魔神と魔法について少し講義
「それでね、グラたん」
「ちょっと待て。今、なんか変な言葉が聞こえたんだが」
「ん? グラリアクトって長いから、グラたんでいいでしょ? 可愛いし」
そのまま話を続けようとするエーテルだったが、グラリアクトに止められてしまう。変な愛称をつけたため、それを咎められたのだ。
「そんな料理みたいな呼び方するな」
「いいじゃない。私、グラタンも好きよ。おいしいし」
「そういう問題じゃない」
彼はその愛称が心底不服のようだが、エーテルにそれを変えるつもりはない様子。
「それでね、グラたん」
「……」
再度そう呼ばれて、彼も諦めたようだ。もう何も言わない。
「グラたんって魔神なんでしょ? だから、色々と話を聞かせて欲しいの」
「それは別にいいんだが……結局、それに意味があるのか?」
「あるわよ。だって、魔神って魔法が使えないし、効かないじゃない」
魔神というのは、魔法が使えない人間のことだ。……当初、魔法が使えないのは、魔法を発動するためのギアが不完全だからとされていた。だが、幾度に研究を重ねても、全ての人間が使えるギアは完成しなかった。けれども、その過程で分かったことがある。それは、どんなに完成度の低いギアでも魔法が使える者と、逆にどんなに完成度の高いギアでも魔法が使えない者の二パターンが存在しているということだ。そして後者の場合、何故か攻撃系の魔法に対して先天的な耐性を持っていた。この特徴から、彼らはとある伝説に登場する魔神と呼ばれ、辺境の村に隔離されることとなったのだ。魔法が使えないだけでなく、魔法が効かないので、反乱を起こされたときに手がつけられない。そのための隔離措置だった。
「でも、魔神が使えるギアや、魔神にも通じる魔法を開発すれば、そんな差別はなくなるじゃない」
「……なるほど。志は結構なことだがな」
そんな、魔神に対する差別をなくすという少女の夢に、グラは懐疑的だった。彼女を疑っているというよりは、夢の実現性を疑問視している、という感じだが。
「勘違いしているようだが、別に魔神だから魔法が効かない、なんてことはないぞ」
「え? そうなの?」
まず、そもそもの前提が間違っていると、グラは言った。
「魔神だって、魔法の影響は受ける。特に、攻撃系の魔法に関しては顕著だな。さっきは平然としてたが、実際はかなり痛かった」
「で、でも、あの魔法ってボルカショットじゃない? あれが効いてるなら、絶対に火傷してるはずよ」
「いや、火傷はしていない。炎の魔法を受けて痛みを感じることはあっても、熱を感じたり火傷することはないさ」
「……なるほど。つまり、魔法属性を打ち消してるってわけね」
その話から、エーテルは一つの仮説を立てた。魔法には六つの属性があり、それぞれ魔法の根幹を成している。そのため、魔法属性が打ち消されるようなことがあれば、属性による影響は消える。けれども、属性に依存しない部分―――例えば、攻撃魔法の純粋な衝撃などは、魔神の耐性では防御できないのだろう、と。
「ボルカショットは太陽属性の魔法だから、それが打ち消されて熱の影響を受けなかった。そして私が使った隠形は星属性魔法だけど、効果は私自身に掛かるから、グラたんの目には映らなかった、ってわけね」
魔法属性は太陽、月、星の上位属性と、陸、海、空の下位属性がある。太陽属性は上位属性であり、影響力も下位属性より強い。主な作用は熱と燃焼、破壊であり、攻撃魔法として利用される場合が多いが、日常魔法では料理用の点火にも使われている。星属性は攻撃性が低いものの、光を操ったり、感知や探索に向いている。その辺りが、魔神には攻撃系の魔法が効かないという風に思われている原因かもしれない。
「じゃあ、魔神が魔法を使えないのも同じ理屈ね。自分が使う魔法の属性も打ち消しちゃったら、そりゃあ魔法も発動しないわ」
「さすがに、魔法の知識も凄まじいようだな」
「当然よ。ギアの技師になるってことは、ギア本体だけじゃなくて、魔法を使うカートリッジも作ったりするんだから」
「カートリッジ?」
「これのことよ」
グラの疑問に答えるように、エーテルは懐から小さな円盤を取り出した。手のひらに収まるほどの、鉛色をした円盤だ。硬貨ほどの厚さしかなく、その側面には正反対の位置に小さな穴が開いていた。
「ギアは魔法を発動させるツールだけど、使う魔法はこのカートリッジで切り替えるの。ほら、こんな感じでね」
そしてエーテルは、胸元からペンダントのようなものを取り出した。それはカートリッジより一回り大きいサイズで、やはり鉛色をしていた。エーテルがその表面にある窪みに指を乗せると、上面が開いて、内部が見える。上面の裏側には型番らしき番号と、「Aether」の文字が。これが、彼女がグラに要求したギアの情報だろう。エーテルはそちらではなく、内部に納められた円盤―――カートリッジを取り出して、手にしていたものと取り替えた。
「今入ってたのは隠形のカートリッジ。で、今入れたのは点灯のカートリッジね。こうやって、使う魔法ごとにカートリッジを入れ替えるのよ」
「隠形ってのは、姿を隠す魔法か?」
「そそ。正確には、姿だけじゃなくて気配とかも消せるんだけどね。点灯はお店でも買える日常魔法だけど、こっちは自作の魔法よ」
「お前、魔法の自作とかできるんだな」
「勿論よ。ま、もぐりだけどね」
通常、魔法のカートリッジはギアの専門店で購入するしか入手手段がない。だが、一般人には日常魔法と呼ばれる生活必需品程度の魔法しか販売されない。兵士のような特殊な職業ならば支給・販売されることもあるが、それ以外は正規のルートで入手できない。魔製機構技師志望のエーテルは、そのカートリッジを自作したようだ。尤も、カートリッジの製作は一級の資格がなければ出来ない。メンテナンスだけでも三級だ。四級の彼女が作るのは、違法行為とも言えた。
「宿のことといい……お前、そのうち痛い目見るぞ?」
「あら、大丈夫よ。部品のほうは専門店のおじさんから融通してもらってるし。勿論支払いは、あっちのほうだけどね」
「……もう、何を言っても無駄っぽいな」
自分もそのうち弱みを握られやしないかと、不安になるグラであった。




