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剣士とビッチと美少女七人(エトセトラ)  作者: 恵/.
0の章 ~再会と出会いの王都~
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潜伏先はビッチのお部屋

「ま、魔神……!?」

「魔神って、あの……?」

「そういえば、そんな噂を聞いたことがあるぞ」

 青年の言葉に、兵士たちだけでなく、彼らを遠巻きに見守っていた群衆も口を開いた。皆、魔神について話しているようだ。

「一つ言っておく。今回、俺の獲物は王様だ。さっさと王様に伝えてやったほうがいいんじゃないのか?」

 青年はそのまま、兵士たちから離れていく。だが、兵士たちは彼の後を追わない。寧ろ、見逃してくれたことに安堵しているようだった。

「……」

 青年が群衆の輪を突っ切って立ち去ろうとする。すると、群衆も彼を避けるようにして遠ざかり、道を空けた。そしてそのまま細い路地に入ると、町の裏側―――建物の隙間にある、まともな人間の寄り付かない場所までやって来た。

「……ふぅ」

 周囲を見渡し、人がいないことを確認してから、青年は一息吐いた。出したままになっている木刀をローブの中に仕舞い、壁に背を預けて楽にする。

「へぇー、噂の魔神だったんだ、お兄さん」

「……!?」

 だがその直後、傍らから聞こえてきた声に、青年は咄嗟に身構えた。

「あ、ごめん、驚かせちゃったかしら?」

「……お前、さっきの」

 そこにいたのは、先程の宿屋で受付をしていた少女だった。……青年はここへ来る途中、尾行されていないか細心の注意を払っていた。だが、この少女は彼に気づかれることなくここまでやって来ていたのだ。

「ふぅん……? 魔神といっても、別に全く魔法が効かないわけじゃないのね。一つ勉強になったわ」

「……」

 青年を興味深そうに眺める少女。そんな彼女を、青年は警戒するように見つめ返していた。

「それはそうと、お兄さん、今夜の宿はどうするの? お兄さん、多分、指名手配されちゃったわよ?」

「それを聞いてどうする?」

「うちに泊めてあげよっか?」

「断る」

 少女の申し出を、青年はすぐさま突っぱねた。目の前の少女が何を考えて彼に宿を提供すると言っているのか、青年には分からないのだ。警戒するのは当然だろう。

「言っておくけど、泊めるのは客室じゃないわよ? 私の個室のほう。多分宿検めがあるだろうけど、私室のほうまではやらないわ」

「……その分だと、宿代も高くつくだろ?」

「一夜のお相手……って言いたいところだけど、お兄さんはそういうの嫌でしょ? だから特別大サービス、お兄さんの話を聞かせてくれたら、それでいいわよ」

 兵士に追われる身となった青年に、少女は安全な宿を提供すると言う。その対価は、彼の話ときた。どういう意図なのか、青年は余計に警戒してしまう。

「……俺の話なんか聞いて何になる?」

「色々と参考になるわよ。私の夢、魔神と無関係じゃないし。ううん、寧ろ必須よ。そのためなら、犯罪者を匿うくらいなんてことないわ」

 少女にとって、彼の話は十分な価値があるらしい。だからこその申し出だというのだが……青年は、それでも迷っていた。自分の状況を考えれば、慎重になりすぎるくらいで丁度いいのだ。

「それに……もし来てくれないなら、通報してあげてもいいのよ?」

「……させると思うのか?」

「あら、私がどうやってあなたの傍まで来たのか、分かってないんでしょ? 出来ないと思ってるの?」

 それでも渋る青年に、少女は脅しを掛けてきた。ならばと口を封じようとする青年だが、彼女は意味深な言葉で彼を牽制してくる。

「タダで泊まれる安全な宿と、お城の牢屋と、どっちがいい?」

「……お前、交渉上手だな」

「あらら、お兄さんこそ口がお上手じゃない」

 正直、青年は少女を振り切って逃げることも、ここで始末することも出来た。仮に通報されても、逃げるのは簡単だ。しかし、このタイミングで得体の知れない少女を敵に回して面倒なことになるよりは、彼女の気が済むようにしたほうがいいと考える。

「……言う通りにすればいいんだな?」

「ええ。ほら、ついて来て。……あ、そうだ」

 半ば折れるように少女の提案を受け入れる青年。そんな彼を宿まで案内しようとして、少女は何かを思い出したかのように足を止めた。

「お兄さん、名前は?」

「名前?」

「うん。まだ聞いてなかったから」

 少女が尋ねたのは、青年の名。先程は名簿をつける前に彼が出て行ったので、聞きそびれていたのだろう。

「……グラリアクトだ」

「グラリアクト……まあ、なんとも変な名前ね」

「ほっとけ」

 自分の名前を変と言われ、青年―――グラリアクトは、早くもこの少女の言いなりになったことを後悔していた。

「で? お前こそ、なんて名前なんだよ? こっちに名乗らせておいて、自分だけ名乗らないとは言わせないぞ」

「私? 私の名前はエーテルよ。割とどこにでもいる、普通の名前でしょ?」

 そして、少女も名乗り返した。少女改めエーテルは、魔神と呼ばれた青年を連れて、宿へと戻るのだった。



  ◇



 ……宿に着いて。


「ほら、入って。土足で大丈夫だから」

「なんでこんなところから……」

「仕方ないじゃない。万が一、家族に見つかったらどうするのよ? 私、自分の部屋にまで男を連れ込んだことはないのよ?」

 グラリアクトとエーテルは、宿の二階にある窓から、エーテルの自室へと入った。排水管などをよじ登り、既に空いていた窓を開け、窓際に設置されたベッドを踏みつけないようにして部屋へと侵入する。

「じゃーん! ここが私の部屋よ」

「……ふむ」

 部屋に入って、グラリアクトは室内を見回した。……客室でスペースを取っている割に、彼女の個室はそれなりに広かった。意外と几帳面なのか、服は壁のハンガーに掛けられていて、皺も残っていない。本も棚にちゃんと収められているのだが、ただ二つだけ、乱雑としている場所があった。

「飾気がない部屋なのはいいが、化粧台と机が酷いな」

「あー……化粧品は使う機会が多いし、色々試してるから、どれがどれか分からなくなるのよね。商売道具だから、あまり粗末に扱いたくないんだけど」

「それと、机のほうは工具か何かか? 機械部品みたいなのも散乱してるが」

「そっちはギア関係のよ。私、魔製機構技師になるのが夢なの」

 ここオガーニ王国では、魔製機構ほど重要なものはないと言える。魔法を使うのに必須だし、最近出てきた機械製品にも魔製機構が搭載されている。そのため、魔製機構の製作・修理などを専門とする技師も一定数存在しているのだ。エーテルが言っているのもそれだろう。

「と言っても、既に四級の資格は取ってるんだけどね」

「それは凄いのか?」

「資格としては一番低いし、出来るのは簡単な整備くらいよ。でも、三級からはそれなりの学校を出ないと取れないし、その費用も馬鹿にならないから」

「それで、男に媚びて金を稼いでいるってわけか」

「ご明察。ま、金のない庶民が自分の夢を追いかけようと思ったら、多少の無茶は必要なのよ。私は寧ろ楽しんでるくらいだからそれほど苦じゃないけど、専門書を手に入れるためにキモイおっさんの相手をしないといけない場合もあるから、そういう時はお金持ちの貴族様が羨ましいわ」

 富無き者には、望む仕事をする権利もない。それがこの国の実情であり、自分の夢を叶えたいのならば、彼女のように真っ当でない道を進むしかない。なるほど、ただのビッチというわけではないのだなと、グラリアクトは思った。

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