仁義って何それな女の闘い
◇
……その日の夕方。
「はぁ……はぁ……」
「ハイドラ、大丈夫か?」
「は、はい……大丈夫、です」
宿場町に着いて。広場のベンチで、ハイドラがぐったりしていた。……一日中歩き続けたために、疲労が出てしまったようだな。
「ハイドラ、無理は駄目よ。慣れない長旅で疲れてるんだから、ちゃんと休んで」
「も、申し訳ありません……」
それでも無理に立ち上がろうとして、エーテルに怒られる。仕方なく、ハイドラは大人しくしていることに。
「少し休んでから、飯にするか」
「そうね。歩いたらお腹空いたし」
「は、はい……」
そうして暫くの間、彼らはベンチで休憩していたのだった。
◇
……その後、ハイドラが回復して。
「ごっはん、ごっはん~♪」
「とりあえず適当に頼んだが、良かったよな?」
「うん~♪ どれもおいしそうだし!」
ハイドラが復活したため、グラたちは夕食を取り始めた。宿場町の食堂に入り、料理を注文する。
「ハイドラもしっかり食べてよねっ! ちゃんと食べないと、スタミナつかないわよっ!」
「は、はいっ……!」
食事になって、エーテルはハイテンションだった。一方のハイドラも、長時間の移動で空腹なのか、料理が運ばれてくるのを待ち侘びている様子。
「お待たせしました」
そうして、店員が料理を運んできた。大皿のパスタとサラダ、それに鶏の唐揚げだ。
「頂きまーす!」
エーテルは自分の皿に料理を大量に取り分けると、それを次々と口へ詰め込んでいく。余程腹が減っていたようだな。
「もう少し落ち着いて食えよ。喉に詰まるぞ」
「平気平気♪」
グラが忠告するものの、エーテルは平然と料理を平らげていく。胃袋の構造を疑うレベルだった。
「ハイドラ、早く食わないとあの馬鹿に全部食われるぞ」
「は、はい……」
グラに促されて、ハイドラも料理に手を伸ばす。さすがにエーテルほどではないものの、やはり彼女も食べるのがやや速い。
「ふぅ……あっという間になくなったわね」
そうやって、彼らはすぐに料理を平らげてしまった。三人分なので多めに頼んだのだが、それでも彼らには少々足らなかったようだ。
「追加で頼むか?」
「そうね。まだ足らないし」
というわけで、適当な店員に追加のオーダーを出すことになった。……食事代が大変になりそうだな。
◇
……食事を終え、グラたちは宿にやって来た。
「そういうわけだ。そっちはそっちで仲良くな」
「納得いかないわね……」
「いや、妥当な部屋割りだろ」
宿での部屋割りで、不満を漏らすエーテル。……この宿には三人部屋がないため、二部屋に分かれて宿泊することになったのだ。そのため、グラは一人部屋を選んだのだが、それが彼女には不満らしい。
「これじゃあグラたんを襲えないじゃない!」
「襲うなよ。普通は男女別で分かれるんだから文句言うな」
「そんなの今更じゃない?」
エーテルの言葉は、襲うなということについてか、それとも男女別ということについてか。……そういえばこの三人、一緒の部屋で寝泊まりしていたな。確かに今更だ。
「じゃあ、俺は自分の部屋に行くが……ハイドラ、エーテルがこっちに来ないように、ちゃんと見張っててくれよ」
「はい、グラ様。この命に代えてでも必ず」
「ちょ、ハイドラ、それは重すぎ……」
エーテルのお守りをハイドラに任せ、グラは自分の部屋へ向かう。
「……じゃあ、私たちも行きましょうか」
「はい」
そして女性陣も、自分たちの部屋へ向かった。
「……さてと。ハイドラ、ちょっとお話しましょ」
部屋に入り荷物を降ろすと、エーテルはそんなことを言い出した。
「構いませんが……急にどうされたんですか?」
エーテルの申し出に、ハイドラは訝しげにそう答えた。……確かに、部屋に着いた途端に改まって言うことではないな。
「んー? ただ、ちょっとはっきりさせたいなって思っただけよ」
「はっきり、ですか?」
「ええ。……グラたんのことよ。女同士、腹を割って話さない?」
そういうエーテルは笑顔だったが、彼女の瞳はいつになく好戦的な輝きを秘めていた。……もしかすると、これは女の争いが展開されるのだろうか?
「……分かりました。私も、エーテル様とは一度ちゃんと話したいと思っていましたから」
その申し出を受諾し、ベッドに腰掛けるハイドラ。もう一方のベッドにエーテルが腰掛けると、二人は暫し見つめ合った。……二人の間には、何か火花のようなものが見えてきそうだ。
「……ハイドラのお屋敷にいたときは、グラたんも同じ部屋だったから、私にも遠慮があったわね。そういう意味では、グラたんが別部屋なのは好都合ね」
「前置きは結構です。仰りたいことがあるのでしたら、単刀直入にお願いします」
先に口を開いたのはエーテルだったが、ハイドラは冷たい口調で彼女の言葉を突っぱねる。ならば遠慮なくと、エーテルは話を切り出した。
「そうね……じゃあ、お望み通り単刀直入に。―――ハイドラ、あなた、グラたんのどこが好きなの?」
「……はい?」
だが、エーテルの問い掛けに、思わず間抜けな声を出してしまった。……珍しく真剣な様子だと思ったら、ただの恋バナじゃないか。
「言っておくけど、私は真面目よ。……そもそも、ハイドラはグラたんにプロポーズまでしてるじゃない。確かに貴族だったら「恋愛=結婚」って考えても仕方ないわ。でも、身分の差があるのに、グラたんにプロポーズした理由が分からないわ。言っておくけど、助けてもらったからってのはなしよ。それじゃあどこのチョロインよって話だし。それに、グラたんが魔神だって気づいてたなら、利用こそすれ結婚しようなんて普通なら思わないわ。その辺、どうなのよ?」
「……それは、どうしてもお話ししなければなりませんか?」
「ええ。このままだと、ハイドラがとんでもなく胡散臭く思えてきちゃうから。もしかしたら、グラたんをまだ利用しようとしているかもしれないって思うでしょ? まあ、焚き付けたのは私だし、そのほうが都合が良かったんだけど、今はそんなこと言ってられないし」
エーテルの意図はこうだ。セルロのときのように、ハイドラはグラを利用しようとしているのかもしれない。いや、もっと邪悪なことを企んでいる可能性もある。それを危惧して、彼女の真意を確かめているのだ。
「……分かりました。お話しします。私がグラ様をお慕いする理由を」
それを理解したハイドラは、彼女の要求を飲むことにした。彼女としても、このままエーテルに疑われ続けるのは得策ではないと思ったのだろう。




