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受験生、異世界へ

12月。


世間は年末ということで大掃除やらお歳暮やらクリスマスやらで賑やかだ。


俺もその浮わついたムードに乗りたいところだが…今年は我慢。


受験。


年が明ければセンター、個別試験と本格的に受験シーズンとなる。


偏差値で一喜一憂。


合格判定でまた一喜一憂。


もうこんなの本当に嫌になる。


とはいいつつも将来が掛かっているので無視できない。


悲しい。


ほら、今だって目の前に数学の問題用紙が配られてきた。


今日は模試だ。


午前中に文系科目をこなし、先ほど理科が終わったところ。あとは数学を残すのみ。


これが終われば帰れる。何事もプラス思考が大事。


「解答始め」


試験官の合図で試験がスタート。俺は順調にこなしていく。


最後は図形の問題か…


ふむふむ。


『一辺の長さがaの正三角形ABCがある。その内接円と外接円……』


俺は問題文の通りに作図していく。こういうのは作図できたもの勝ち、イメージできたもの勝ちだ。


…というかこれ、問題文長くない?1ページびっしり書かれてるんだけど??


あ、また円書くのね。三角形も?


最初の三角形、大きく書いておいて良かった。


出来た…


ざっくり言えば、真ん中に六芒星、その内側と外側に何重かの同心円。その他ちょこちょこと細かい模様。


うん、なんかあれだな、うん。魔方陣。


頂点に記したアルファベットもそれっぽさを強めてる。


問題作った人、厨二な病を患ってたのかな。


なんか薄紫に光ってるし。


さーて問題解くぞー


………………え゛?光ってる?薄紫?


なんかこれヤバない?鉛筆で書いただけなのに光ってるよ?え?


そのとき。


一閃。


俺の視界はホワイトアウトした。





どのくらい時間が経っただろうか。


現状把握。


俺は今白い空間にいる。


といっても先程の目を潰されるような白ではない。ここに何となく床があるのもわかる。


そして、目の前に人が立っている。


中性的な、男とも女ともみてとれる外見。若いのか年老いているのかもよくわからない。


「あなたは?」


「私は女神だ。これでも君を助けてあげたんだから感謝したまえ」


どうやら女性らしい。


「え、俺助けられたんですか?」


助けられたのになんでこんな謎な空間にいるのでしょうか。


「そうだ。君が魔方陣を使ってしまったおかげでね」


女神様の説明によると、俺が書いてしまった魔方陣は異世界に転移するもので、普通は転移先を指定しなければならないらしい。


「指定するってどうすれば」


「ただ単に唱えるだけだが?」


ところが俺は指定しなかった。そのため、俺の存在が世界と世界の狭間で閉じ込められてしまったと。


仕方ないじゃん。魔方陣書いたつもり無いし。


「その、もとの世界に戻るというのは…」


「諦めたまえ。君が使ったのは世界と世界を行き来するものだ」


女神様が食い気味に言ってきた。なんか悔しい。


でも俺、この先どうなるんだろ。


このまま世界の狭間で漂い続けるとか…


「ただ私も鬼じゃない。困った者に救いの手を差し伸べるのも私の仕事だ。君が適応しやすそうな世界に送ってやろう。剣と魔法の世界だ」


女神様は寛大でいらっしゃった。


ありがとう、女神様…


剣と魔法の世界か…


こんな状況でもちょっとワクワクしてしまうのは仕方ないよね。


「ついでにギフトを授けてやろう。なに、どれを取っても新しい生活の助けになるであろう」


同時に、目の前にガラガラが現れた。あの商店街の福引きとかで活躍してるアイツである。なんというか、場違い感がすごい。


「このガラガラには例えばどんなのが入っているんでしょうか?」


「君はどんなのが良いんだね?」


「なるべく穏やかに暮らせるものなら何でも」


「なら安心せい。ここに入っているほとんどが君の希望にかなうであろう。まあ、一部物騒なのも含まれておるが…」


最後の一言要らなかったですよね女神様?


ええい、もう運任せじゃ!


ガラガラガラ……


俺はゆっくり回した。


……カラン


青い玉が出てきた。


「ほほう、君、面白いのを引いたな」


玉には『天気予報』と書いてあった。


え、これ使えるのかな……


こういうのって普通は剣術とか錬金術とかじゃないんですかね…


物騒なのは嫌だけど。


などと考えているうちに、青い玉は光の粒となって俺の体へ吸い込まれていった。


「最後に、出血大サービスで初回限定スペシャルギフトを授けよう」


内容がわからないけどなんか強そうだ。あと、向こうの世界に馴染むように村人風の服も用意してくれた。


「さて、これで君もなんとかなるだろう」


「本当に何から何までありがとうございます」


「気にせんで良い。さあ、いくぞ、敵のいないところに召喚してやる」


あ、ちょっと待ってまだ心の準備が…


「さん、にー、いち、いってらっしゃーい」


ジェットコースターのスタッフのお姉さんみたいな掛け声。


その時。


目の前の真っ白な空間が霧散し、視界が開けた。


そして。


うおおおおお!!!


