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聖イリヤ未来総合学院物語  作者: 雪だるま


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西暦2300年――。


旧ミンスク超高層圏、第九商業ドーム。


かつて“国家”と呼ばれていたものは、とっくの昔に企業共同体へと変質していた。巨大企業群が都市ドームを所有し、人々は会社単位で生活し、空には広告用ホログラムが二十四時間浮かび続ける。


そんな時代。


ベラルーシ企業連合の中でも、ここ十年で最悪にして最速の成金として悪名を轟かせていた男がいた。


レイ・アルカージエヴィチ。


二十七歳。


身長193センチ。


異様に顔が良い。


異様に頭が悪い。


異様に金だけ持っている。


そして異様に調子に乗っていた。


「のだぁっ♡」


純金のソファに寝転がりながら、レイは鼻をほじっていた。


彼の私室はもはや“部屋”ではなかった。


人工滝。


反重力シャンデリア。


宇宙産天然ダイヤ。


木星圏から輸入した高級ワイン。


床は本物の白大理石。


壁では巨大ホログラムが延々とレイの顔を映している。


しかも本人の指示で。


『世界一偉い男、レイ社長♡』


『宇宙級成金♡』


『資本主義の奇跡♡』


などと表示されていた。


意味不明である。


そして、その部屋の中央で。


レイはわざわざ威厳を出すためだけに付け髭を装着していた。


だが、その髭は明らかに安物だった。


接着剤が甘いのか、ちょっと喋るたびに端がペラペラ浮いている。


「社長♡とってもお似合いですわ♡」


「知的で素敵ですぅ♡」


「やはり本物の成功者は違いますぅ♡」


周囲の愛人たちは即座に媚びた。


全員、美人。


全員、ブランド品まみれ。


全員、レイに金を出させる技術だけ異様に高い。


レイはニヤニヤしていた。


「うむっ♡当然なのだぁ♡吾輩は賢いのでなぁ♡」


まったく賢くない。


レイがここまで金持ちになった理由も、本人の実力ではなかった。


五年前。


レイはたまたま中古ジャンク市場で買った旧時代AIサーバーを、「なんか光っててカッコいいのだぁ♡」という理由だけで放置していた。


すると、そのAIが偶然にも量子金融市場の隙間を発見。


超高速投資で数千兆クレジットを稼ぎ始めたのである。


レイ本人はその仕組みを今でも理解していない。


「のだぁ?つまりお金が増えたのだぁ?」


くらいの認識である。


しかし結果として。


レイ・グループはわずか数年で旧国家級の経済圏を形成。


今や宇宙港、人工農場、軍事警備会社、医療企業、娯楽産業まで所有していた。


なお、社長本人は昼まで寝ている。


「社長ぁ♡新しい月面別荘の件ですがぁ♡」


「のだぁ?買うのだぁ♡」


「まだ物件情報見せてませんわ♡」


「全部買うのだぁ♡」


「きゃーっ♡」


愛人たちは拍手した。


ちょろかった。


とにかくちょろかった。


レイは「高級」という単語に異常に弱い。


「限定」


「特別」


「王族仕様」


「世界で一つ」


これを言われると、ほぼ反射で金を出す。


結果として。


レイの周囲には常に大量の営業マンと愛人が群がっていた。


「社長♡この超高級ナノ毛布、なんと三億クレジットですわ♡」


「安いのだぁ♡買うのだぁ♡」


「社長♡こちらの宇宙犬、希少種ですぅ♡」


「かわいいのだぁ♡買うのだぁ♡」


「社長♡この香水、付けるだけで知性が上がるそうですわ♡」


「のだぁっ!?!?いっぱい買うのだぁあああ!!」


秘書は頭を抱えていた。


「……社長、昨日も同じ香水を二百本買われました」


「うむ!なら四百本に増やすのだぁ♡」


「使い切れません」


「愛人どもぉ!飲めぇ!」


「香水は飲めませんわ♡」


「のだぁ?」


この男。


本当に宇宙経済圏トップ企業の社長なのか。


しかも困ったことに。


レイは顔が良すぎた。


異常に良すぎた。


付け髭でふざけていてもなお美形だった。


そのため、愛人たちは普通に甘やかした。


「社長ったら可愛い♡」


「今日もいっぱいお買い物しましょうねぇ♡」


「社長の浪費してる顔、大好きですぅ♡」


「のだっ♡えっへん!もっと褒めるが良いのだぁ♡」


レイは上機嫌で葉巻を吸おうとした。


だが火の付け方が分からない。


三十分格闘した。


最終的にレーザーライターを逆向きに使って自分の付け髭を燃やした。


「のだぁあああああああ!!!!!!熱いのだぁあああああ!!」


愛人たちは大爆笑である。


「社長ぉ♡」


「お馬鹿で可愛いですぅ♡」


「そこが好きぃ♡」


「うぇえええん!!馬鹿にされたのだぁああ!!」


泣きながらレイはクレジットカードを投げた。


ブラックカードである。


しかも上限無し。


愛人たちは即座に拾った。


「社長♡大好きですぅ♡」


「のだぁ♡」


単純である。


だが、周囲の企業幹部たちは笑えなかった。


なぜなら。


この馬鹿社長。


経営判断だけは何故か当たるのである。


本人は適当。


だが結果だけ見ると、異様に成功する。


「社長、火星圏輸送ルートへの投資ですが」


「んー?赤いから嫌なのだぁ♡却下なのだぁ♡」


半年後。


火星ルートは宇宙海賊被害で崩壊。


結果的に大損を回避。


「社長、木星コロニー債券を――」


「名前がダサいのだぁ♡嫌なのだぁ♡」


後日、木星経済暴落。


また回避。


幹部たちは真顔になっていた。


「……もしかして天才なのでは?」


「いや偶然だろ」


「でも怖い」


「怖い……」


一方その頃。


当のレイ本人は。


巨大プールで愛人たちに囲まれながら浮き輪で遊んでいた。


「のだぁ〜〜♡社長業疲れたのだぁ〜〜♡」


「今日お仕事してませんわ♡」


「うむっ♡偉い人は疲れるのだぁ♡」


「何もしてませんわ♡」


「のだぁ?」


夕焼け色の人工空の下。


超高層ドーム都市のネオンが輝く。


2300年のベラルーシ。


企業と金と欲望に塗れた未来都市で。


宇宙級の馬鹿成金レイは、今日も元気に浪費していた。


「のだぁっ♡次は宇宙船を金ピカに塗るのだぁ♡」


「もう百隻ありますわ♡」


「足りぬのだぁ♡」


「何に使うんですの♡」


「うむ!カッコいいのだぁ♡」


誰にも止められなかった。

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