トリック解明
警察が到着できないまま、一日が過ぎた。昨夜は結局殺人事件のことを考えていて一睡もできず、木下の目にはクマができている。こんな時に寝ていられる多田野が羨ましかった。早速テレビ局のスタッフ達の部屋に行き、“次なる犠牲者“が出ていないか確認する。部屋に行くと全員返事をして、とりあえずは無事だった。昨日からなにも食べていなかったのでとりあえず従業員に訳を話し簡単な物を作ってもらうように頼んだ。
「それにしても、なんであんな物無くなるんだろうね」
部屋に戻ろうとすると、年配の中居の女性と、若い中居の女性二人の話し声が聞こえて来る。
「昨日氷を使う物なんてあったかしら?」
「いや、ないのよ。花板さんも不思議がってたわ。杉板焼きに使うスダチも一個無いんだって」
「それ、どういうことです?」
なんとなく事件に関係がありそうな気がして木下は二人の会話に入る。二人の話を聞くと、どうやら氷とスダチと小麦粉が昨日消えていたということだった。まさか、あの香酸柑橘系の香りはスダチだったのでは?
木下は昨夜現場で嗅いだ匂いを思い出す。
「そういうことってあるんですか?」
「いやぁ私ここにきて二十年くらいなんだけど、初めてなのよ。しかも殺人事件なんか起きちゃうでしょ? 旅館のイメージ最悪ですよ」
待てよ––––。
木下の脳に、雷光のようなものが走った。
シアン化化合物––––。スダチ––––。タコ糸––––。気体––––。紙コップ––––。
まさかっ!
ついに犯人が仕掛けたトリックが解けた気がした。本当だったかどうかネットで確認しようとするが、電波が一本しかなく接続が悪い。木下は舌打ちをしてスマートフォンをポケットに放り込んだ。
「すいません! ここにネット検索ができるパソコンありますか?」
「––––ふ、フロントに行けばネット環境くらいならありますが」
「頼みます。そのパソコン、使わせてくださいっ!」
木下は年配の中居の肩を握る。
「ですが、一般の方にフロントに入れるわけには––––」
「私は刑事です! 犯人が仕掛けた密室殺人のトリックが解けそうなんです! お願いします!」
木下の気力に押され、中居は小さく頷いた。フロントに案内してもらい、中居が事情を話し通してもらった。椅子に座りパソコンを立ち上げる。従業員用のIDとパスワードがかけられていて、コンシェルジュに解いてもらい、Googleを起動させ、キーワードを入力する。
シアン化ナトリウム、酸性と入れ、エンターを押した。ロードの線が木下の脳をイライラさせる。
––––早く! 早く!
木下は貧乏ゆすりをする。ようやく繋がり、上に出た記事をクリックする。『シアン化ナトリウム』と書かれたウィキペディアだった。一言一句逃さず文字を通す。
「見つけた! 犯人が仕掛けたトリックを!」
木下の推理が正しかったことがわかり、木下は両手を上げてバンザイする。密室殺人トリックが解けたのだった。