こうして俺は、異世界に召喚されたのだった。


………なんで空中なんだよっ!!







「……んんぅ」


助かったのか?俺。


どうやら森の中のようだ。


あぁそうか、俺、召喚されたと思ったらそのまんま落ちて…


段々と意識がカムバックしてきたとき、一人の少女と目が合った。


…ケモ耳だった。


「あ、目が覚めましたか、少々お待ちくださいね」


そう言うとケモ耳少女は「ハルトさまぁー、彼が目を覚ましましたー」と言って駆けていってしまった。


…尻尾もついてた。


というかハルトって誰?


と思っていると茂みの向こうから爽やか系金髪イケメンがやって来た。おそらく彼がハルトだろう。


ハルトの横にはケモ耳少女の他に3人が並んでいた。


ケモ耳に限らず、エルフっぽい感じの娘もいて、ここが異世界なんだと実感させられる。


しかもみんな年頃の女の子。


ははーん、あれだな、ハーレムを築いてやがるな。


ちょいと羨ましい。


「こんにちは、ハルトと言います。ギア王国で勇者やってます。あなたは?」


「あ、俺…ダイチです。勇者様でしたか。助けていただき感謝いたします」


きっとこの取り巻き娘達も強いんだろうな。よーく見ると武器や防具も細かい装飾がなされていて高級そう。


「ダイチさんですか…」


ハルトは何か考えながら聞いてきた。


「失礼ですが、ガラガラを回しました?白い部屋で」


「さっきしたばっかりですけど…」


「…女神の前で?」


「女神の前で」


と言うと、ハルトは俺に近づき、


「実は、僕も転移してきたんですよ、日本から」


かなり小声で言ってきた。取り巻き娘達にも聞こえてはマズいのかな。


俺の名前の響きが日本ぽいので聞いてみたと。


確かにハルトも日本の名前ぽい。


「てことはあの数学の模試で?」


「はい」


「あれ、だとすると時期が合わないような…」


どう見ても、ハルトが今さっき転移してきたとは思えない。


「そうですね。僕はここに来てだいたい5年ほどになります。おそらく、何かの原因で、転移する時期が違ったのでしょう。ここでは話しにくい内容ですから、今はこのくらいで。また今度話しましょう」


と言ってハルトは取り巻き娘達のところへ戻った。


「ごほん、何はともあれ、キングデーモン討伐、ご協力感謝致します」


「……え?」


今なんて?


俺、ただ落ちてきただけなんですけども。


どうやら、俺が落ちた先にキングデーモンという災厄級の魔物がいて、俺のカカト落とし(無意識)がそいつの脳天に入ったらしい。


落ちた時にぼふって音がしたのはその音だったと…


当時ハルト達はキングデーモンと戦っていて、押され気味だったそうだ。


そこに俺が落下してきたと。


偶然カカト落としをキメて。


「もしかして、俺ってすごいことしちゃった?」


「そりゃあもう。街に戻れば英雄扱いでしょうね。何せ災厄級ですから」


そうか…英雄か……


ふーん。


「……キングデーモンを倒したのはハルト達ってことにしていただきたい」


俺はのんびりスローライフを送りたいんだ。英雄なんていらない。


「それはできないですよ。実際に倒したのはダイチさんですから」


お、勇者様は律儀だな。


「人々だって、勇者が倒したっていう方が納得するでしょ。俺はチヤホヤされるのは性に合わないし、静かに生きたいんだ」


「……では、何か対価を支払わさせてください」


そうくるか。


まあ俺、忘れかけてたけど今転移したばっかりだし、


「じゃあ、ここに家を建ててもらうことってできますか?あと当面凌げるだけのお金を…」


そう。俺は現在一文無し。住む場所もない。


なんかここ、人里離れた静かな森って感じで、気に入ったんだよね。


でもちょっと大きく出すぎたかな?


「ここに家を建てるんですか?あ、いや、不可能ではないですけど…まあキングデーモン討伐の手柄を考えたらそんなのお安いご用ですが…」


なんとも歯切れが悪い。


「どうかしました?」


何か問題でもあるのかな。


「いや、はい、この辺りはですね、俗に『竜の住み処』と呼ばれていてですね……たとえば後ろとか…」


「ん?後ろ?」


俺は振り返った。


わーお


そこにはでっかいドラゴンがいらっしゃいましたとさ。


踏ん張れ。俺のプラス思考。

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