そんな想像するだけ無駄
「グラたーん!」
「……何で入って来てるんだよ? しかも、そんな格好で」
シャワーを浴びながら考え事をしていたら、エーテルがシャワールームに入ってきた。それも、バスタオル一枚という際どい格好で。髪はしっかり結ってあるし、化粧も万全なので、シャワーを浴びることだけが目的でないのは一目瞭然だ。っていうかいつの間に……?
「んー? だって、すっぽんぽんよりも、こういうチラリズムが大切じゃない。シャワーの勢いでタオルがポロリとするかも……っていうロマンがないとね」
「そういう話じゃないっての。いいから出てけよ」
「えー? いいじゃない。ここ、広いんだし」
エーテルが言うように、シャワールームはかなり大きめに作られていたため、二人で入っても窮屈に感じない。ただ、それとこれとは別の話だと思うが。
「それにぃ、グラたんとはちゃんと裸のお付き合いしたことなかったし。うわっ、やっぱりいい体してるわぁ」
「何見てるんだよ」
エーテルの視線に、グラは不快そうに顔を顰める。……グラの筋肉質な体が、エーテルは気に入った様子だ。グラがタオルで局部を隠しているのは、この状況を心のどこかで察していたからか。
「何って、ナニ?」
「出てけ……!」
「やん……!」
そして彼女の視線がその局部に移った辺りで、グラの我慢も限界に達した。エーテルを追い出し、そっと溜息を吐く。
「ったく……あいつにも困ったもんだ」
相変わらずのエーテルに、グラは頭を抱える。……彼女がグラに執着しているのは、彼が彼女の誘いに応じにないからだ。故に、一回でも彼女を抱けば、エーテルはグラに付き纏わなくなるだろう。それが分かっていても、彼はそうしてやれない。
「……ナッタがあんな風になってたら、俺は自殺しかねんぞ」
グラは、妹に似ているエーテルを女として見ることが出来ない。そうでなければ、彼女の誘惑を振り切ることなど出来なかっただろう。
「……ふぅ」
つい、妹がビッチになっている光景を思い浮かべて、グラは苦虫を噛み潰したような顔をするのだった。
「んもぅ……グラたんてば相変わらずなんだから」
その頃、シャワールームの外では、追い出されたエーテルが不貞腐れていた。因みに、ハイドラはいない。彼女も既に起きていて、身支度のために自室へと戻っていったのだ。
「でも、やっぱりグラたんはいい体してるわぁ。あれはちょっと手放せないわね……」
グラの裸体を思い出し、エーテルは不気味な笑みを浮かべている。ここにハイドラがいれば、確実に怯えさせていただろうな。
「おっと……まだシャワー浴びていないのに、濡れちゃうところだったわ」
エーテルは一旦着替えることにした。いつまでもタオル一枚では風邪を引いてしまう。
「さてと……じゃあ、朝御飯まで、お屋敷の中でも探検しようかしら?」
着替えを終えて、エーテルは部屋を出る。そしてそのまま、気の向くままに屋敷内を散策する。そこでふと足を止めて、廊下の窓から外を―――噴水広場を見下ろした。
「昨日も思ったけど……やっぱりここ、月属性が強い気がするわ」
噴水広場を眺めて、エーテルはそんな感想を漏らした。……魔法の属性は、その源となる力によって決められている。魔法の力はありとあらゆる物に秘められていて、例えば水には海属性、土には陸属性、炎には太陽属性という具合だ。そして、エーテルはこう言っているのだ。この屋敷には、月属性の力が多く込められている、と。
「魔法研究をしてるらしいから、そのせいだと思うんだけど……でも、妙ね」
自らギアを製作するだけあってか、エーテルは魔法属性に敏感なところがある。だからこそ、その違和感に気づいた。……通常、月属性が含まれるのは海水と一部の植物だ。しかし、この屋敷は全体的に月属性の力が強い。庭には植物が植えられているからそのせいなのかもしれないが、屋敷の中にいても分かるほどの気配となると、普通ではない。通常の建材は陸属性だし、屋敷内で魔法研究をしている事情があったとしても、室内で強い月属性が発生すること自体が異常と言えた。だからこそ気に掛かるのだ。
「気になるのかい?」
思考に耽るエーテルに、声を掛ける者がいた。フタレイ子爵だ。
「あ、小父様」
「エーテルさんは、魔法について造詣が深いみたいだな。よければ、後でうちの研究施設を見ていくかい?」
彼女の呟きを聞いていたのか、フタレイ子爵はそんなことを言い出した。
「いいの? 私、教養のないただの小娘なんだけど」
「勿論。君たちにはハイドラが世話になったからね。ただ、全部というわけにはいかないから、見せられるのはほんの一部になるけど」
「願ったり叶ったりよ!」
子爵の申し出に、エーテルは心底喜んだ。貴族が独占している魔法研究を見学できるのだ。彼女にとっては、この上ない幸運だろう。
「朝食の用意が出来たら呼ばせるから、その後にしようか。楽しみにしていてくれ」
「はぁい」
エーテルにそう言い残して、フタレイ子爵は去っていった。
「あの小父様、思った以上に太っ腹じゃない。後でサービスしてあげようかしら?」
「エーテル様?」
フタレイ子爵に好感を覚え、そんなことを漏らすエーテルの前に、今度はハイドラが現れた。
「どうかなさいましたか?」
「ううん、なんでもないわよ、いやほんとに」
「?」
ハイドラに問われて、エーテルは誤魔化すように両手を振った。……さすがに、父親にむにゃむにゃしてあげると、娘に聞かれるのはまずい、くらいの良識はあったようだ。
「着替え、終わったみたいね」
「はい。今日は動きやすい格好にしてみました」
そしてそのまま話題を逸らすエーテル。……ハイドラが身に纏っているのは、白の簡素なドレスだった。昨日のものと比べて飾りは少なく、精々胸のリボンタイくらいだ。それでも、布地はエーテルの服とは比べ物にならないほどの上質なものだったが。
「さっき、小父様が魔法研究を見せてくれるって言ってたの」
「そうなんですか? それは良かったです。エーテル様のお役に立てばいいのですが……」
そしてエーテルは、ハイドラにフタレイ子爵からの誘いについて話す。……ハイドラには、昨晩のうちに、色々と話しておいた。例えば、エーテルがギアの技師を目指していることについても語っている。
「折角のチャンスだもの、穴が開くくらいしっかり見てやるわ」
「穴は、開かないと思いますけど……」
意気込むエーテルに、ハイドラは妙な突込みを入れるのだった。




