そしてそのままお泊り会
「さ、こちらです」
「わー! いい部屋じゃない!」
ハイドラに案内された部屋は、広い三人部屋だった。並んだ三つのベッド以外にも、ソファやワインセラーなど、数々の調度品が部屋を飾っている。シャワールームも完備で、この部屋だけでも生活できそうな状態だった。
「後ほどまた伺いますので、それまでごゆっくり」
案内を終えて、ハイドラは部屋を出て行った。父親のところへ戻るのだろうか?
「良かったわね、グラたん。うわっ、このベッドいい感じー!」
「まあな。ただで泊まれるにしては豪華すぎる気がしないでもないが。っていうか、はしたないから止めろ」
ふかふかのベッドへ飛び込むエーテルと、それを窘めるグラ。……ベッドに乗っかって脚をバタバタさせているため、ミニスカートが捲くれ上がっている。中身まではぎりぎり見えていないが、偶然なのか、態とそうなるように狙っているのかは分からない。
「でも、こんだけいいベッドだと、ヤることヤるのも躊躇いそうよね。シーツ高そうで、汚すと悪いし」
「まず最初に浮かぶ感想がそれかよ……一応言っておくが、後でハイドラも来るんだからな。少しは自重しろよ」
「分かってるわよ。でも、ああいう初心そうな子を見ると、色々じれったいのよね……」
グラに言われて、エーテルは、ここへ来た目的を思い出す。……ハイドラに依頼されたのは、彼女の身辺警護だ。誘拐未遂の直後だし、兵士は当てにならないからと、用心棒を頼まれたのだ。
「まあ、顔見られたからには、口封じも考えられるし。そうなった以上、不安に思うのも無理ないと思うけどね」
「ああ。……だが、やはり腑に落ちないな」
「何が?」
グラが上げた疑問の言葉に、エーテルはそんな声を漏らす。
「ハイドラのことだ。……ハイドラは、俺たちを用心棒にしたことを、父親に言わなかった。あの場は何か意図があるのかと思ったのだが……よくよく考えたら、話さない理由が思い当たらない」
「あ、そういえば……」
グラが不審に思っていたのは、先程のハイドラについてだ。父親に事情を話したとき、彼らを用心棒にするとは一言も言わなかった。それを言っておけば、グラたちを泊めることだってすぐに了承してくれただろうに。
「でも、考えすぎじゃない? 単純に言い忘れただけかもしれないし。それか、お父さんが遠慮しちゃうからとか」
「それならいいんだが……」
なんとも、ハイドラに対する不信感が拭えないところがある。とはいえ、現状では然程気にすることでもないのだが。
「それにしても、用心棒って具体的に何をすればいいのかしら?」
「さあな。とりあえず、日中は護衛してればいいんだろうが……」
用心棒として依頼を受けたが、さすがに四六時中警護は出来ない。まあ、この屋敷にまで賊が入り込むことは考えにくいだろうし、そこまでする必要はないか。
「その辺のことはハイドラに聞くしかないか」
「そうね。……にしても、ハイドラはどこに行ったのかしら?」
ハイドラは、部屋を案内した後、どこかへ行ってしまった。また来ると言っていたから、すぐに戻るだろうが。
「ま、その間、乳繰り合いながら待ちましょう」
「誰がするかそんなこと」
「遠慮しなくていいのよ。ベッドを汚せなくても、シャワールームだってあるし、そっちでヤればいいじゃない。あ、何なら外でもいいわよ? 夜の薔薇園とか、ムードあっていいと思うし」
「場所の問題じゃないってことに気づけよ」
上目遣いに、挑発するように誘惑してくるエーテルに、グラの態度は相変わらず。……というか、その発言自体がムードの欠片もないわけなのだが。
「ん?」
そんなことを話していると、ドアがノックされた。ハイドラが戻ってきたのか。
「どうぞー」
「失礼します」
部屋に入ってきたのは、やはりハイドラだった。ただし、服装は先程のドレスと違い、白のネグリジェとなっている。こちらもフリルがあしらわれていて、少女らしい可愛らしさに溢れている。
「寝巻き姿で申し訳ありません……やはり、一人だと不安で眠れないものですから」
「っていうことは、ここで寝るの?」
「はい……その、お二人が、ご迷惑でなければ」
そしてハイドラは、予想外の爆弾発言をする。……まさか、夜通し護衛して欲しいと言って来るとは。
「いいけど……グラたん」
「何だよ?」
それに対してどう答えようか考えていたグラだったが、そこへエーテルがこう言い放った。
「ちょっと色々準備するから、お散歩してきて」
「あの、えっと……グラ様を追い出して、本当によろしかったのですか?」
「ああうん、いいのよ。女の子同士の話もしたかったし」
グラを部屋から追いやって。エーテルとハイドラは同じベッドに寝転がっていた。親睦を深めるにはこれが一番なのだとか。……というか、エーテルだけでなくハイドラまでグラのことを渾名で呼び始めたな。ハイドラはまだ「様」がついてるだけマシだが。
「ですが、お二人は恋人同士なのでは?」
「恋人? 私とグラたんが? そんな風に思ってたんだ」
「違うのですか?」
ハイドラの言葉に、エーテルは失笑を禁じえなかった。それと同時に、彼女がとても初心であることも、改めて理解した。
「そりゃあね、私だって悪くないかなって思ってるのよ。でも、体の相性もあるし……そもそもグラたん、誘っても突っぱねるのよね」
「はぁ……ともかく、グラ様とエーテル様は、お付き合いされているわけではないのですね?」
「まあね。私のほうは割と乗り気なんだけど……っていうか、そういうハイドラはどうなの? さっきからやたらと興味津々だけど―――もしかして、グラたんのこと気に入った?」
「え、えっと、その……はぅ」
エーテルに指摘されて、ハイドラは顔を真っ赤に染めてしまう。どうやら図星らしい。
「まー仕方ないわよね。グラたん強いし。イケメンだし。あれで肉食系だったら、丁度いい○フレだったんだけど」
「○フレ……?」
「○フレって言われても分からないわよね……いいわ。私が一肌脱いであげる。グラたんのことは私に任せなさいっ!」
伏せないと各方面からお叱りが飛んでくるような単語も、ハイドラは知らない様子。そんな彼女を見かねたのか、エーテルはやたらと強気にそう言った。
「よ、よろしいのですか……?」
「うん。ぶっちゃけ、グラたんのことはそこまで執着してるわけでもないのよ? ただ、たまに借りていくけど、そこは悪く思わないでよね。性欲処理には都合良さげだし」
そうして、エーテルとハイドラの奇妙な共同戦線が張られたのだった。




