ありがとう。セシル君は優しいね」
お腹はいっぱいだったけど、セシル君の気遣いが嬉しくて夜なのにお菓子をいくつか食べちゃった。今日はなんだか気疲れしちゃったし一日くらいいいよね?
「建前ではございませんか?」
チェンバーズさんが少し言いづらそうに口を挟んだ。
「恐らく最初からリサ様がお目当てだったかと思われます」
「…………ああ、そうかもしれないな」
「え、私?」
チェンバーズさんによると正確には「私」」じゃなくて「渡り人」が目当てなんだって。異世界からやって来た人には特殊な能力があることが多くて、それを欲しがる人は大勢いるそうなんだ。王子様は王太子になるためにそれを利用したいんじゃないかってことらしい。実際桃佳を見つけた第三王子のルーク様は王太子候補にっていう声が多く上がり始めてるそう。なるほどね。権力争いの為なんだ。私は小さくため息をついた。桃佳はそんなのに巻き込まれて大丈夫なのかな。
「それでは私はこれで失礼いたします。また明朝お迎えにあがります」
「え?チェンバーズさん、帰っちゃうんですか?」
「ええ、森の屋敷の仕事も残っておりますので」
「でも今から帰ったら大変なんじゃ……」
「大丈夫ですよ、リサ様。お気遣いありがとうございます」
チェンバーズさんはそう言って森のお屋敷へ帰って行った。
「執事さんって大変なんだね……」
「森の屋敷は僕のせいで使用人が少ないから……」
「あ……」
呪いの被害を最小限にとどめるために、関わる人も最小限にしてたんだよね。
「それはセシル君のせいじゃなくない?全部魔女のせいだよ!」
「…………そうだな。ありがとう」
心地いい沈黙の時間がしばらくの間続いて、やがてセシル君が静かに切り出した。
「大丈夫か?」
「え?」
「今日はいつもの元気がないみたいだ」
「あ、うん。ちょっと王子様とのお茶会で緊張しちゃったかなー」
そういえば学園でも顔色が悪いって言われたっけ。そんなに疲れてそうかな?
「ごめん」
「え?なんでセシル君が謝るの?っていうか謝る必要なくない?」
「殿下は悪い人間じゃないけど、良くも悪くも王族だから今日はリサを見定めて上手くいけば自分の元に引き入れようとしていたんだと思う。お茶会を断れなくて、守れなくてごめん」
「セシル君……」
やっぱりセシル君は優しいなぁ。
「ううん。王族の招待なんて断れないでしょう?私は大丈夫だよ。それより学園に行くの楽しみだね。これからは色んな人と友達になって仲良くなれるように、私もボディーガード頑張るからね!」
イベントの数にはちょっとうんざりだけど、セシル君の交友関係を広げるのにはいいのかもしれない。今までは魔女に邪魔されて友達とも自由に遊べなかっただろうし。
「……ボディーガードか」
「まあ、私だけじゃ頼りないだろうけど、チェンバーズさんもセシル君のお父様もお兄様もお母様も対策を講じるってことだし、きっと大丈夫だよ!」
それによく考えてみれば、さすがに王族が通う学園に何の防御策もないなんてことは無いだろうし。
「仲良く……か」
そう言ってセシル君はじっと私を見つめてきた。そして手を伸ばして私の手をそっと握った。あれ?なんだかちょっと胸がドキドキする。セシル君は男の子なのに綺麗すぎるんだよね。ツヤツヤな黒髪も不思議綺麗なオッドアイも。……王子様の時のように手をほどけない。どうしてだろう?
「そうだな。もっともっと仲良くなれるように頑張らないと」
セシル君はそう言って私の指先にそっと口付けた。
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