妹求めて一人彷徨う
「それにしても、魔法が効かないんじゃなくて、属性を打ち消す、だったなんて……これはかなりの誤算だわ」
グラの話を聞いて、エーテルは急に頭を抱えだした。今まで想定していたのと、実際の魔神が大きく異なったため、かなり困惑している模様。
「何か問題でもあるのか?」
「だって、属性を消すなんて、どうやって対処すればいいのか分からないじゃない。ただ魔法が効かないだけって聞いてたから、出力か放出回路の改善で対応できると思ってたのに……」
「専門的なことはよく分からんが、そんな簡単に出来ることなら、とっくに何とかなってるんじゃないか?」
「だからこそよ。目標は高いほうがいいじゃない」
魔製機構開発当初から、誰もが使えるギアは何度も研究されていた。それが克服できなかったからこそ、魔神という概念が生まれ、グラもその区分に含まれているのだ。そんな、今は誰も挑戦しない課題に、エーテルは敢えて取り組んでいる。そこは、向上心が高いと感心するべきなのだろうか?
「そういえば……グラたんって、どうして王都に来たの?」
とりあえずそちらは後で考えることにしたのか、エーテルは別の話題を振ってきた。彼女が問いかけたのは、グラの目的だ。
「王都にっていうか、別に俺は明確な目的地があったわけじゃないんだがな」
「じゃあ、噂みたいに、悪者退治のため?」
グラの言葉に、エーテルはそんなことを口にした。……今、オガーニ国内では、ある噂が流れていた。曰く、魔神の男が、悪人たちを成敗しているとか。軍事都市バイオに出現した連続殺人犯を捕らえたとか、金融都市ミトコで汚職を働いた役人を摘発したとか、具体的な武勇伝も数多く語られている。それがグラのものだと考えたようだ。
「それはあくまでついでだ。旅の主目的じゃない」
「ついでで正義の味方するなんて、グラたんも変わってるのね」
「別に正義の味方を気取りたいわけじゃないんだがな。ただ、そのほうが目立つからだ」
「目立ってどうするのよ?」
「向こうに気づいてもらえるからな」
「?」
そこまで話したところで、グラはどうしたものかと思案する。……正義の味方気取りと思われたくなくてつい余計なことを言ってしまったが、ここは正直に話しておかないと、エーテルはしつこく食い下がってくるだろう。別に話して減るものではないし、寧ろ何か情報を得られるかもしれないからと、グラは彼女に話すことにした。
「俺は、生き別れた妹を探して旅をしているんだ」
「え? グラたん、妹いるの?」
「ああ。俺が魔神と分かる前までは一緒に暮らしていた」
この国で魔製機構が支給されるのは六歳になってからだ。基本的に、五歳までは誰もが魔法を使えない。これは魔神かどうかに関係しないため、魔神だと発覚するのはギアの支給後―――テストのために魔法を発動したときだ。ここで魔法が発動できない場合、検査として魔法による攻撃を加える。攻撃と言っても、弱い太陽属性魔法によって極軽度の火傷を負わせるだけだが。それで傷つかない場合、魔神として辺境の村に隔離される。そこは魔法文化が浸透しておらず、また兵士によって村人の出入りが厳しく制限されているため、一度隔離された魔神が外に出ることはまずない。
「今更会ったところでなんになるって話なんだがな。それでも、もう一度会いたいと思って、村を抜け出してきたんだ」
「そんなことして大丈夫なの?」
「まあ、村の出入りこそ見張られているが、村の中まで兵士が入ってくることはないからな。住人が一人消えても、中の人間が騒がなければ気づかれないさ。見つかったら処刑もあり得るから、普通はしないってだけで」
魔神が住む村など、誰も好き好んで入って来ようとはしない。だから、見張りの目さえ誤魔化してしまえば、誰も脱走には気づかないのだ。もっと言えば、脱走を許せば村の人間も処罰されかねないので、脱走者がいても黙っているのが普通だったりする。
「そこまでして妹に会いたいって……グラたん、もしかしてシスコン?」
「何とでも言え。俺にとって、唯一記憶がある家族は、親ではなく妹だったんだからな」
エーテルにからかわれても、グラは全く動じない。それだけ、妹に会いたいという思いが強いのだろう。
「ふーん。でも、妹のほうも魔神だったんじゃないの? ほら、グラたんの妹なんだし」
「それはないだろ。俺がいた村でも何度か魔神がやって来たが、兄弟揃って魔神だった奴はいなかった。双子の片割れだけとかいうのもいたし。多分、今も普通に暮らしているはずだ」
魔神というのは、別に遺伝形質ではない。そもそもその理屈で言えば、魔神は隔離され続けたことで、隔離先の地域以外では生まれなくなっているはずだ。それでも出現するということは、遺伝など関係ないのだろう。
「町を賑わせてる魔神様が、まさかシスコンだったなんて……お兄ちゃん、って呼んだほうがいい?」
「余計なお世話だ」
「……グラたん。ずっと思ってたんだけど、グラたんって童貞?」
「お前はそろそろ死にたいのか?」
どんなに挑発しようと誘惑しようと、反応が淡白なグラに、エーテルはついに地雷を踏み抜いた。さすがに失言だったと思ったのか、エーテルは即座に話を変えた。
「だとしても、見つけるのは大変じゃない? そんなに前だと顔も変わってるだろうし。どこに住んでたのか覚えてる?」
「いや、さすがにそれは覚えてないな。当時はまだ、この大陸の広さすら知らなかったし」
ここオガーニ王国は、王都の他に七つの主要都市がある。ギアを配布されるのは主にそれらの住人なので、グラの出身地もそのどれかだろう。妹が今もそこに住んでいるのなら、グラの出身地が分かれば手っ取り早かったんだがな。
「あ、じゃあ名前は分かる? もし王都にいるなら、知ってるかも」
「名前はナタリーアクト。俺の一つ下で、お前と同じ十八のはずだ」
「ナタリーアクト……うーん、聞いたことないわね。そんな変わった名前だったら、絶対に覚えてるはずなんだけど」
「まあ、期待してたわけではないけどな」
妹の名前も、グラと同じで、王国内では珍しいものだった。……この国では短い名前が主流で、彼らのように長い名前はあまりない。名字を持つ貴族ならば名前が長くなるが、それもフルネームの話であり、ファーストネームは大抵短い。だからこそ、聞いたことがあれば記憶に残りやすいのだ。
「一応、俺はナッタと呼んでいたんだが」
「ナッタ……そっちも心当たりはないわね。そもそも、私、女の子の友達少ないし」
「だろうな」
愛称のほうでも聞いてみたが、結果は同じ。まあ、そんな簡単に見つかれば苦労しないだろうが。
「一応、お城に住民票があるはずだから、調べてみれば王都にいるかくらいは分かるかもね」
「城か……」
手掛かりは城。しかし、当然警備は厳しいし、うまくいったところで情報が手に入る保証もない。妹が王都在住でなければ、住民票に名前などないのだからな。




