豚顔化ウイルスで日本人みんな幸せに
【豚顔化ウイルスでニホン共和国みんな幸せに】
ニホン共和国の春は、いつもより少し騒がしかった。
原因は、ニュース番組が連日トップで報じる奇妙な出来事――
「豚顔化ウイルス」の流行である。
「感染しても健康被害は一切ありません。
ただし、目が細くなり、鼻が丸く上向きになります」
白衣の専門家が真顔で説明するたび、視聴者は笑うしかなかった。
最初に感染が確認されたのは、地方都市の小さな学校だった。
生徒たちが次々と「豚のような顔」になり、
しかし誰一人として体調を崩さず、むしろ妙に明るくなっていた。
「なんか、最近すっごく楽しいんだよね」
「テストの点数悪くても、まあいっかって思えるし」
「ケンカしてた友達とも仲直りしちゃった」
そんな声がSNSに溢れ、
いつしか人々はこの奇妙なウイルスを「幸福ウイルス」と呼び始めた。
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■ 第一章 美の価値観が揺らぐ
首都ニホンシティに住む美人アナウンサー・水城あかりは、
このニュースを読むたびに複雑な気持ちになっていた。
「豚顔化ウイルスの感染者が全国で一万人を突破しました」
原稿を読みながら、彼女は心の中でため息をつく。
(どうしてみんな、あんな顔になって平気なの……?)
あかりは幼い頃から「美人」と言われ続け、
その美貌を武器にアナウンサーになった。
美しさこそが自分の価値だと信じて疑わなかった。
だからこそ、
「豚顔になっても幸せ」
という感染者たちの言葉が理解できなかった。
ある日、街で偶然感染者の親子を見かけた。
二人とも目が細く、鼻が丸く、まるで兄弟のようにそっくりだ。
「ママ、アイス食べたい!」
「いいよ、今日は特別ね」
二人は笑いながら手をつないで歩いていく。
その姿は、驚くほど幸せそうだった。
(……なんで?)
胸の奥がざわついた。
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■ 第二章 感染
そんなある日、あかりは突然の発熱に襲われた。
病院で検査を受けると、医師は穏やかに告げた。
「水城さん、豚顔化ウイルスに感染していますね」
「えっ……!」
鏡を見ると、すでに目が少し細くなっている。
鼻も丸みを帯びていた。
「いや……いやです……!」
あかりは震えた。
自分の価値が崩れていくような恐怖。
アナウンサーとしての未来が消えていく不安。
しかし、医師は微笑んだ。
「大丈夫ですよ。
このウイルスは、外見が変わるだけで健康には問題ありません。
むしろ、幸福度が上がるという研究結果もあります」
「そんな……!」
あかりは泣きながら帰宅した。
鏡を見るたびに変化が進んでいく。
美しい顔が、少しずつ“普通の顔”になっていく。
(どうして私が……)
しかし、変化が進むにつれ、
あかりの心にも奇妙な変化が起き始めた。
仕事のプレッシャーが薄れ、
SNSの批判も気にならなくなり、
鏡を見るたびに「まあ、これも悪くないか」と思えてくる。
(……なんで?)
自分でも理由がわからなかった。
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■ 第三章 社会の変化
感染者が増えるにつれ、
ニホン共和国の街は少しずつ変わっていった。
モデル事務所は「豚顔モデル部門」を新設し、
企業は「親しみやすい豚顔社員」を広告に起用し始めた。
「豚顔のほうが安心感がある」
「なんか、見てるとほっとする」
「この顔の人と話すと落ち着く」
そんな声が増え、
いつしか“豚顔”は新しい美の象徴になっていった。
あかりの職場でも変化が起きた。
「水城さん、最近すごく柔らかい雰囲気になりましたね」
「視聴者からの好感度、上がってますよ」
驚いた。
美貌を失ったのに、評価が上がっている。
(どうして……?)
しかし、視聴者の声を聞いて納得した。
「水城さん、前より親しみやすくなった」
「話がすっと入ってくる」
「なんか、癒やされる」
あかりは初めて知った。
美しさだけが価値ではないことを。
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■ 第四章 幸福の正体
ある日、政府は公式に発表した。
「豚顔化ウイルスは、脳内のストレス物質を減らし、
幸福ホルモンを増やす効果があると判明しました」
国民の大半が感染し、
ニホン共和国の幸福度は世界一になった。
犯罪率は激減し、
離婚率も下がり、
街には笑顔が溢れた。
あかりも例外ではなかった。
「……私、今すごく幸せかもしれない」
鏡に映る自分は、もう完全に“豚顔”だった。
でも、その顔を見ても嫌悪は湧かない。
むしろ、どこか愛おしい。
(これが……私なんだ)
美しさに縛られていた頃より、
今のほうがずっと自由で、ずっと楽だ。
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■ 第五章 新しい世界
一年後。
ニホン共和国は世界から「最も幸福な国」と呼ばれるようになった。
観光客は「豚顔になりたい」と訪れ、
ウイルスはワクチンのように希望者に投与されるようになった。
あかりは国民的アナウンサーとして人気を博し、
その柔らかな笑顔は多くの人を癒やした。
「美しさって、なんだろうね」
番組の特集で、あかりは穏やかに語った。
「昔の私は、美しくなければ価値がないと思っていました。
でも今は違います。
誰かを安心させたり、笑顔にしたりできることこそ、
本当の美しさなんだと思います」
スタジオは静まり返り、
やがて大きな拍手が起きた。
あかりは微笑む。
細い目がさらに細くなり、
丸い鼻がほんのり赤くなる。
(この顔でよかった)
心からそう思えた。
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■ エピローグ
ニホン共和国は今日も平和だ。
街には豚顔の人々が笑い合い、
子どもたちは丸い鼻を揺らしながら走り回る。
誰もが自分の顔を誇りに思い、
誰もが自分の人生を楽しんでいる。
豚顔化ウイルスは、
人々の外見を変えただけではなかった。
価値観を変え、
社会を変え、
そして――
人々を幸せにした。
あかりは今日もニュースを読む。
「本日も、ニホン共和国はとても平和です」
その声は、
かつてよりもずっと優しく、
ずっと温かかった。
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【豚化萌えの、あとがき】
>>>>
観光客は「豚顔になりたい」と訪れ、
ウイルスはワクチンのように希望者に投与されるようになった。
↑
これ、理想です。
希望する人に対して、豚顔化ウイルスを投与する。そして豚顔になる。
ホント、理想の世界ですね。




