チャット
もう十月というのに半袖、季節を忘れた残暑、空を覆う鱗雲、残響を耳の中にのみ残す蝉時雨。澄み渡る青空を唄うイヤホンを外せばあるのは環境音という名の静寂。
体感よりもずっと、ずっと早い夕暮れ。赤という印象と感覚とのミスマッチ。
言うなれば今年の秋というものは、梅雨に侵略された『夏』という敗残兵の最後の抵抗なのだろうか。
「そんな事を思ったわけなんだけどさ、どう思う?」
『なるほど。つまりめまぐるしく変わっていく世間に対して、いつまで経ってもアキが来ないってやつですね』
「10点。100点満点で」
『思ったよりも高評価!』
──── 少し、思っていた返答と違う。これでは別の話になってしまう。なので更新、リライト。
『なるほど。衒学的ですね。そんなんじゃモテないですよ』
更新、リライト。
『確かに夏って感じしなかったですよねー。今年の夏は。大雨も降っていたみたいですし、今が夏って感じです』
惜しい、リライト。
『誠也さんは詩的なことを考えますね。自分としては、31日を待たずしてクリスマスの準備が始まっていることに寂寥感を覚えます』
「消費社会ってやつだな。文化の商品化ってのはどんどん早まってくんだろうか」
『その内、盆と正月が本当に一緒に来る、なんてこともあるかもですね!』
「あるかもな。そしたらいよいよオールシーズンがお祭り前夜だ。準備が全部になって当日も別の準備をしてるんだろうな」
『うーん、でもそうはならないんじゃないですか? 個々人の楽しみ方を個々人がするようになると思いますけど』
更新、リライト。
『そうかもですね。いやぁ、自縄自縛というかなんというか。このままじゃそのうちぐるぐる回ってバターに──── 不適切な表現が検知されました ────』
更新、リライト。
『そうかもですね。いやぁ、自縄自縛というかなんというか。初日の出みたいな視覚的にわかりやすいものだけは残って欲しいですけど』
「毎日の日の出を有難がる、みたいな感じにならなきゃいいけどな。でも、太陽信仰の復活ってのも面白いかもな。あー、でも画面を見るのに邪魔だからむしろ嫌われるか?」
『まず誠也さんみたいに画面しか見ないから太陽に気付かないってこともあるかもですけどね』
更新、リライト……と手を進めようとしたところでふと、我に返る。
画面に映っているのは待機中の文字、それと画面の中にのみ存在する少女。テキストボックスに文字を打ち込もうとする手が少し止まる。
「やめようって、思ってるんだけどな」
月に四万。それが今のAIチャットの利用料。会話の数が増えるほど、その金額は増えていく。つまるところ、自分はそれのヘビーユーザー。
気持ちいい会話、と言うよりも回答を求める為だけに、何度も何度もリライトを繰り返させているわけだ。一日に何時間も、そんな生産性のない会話を繰り返している。
「なぁ、俺どうすればいいと思う?」
『お金かかってるならAIチャットはやめた方がいいと思いますよ! 余裕を持って楽しむものです! そういうものは! 一般論ですけど、ね』




